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白暦二一一二年一月七日(3)

「珍しい言祝鳥(ことほぎどり)だからな、それしか記録が残っていないのだよ。何はともあれ、おめでとう。このまま会議室を出て、宵雀(しょうじゃく)のオフィスに向かうように」

「了解であります」


 配属式だというのに、岩竜(がんりゅう)鉄甲(てっこう)竹猫(たけねこ)宵雀(しょうじゃく)、或いは統括オフィスのどこに配属されるか決まってないなんて、少しおかしいとは思っていたけど、こういうことだったのか。

 そして僕が配属されるのは宵雀(しょうじゃく)、……宵雀(しょうじゃく)ね。はっきり言って知らない。一応、小規模霊力等犯罪に対応する部隊である、とは訓練時の教本で学んだのだけど、実際、帝都の街中では見たことがない。もしかしたら、見たことはあるのかも知れないけど、記憶に全くない。つまり、言っちゃ悪いがマイナー部署であり、岩竜(がんりゅう)に配属されるのだろうなとぼんやり思っていたから、オフィスの場所も確認していなかったのだ。

 そういうわけで、そそくさと、いや、こそこそとエレベーターホールで案内板を確認する。それによれば、この星読(ほしよみ)本署の建物は、二十五階建てで、上空から見るとどこかの国防総省みたいに五角形をしているようだ。気になる宵雀(しょうじゃく)のオフィスはどこかと探せば、どうやら同じ一階にあるらしい。

 一階は桔梗の花びらのように分かれ、更に内側と外側を分断するようにぐるりと通路が通っていることから、都合一〇ブロックあるようだ。目指す場所は入口に最も近い外側のブロックにあった。

 幸いにしてエレベーターホールからも近く、僕は意気揚々と〈宵雀(しょうじゃく)〉のオフィスに入ったのだが――


「遅かったな」


 中にはすでにクロードさんが待ち構えていた。

 そればかりか、同じ黄色の制服を着た新人さんたちもいるではないか。

 入口ドアから見て右手にはクロードさんともう一人の黒っぽい制服の人がいて、左手には僕と同じ黄色い制服の塊が見える。

 僕は慌ててその黄色い塊の横に並び、ビシッと背筋を伸ばした。


「それでは明星(あかぼし)リサ隊長より挨拶がある。皆、心して聞くように」


 クロードさんの紹介で、女性が一人、僕たちの前に現れた。見たところ身長は僕と同じくらいで、女性としては少し高い部類。背の高いクロードさんよりは当然低い。背中まであるアプリコットブラウンの髪は、うなじの辺りで束ねているようだ。顔は……ネコ科?


「万年人手不足の宵雀(しょうじゃく)によく来てくれたにゃ!」


 にゃ!?


「心から歓迎するにゃ!」


 にゃ!


「あとは面倒くさいからクロちゃん、よろしくにゃ!」


 にゃ!

 それはともかく、言われたクロードさんは苦虫を嚙み潰したような顔で明星(あかぼし)隊長を見ていたが、当のネコ科の女性は知らんぷりである。

 やれやれといった感じで溜め息をつくクロードさん。

 なるほど、これはクロードさん大変そうだ。蔵人(くろうど)ならぬ苦労人(くろうど)に違いない。


「では、自己紹介を始めようか。すでに顔を合わせたが小生は佐々木クロードだ。宵雀(しょうじゃく)の副長を任されている。隊員はもう一人いるが、そちらはパトロール任務中のため、後で挨拶させよう。それでは新人は……ナナキくん、君から頼む」

「はい!」


 僕は一歩前に出て部屋の内側に体を向け、できるだけハキハキと声を出す。


「小官の名前はナナキ・ウィークエンドであります! 市民を犯罪から守るために入隊いたしました!」


 言えた。完璧な自己紹介だ。小さく「おー」という声と拍手が聞こえたから、きっとうまくいったのだ。


「次!」


 クロードさんの号令で、今度は隣の新人が前に出た。

 同僚になる人間をじろじろと観察してみれば、それは背の小さな女性で、髪の毛は赤紫のローツインテールといったところだろうか。青い瞳はくりくりとして小動物みたい。その声は声優みたいに高くてよく通る。


「やっほー、みんなのララ・ラズベリーが来たぜ! おいら、機動兵装のクイナに乗りたくて入隊しました!」


 うん、変わった女の子だ。

 怒られるんじゃないかとハラハラしたが、明星(あかぼし)隊長は普通に笑っているので問題なさそう。


「……次!」


 クロードさんは少し顔がひくついているが、説教するようなことでもないのだろう。

 さてお次はと、前に歩み出た新人さんを見れば、今度も女性だった。身長は僕より少し低いくらいで、体の線はどちらかと言えば細い。切れ長の瞳に、オレンジブラウンのおかっぱ頭は、控えめに言って美人で、僕は思わず見惚れてしまった。彼女も僕をじっと見て、そして口を開いた。


「……近寄ったら、殺す」


 その声は低くて重い。

 ていうかなにそれ恐い。殺さないで。しかも、名前を言ってないし。

 クロードさんは何かを言いたそうだったが、明星(あかぼし)隊長はお腹を抱えてゲラゲラ笑っているし、本人も元の場所に戻ってしまったので、どうでもよくなったのだろう。


「次、最後!」

「はい!」


 最後の新人さんは声からして男である。しかも、低くて甘い、モテそうな声だ。

 容姿を見れば、身長は高くてクロードさんと同じくらい。顔の彫りは深く、精悍な顔つきと言っていいだろう。その甘やかな容姿を、焦げ茶の柔らかい髪がより引き立てているようにも見える。先ほどの〝殺すさん〟が美女なら、こっちは美男である。

 そんな彼が口を開いた。


「拙者の名前はバルタザール・ゴシャールでござる!」


 拙者!?

 ござる!?


「幼女を悪の手から守るために入隊したでござる!」


 ……父さん、母さん、姉さん、お元気ですか?

 僕は今日、憧れの星読(ほしよみ)に正式に入隊しました。同僚には変な人しかいませんが、元気にやっていきたいと思います。……いや、この職場、大丈夫?


序章を最後まで読んで頂きありがとうございます!

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それは創作活動のエネルギー源になると同時に、あなたの好きな作品を書く作者が小説家になろうに残る理由になります!


それでは引き続き本編をお楽しみ下さいませ。

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