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2. スワンと春菜と二人の愛の行方

(スワンと春菜と二人の愛の行方)


 春菜のペンションに着くと、下界は山の上より、さらに暑かった。

 春菜のペンション・スワンは、木造三階建。一階は喫茶レストランになっている。

 平日とあって、喫茶レストランの席には、お客は誰もいなかった。

「いらっしゃい……、ヒロちゃん、失業したんだって……?」

 春菜の母が店にいて、春菜から聞いたのか、恥ずかしい話題が飛び込んできた。

「今日、天文台が突然閉鎖されたんです。無茶苦茶ですよ!」

「二人揃って、困ったことになったわね……」

「学芸員なんか、そうそう、空きなんか無いし、つぶしが効かないから……、これから探しますよ……」、  ヒロは、頭をかきながら、空いている席に座った。

「でも、これからカズ君の別荘へ行くんでしょう。遊んでていいの……?」

「人聞きの悪いことを言わないでくださいよ……、別荘と言っても親父が作った天文台ですから、観察の続きをするんですよ。私の仕事ですから……」

 カズヤ教授が、体裁が悪そうに笑って説明した。

「それよりも、アイスコーヒー、二つくださいよ」

「はいはい、……」

 春菜の母は、笑ってキッチンに入って行った。

「別荘でも観測できるのか?」

「天文台と並行して、別荘でも追認できるようにしていた。結果は一致している」

「ますます、ことは重大だな……、でも、そんなことなら、他の天文台、研究施設でも分かっている事だろう。特に気象庁は……」

「そう思うんだが……、それで先週、国立天文台に太陽に関する資料を送った。それで、今週のこの騒ぎだ。何か関係があるとは思わないか?」

「それで国立天文台は何て言ってきたんだ?」

「返信はなしだ……、花山にも送ったが、未だに返信はない……」

「花山も国立だからな……、うー、海外の天文台は……?」

「それを、これから別荘でやろうと思っている。まずはハワイかな……」

「マウナ・ロアか……?」

「今、米国は信用できないけどな……、でも、日本でも同じか……?」

「お待たせ……、急に一泊旅行なんて言わないでよねー」

 春菜が、よそ行きの奇麗なワンピースで、大きなバックを提げて出てきた。

「二泊しかできないわよ。水曜日には宿泊のお客さんが来るから……」

「えー、二泊もできるの? それは嬉しい……、ゆっくりできるね!」

 ヒロは春菜を見上げて、嬉しそうに言った。

「できないでしょうー、次の就職口を探さないと……」

「気が重いなー、……」

「学芸員なんか、こね使って、よっぽどか探さないと、就職口なんか無いわよ」

「別に学芸員でなくてもいいけどな……」

「私たちの将来はないわね」

「えー、就職したら結婚してくれるつもりとか?」

「そうは、言ってないわよ……」

「そう、聞こえたけど……?」

「だって、何処に就職するか分からないじゃない。私、貧乏は嫌よ……」

「愛があれば、貧乏でも幸せじゃないかな。一杯のラーメンを二人で分け合って食べるとか……、ダイエットになって、一石二鳥だ……」

「愛があっても、そんな人と結婚なんかしないわよ。ヒロちゃん、ずーと、いいお友達でいましょうね……」

「愛の終着が結婚じゃ―ないのか?」

「愛なんか、何処にでもあるのよ。結婚のための愛、友情の愛、親子の愛って言ってね」

「愛する気持ちは、みんな同じで、一つじゃないのか?」

「ヒロちゃん、まだまだ子供ね。そんなのは、子供が描く幻想よ……、大人になると、さっき言ったみたいに、愛の対象で色々別れるのよ」

「じゃー訊くけど、結婚のための愛ってなんだ?」

「簡単よ! 貴方がボケて、よぼよぼになっても、それで動けなくなって、寝たきりになっても、介護していて、一緒にいて、それでも幸せを感じられる人、そう思える人と結婚するわ……」

「はーん……、それこそ幻想だよ。僕が、よぼよぼになって寝たきりにならないと分からないじゃないか?」

「分かるわよ……、ヒロちゃんなら、一生、どんな姿になっても、面倒を看てあげられる。傍にいるだけで、幸せだから……」

「えー、それってプロポーズ……?」

「違うわよ、でも今のヒロは駄目……、貧乏は嫌って言ったでしょう。永遠にお友達でいましょうね……」

 春菜は立ったまま、座っている僕たちを見下ろしながら、愛することを語っていた。

「また、それを言う……、結婚の誓いの言葉に、病める時も健やかな時も、貧しいときも富めるときもってあるじゃないか……?」

「それは、結婚してからのことでしょう。結婚の前から貧しかったら結婚しないわよ!」

「はーあー、……、神父さんを恨むよ……」

 カズヤは呆れたように、アイスコーヒーを飲み乾してから笑った。

「いつ見ても仲がいいね。君たちは……、でも結婚するなら、早い方がいいよ。二人でいられる時間は、後わずかだ……」

「だから、結婚しないって……」、春菜は、向きになって怒って見せた。

「それより、カズ君はどうするのよ?」

「俺か……? 俺は、とりあえず企業からの太陽光パネルの仕様観察を続けるよ。突然、閉鎖になって、先方も心配しているだろうからな。実験期間は、後一年以上残っているから、終わらせないと……」

「カズヤはいいよ、社長の息子だから、父親の会社に入れてもらえればいいじゃないか?」

「バーカ、次期社長は決まっているし、世襲はしないと言うのが会社の方針だ。大企業だからな。それに株式だから、私物じゃないし、親父の力は微力だ……」

「大きすぎるのも問題だ」

「そう言うことだ。でも親父には感謝しているよ。親父も天文学者になりたかったみたいで、星が好きで、宇宙が好きで、天文台の別荘を作ったくらいだからな。小さい時から、親父に付いて行って、星を一緒に観察していた。俺は、親父の夢の天文学者になったけどな。逢うと、オリオン座の超新星爆発のことで話の花が咲くよ……」

「ベテルギウスだな……、赤色超巨星、見せてやりたいな……」

「俺もそう思っている」

「私も、見たいな……」

「じゃー、見に行くとするか……」

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