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暁に雀は詠う ― 小規模霊力等犯罪対応部隊〈宵雀〉忘備録 ―  作者: 津多 時ロウ
第一部 ミッション6 神様強盗団事件 全4話

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神様強盗団事件(1)

 白暦二一一二年二月九日未明。一軒の民家が、銃で武装した男たちに襲われていた。


「金を出しな!」

「ひぃぃ!」

「どうして、どうして強盗なんか!?」

「どうしてって、そりゃあ、俺たちは神様だからさ。神様は何をしたって許される。だから俺たち〈神様強盗団〉も〝お賽銭〟を集めるために、何をやってもいいんだぜ」



  *  *  *



 父さん、母さん、姉さん、お元気ですか?

 僕はもうすっかり自信を無くしてしまいました。だって、見ただけで胃もたれがするショコラグランデ・ザ・タワーが、たった二人の女性によって平らげられてしまったのですから。実にほれぼれする早食いで、僕はもうすっかり男としての自信を失ってしまいましたが、今日もなんとか元気です。


「全員、ただちに第一会議室に集合!」


 その日は、非番やシフト外の隊員も呼び出され、クロードさんの号令の下、宵雀(しょうじゃく)の全員が本署一階の大きな会議室に集まった。あ、全員じゃなかった。我らがニャンコ隊長だけは、書類の処理が間に合わないにゃー、とか言って欠席したのだった。

 そうして第一会議室の少しいいイスに座って、改めて皆を見る。

 一人、二人、三人……うん、六人いる。いや、待てよ。それはおかしいぞ。もう一度数えてみるか。一人、二人、三人……うん、やっぱり六人いる。

 えーっと、隊長も含めると宵雀(しょうじゃく)の隊員は全部で七名。そして、今はニャンコ隊長がいないから、この室内にいるのは、僕も含めて全部で六人のはずだ。なのに僕以外が六人いて、一人多いことになる。なぜだ。

 今度はもう一度指差し確認しながら数えるか。

 えーと、ゴザルくん、よし。平岩先輩、よし。ちっさい子、よし。クロードさん、よし。上坂さん、よし。ちっさい子、よし。

 あれ、おかしくないのか。

 いやいやいや、ちっさい子が二人いる。おかしい。この中に誰か部外者が紛れ込んでいるということだ。いったい誰だ。

 などと、ちょっとした推理ゲームを始めてもいいんだけど、推理するまでもなく、クロードさんは答えを教えてくれた。


「こほん。本日は、協力要請の関係で、警察からお客様が見えている。それでは有沢(ありさわ)(はな)三尉(さんい)、ご挨拶をお願いいたします」


 そうしたら、警官の制服を着たちっさい女子が前に出て、ちょこんと僕らにお辞儀をするではないか。自然に溶け込んでたから、まんまと騙されてしまった。まあ、制服が違う時点ですぐ気付くだろとは思うんだけど。


軍部(いくさべ)帝都警察三尉、有沢花であります。本日はお時間を頂きありがとうございます。よろしくお願いします」


 それにしても有沢さん、いちいち可憐でかわいらしい。

 栗色のセミロングにくりっとした栗色の瞳は、全体的にリスを連想させて止まない。

 多分、皆こう思っていることだろう。


((((((ちっちゃくてかわいい))))))


 そんなちっちゃくて可愛いくりくりとした有沢三尉が、この殺伐クラブ然とした宵雀(しょうじゃく)にいったい何の用があるのだろうと思ったが、クロードさんがちゃんと言ってた。協力要請だって。


「報道でもあった通り、昨日未明、門内のとある住宅に拳銃を持った複数の男が押し入りました。目的は金品で、住民にはケガ人も出ています」


 ふむ。まあ、これはよくある、よくあってはいけないのだが、よくある強盗の手口で、今のところ、宵雀(しょうじゃく)が絡む要素は無いように思える。


「実を言うと、発表されていない事件も含めると、この一週間で四件も同じ手口の強盗傷害事件が発生しているのです」


 数は多いし、異常事態といえばそうなんだけど、まだ宵雀(しょうじゃく)が絡む事件ではないな。


「これだけなら、我々警察だけで担当するところですが、今回、皆さんに協力を要請するのは、とある特殊な事情があるからなのです」


 ほほう。聞かせてもらおうか、その特殊な事情とやらを。


「まずはこの強盗団、わざわざ被害者たちに神様強盗団と名乗り、お賽銭と称して金品を強奪しています。次に、現場から僅かながら霊力の痕跡が発見されています。一件だけではなく、四件ともです。こうなれば我々の手に負えないことも予想されますから、今回、協力を要請したものであります」


 ちっちゃくてかわいいとばかり思ってて忘れてたけど、花ちゃんって三尉だな。

 おいくつなのかは知らないけれど、二十代前半で三尉ともなれば、帝都警察ではエリートなんじゃないか? そうとなれば、この事件、協力とは言え、そうとう気を引き締めて臨まなければならないのではないだろうか。

 ほら、ゴザルくんもかなりやる気になってるし。花ちゃんがちっちゃくてかわいいせいかも知れないけどね。


「有沢三尉、席へお戻りください。えー、ここからは私が説明する。警察から提供されたデータは、すでに星読(ほしよみ)のサーバーにコピーされているので、あとで確認するように。我々が明らかにしなければならないのは、主に二つ。一つは現場に残されていた霊力痕の正体、もう一つは強盗団が本当に神様かどうかだ。比較的、規模の大きい事件だが、宵雀(しょうじゃく)の捜査の指揮は、多忙の明星(あかぼし)隊長に代わって小生が()る。また、現場での捜査は、平岩、ナナキ、ゴシャールに。集めた情報と天網(てんもう)、ヤタガラスの分析はララと上坂に任せる。全員、直ちに資料の確認と、平岩たちはその後、四件の現場を調べるように。以上、解散」


 何度も言うが、ゴシャールとはゴザルくんのことだ。ただの幼女好きな変態かもしれないが、彼にも変態なりにちゃんとした名字と名前があるのである。

 さて、早速オフィスまで皆で戻り、それぞれの端末で事件の資料を確認する。平岩先輩が舌打ちしながら「めんどくせえ。なんで岩竜(がんりゅう)じゃなくてうち(宵雀)なんだ?」などと漏らす。ちなみに今日はスーツじゃなくて、ちゃんと制服姿だ。

 今回の事件は凶悪事件の部類に入るだろうし、捜査にそれなりの人手を割いた方がいいようにも思われるから、言われてみれば確かにそうなのだが、こっちに振られちゃった以上はやるしかない。


「もー、クリぴょん先輩、真面目にやるのだぴょん」


 ちょっとララちゃんさん、先輩にそんな言い方したら……あれ?


「お、おう」


 なんかちょっとバツが悪そうな顔をしたから、あの人、ララちゃんが苦手みたい。

 そんな面白いことよりも、今はララちゃんの言う通り、真面目に捜査資料を眺めなければならない。その〈神様強盗団〉などというふざけた名前の輩が、再び市民に危害を加える可能性があるからだ。

 そうして監視カメラの映像や被害者の証言、現場写真、鑑識結果などの豊富な資料を一通り見終えたタイミングで、パンと手を叩く音がした。


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