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1. 閉鎖された天文台

(閉鎖された天文台)


 地球が太陽の周りを回りだして、何年になるだろう……

 それを今の私たちが感じるものは、何もない……

 しかし、人でいえば、時間と共に成長していくように、その姿は刻々と変わっていくに違いない。

 地球が年を取ったと感じるものは、人類が汚してきた地球環境かも知れない。

 産業革命以来、地球の老化は激しい。

 地球が太陽の周りを回る様に、太陽も銀河の周りを回っている。

 太陽の公転日数は銀河年と呼ばれ、二億二六〇〇万年とされている。

 私たちは今、銀河を回っている。

 そして、太陽が銀河を回りだして、どれだけ時間が過ぎ去ったのか、誰も知らない。

 しかし、この物語は、地球の近い未来の出来事であることだけは間違いないようだ。


「……、何事だ!」

 天文台の門の前には規制線が張られ、一年前に設立した国防軍が自動小銃を持って封鎖していた。

「ここから中には入れません」

 数人の職員が門の前で立ち往生していた。

「天文台の職員だ!」

「職員でも中には入れません。皆さんはすでに解雇され、それなりの報酬は口座に振り込まれているはずです」

「どう言うことだ!」

「詳しくは、メールで各人に送られているはずです」

 ヒロは、早速スマホを開いた。

「所長をはじめ幹部五人が国家的犯罪で逮捕された……?」

 メールの冒頭にはそう書かれていた。

「露国のスパイだそうだ」、そう言って、近づいてきたのは、同僚のカズヤ教授だった。

「どうする……、まだデスクに資料やら私物があるのに……」

 ヒロは困り顔で、カズヤ教授に訴えた。

「入れてくれそうにないな……、天文台はスパイの本拠地だそうだ。余り周りをうろつくと、俺たちまでスパイにされそうだぞ」

「テレビのニュースで、露国軍の動きが可笑しいと言っていたな?」

 ヒロとカズヤ教授は、規制線から逃げるように駐車場へと歩き出した。

「そんなのは、一昨年からだ。それで去年、国防軍を作ったんだ」

「よく憲法違反と騒がれなかったことも可笑しいと思っていたんだ」

「余りにも、切迫していたからな……、憲法はいじらず、超法規的処置で、国会を通した。有事が目の前だから、だれも反対しなかった」

「正論より、我が身が可愛いと言うやつか……、それなら、もっと前から国防しろよって感じだけど……」

「米国が引いたんだ……、国防軍設立と同時に米国の国内基地を国防軍に明け渡して出て行った……」

「まるで露国に譲り渡した格好じゃないか」

「それで、核戦争が回避できれば安いものさ……」

「日本は生け贄か……?」

「米国から見れば、こんな小さな極東の島国、どうでもいいのさ……」

「そんな、どうでもいい小さな島国、何で露国は欲しいのか?」

「隣の国だからじゃないのか……? 択捉、国後から攻めて来れば、すぐだからな……、今までは米国が居て手が出せなかっただけだ」

「血を流してでも欲しいのか、露国の大統領は……?」

「自分の血じゃーないからなー、それに日本びいきだそうだ……」

「観光でもしたいのか?」

「さー、なー、……」

「そんなことは、どうでもいいけど……、それよりも、就職しないと、失業保険って何か月もらえるんだ?」

「さー、知らないけど……、それより家の別荘に行かないか。阿智村にあるんだが?」

「今日はハルと夜、逢う約束なんだ」

「春菜も連れて来ればいいさ、星が奇麗だぞ……、きっと喜ぶんじゃないか……」

「そうか、まー、失業の身の上だからな。毎日が日曜日だから気晴らしにいいかもねー」

 ヒロは携帯を出して、春菜にメールをした。

 春菜の家は麓でペンションをやっている家の娘で、彼女も店を手伝っている。

 メールの返事はなかったが、とりあえずペンションに向かうことにした。

「車は、天文台の駐車場に置いて行けばいいさ、どうせ、閉鎖されているんだからな」

「そうだな……、乗せて行ってくれるのか?」

「二台で行くこともないだろう」

「それは、ありがたい」


 天文台は山の頂にある。見晴らしがよく、広々とした高原を隅々まで見渡せた。

 ヒロはカズヤ教授の車で、山の麓にある春菜のペンションに向かった。

 外にいるのに比べて、車の中はエアコンが効いていて涼しい……

 野辺山、清里と高原地帯を走っているのに、車でエアコンを入れないと居られないとは、地球の温暖化も極みまで来たのかもしれない……

「実は、話があるんだ……」

「何だ、困りごとか?」

「困りごとと言えば、困りごとだけど……」

「困っているのは、こっちだよ……、就職先を探さないと……」

「それはそれ、そっちに置いて、実は企業の依頼で、新しい太陽光パネルの仕様実験をしていただろう……」

「あのフイルム型パネルか……? よく持っているじゃないか、フイルムだから、すぐに駄目になるかとい思っていたが、四年ぐらいじゃ―ないのか?」

「今年で四年目だ……、それで、可笑しいことに気がついたんだ……」

「何だ……、パネルが子供でも生んだか?」

「そうなんだ……、あたりだ!」

「冗談はよせ、悪乗りだな……」

「冗談じゃない。パワーが増えているんだ」

「ほー、凄いじゃないか……、太陽の光で結晶が増殖するんだな」

「お前……、そんなことがあり得ると思うのか?」

「有り得るから、パワーが上がっているんだろー」

「まー、聞け、それで可笑しいと思って、太陽の放射エネルギーを測って見たんだ」

「それで、増えていたのか?」

「そうだ……、……」

「今、太陽の黒点の活動期じゃないのか?」

「そうかもしれないが、太陽光パネルの出力の測定値から考えると、測り始めた時から、今まで、徐々に上がっているんだ。わずかだけどな……」

「まー、この暑さだからな。太陽も元気がいいさ。下界じゃー、今日も四十度越えだぞ」

「世間は、マスコミも含めて、CO²の増加による温暖化が原因と言っているが、実は太陽その者のパワーが上げているとは、誰も思ってはいないからな」

 カズヤ教授の顔は、怖いことを話しているわりに平然としていた。

「それはそうだ、太陽は変わらないものと皆、信じているからな。見ためも分からないし、まー、直接見る人間もいないし……」

「でも、そう思って世間を見ると、オーロラがよく現れるようになったとか、北海道でも観測されたとか聞くじゃないか?」

「太陽活動が活発という事か……、それで、年々増加している太陽エネルギーは、これからも増えていくのか?」

「それは、分からんが……、明日でも元に戻るかもしれないし……」

「まー、そうだな、でも太陽が活動期じゃー仕方ないさ……、熱くなって当然だよ」

「確かに、太陽の黒点、太陽フレア、オーロラの増加、通信障害とすべて当てはなるのだが、四年間の太陽光パネルの測定値と四年間の気温の変化を積分解析した結果一致した。この四年のことだけどな……」

「面白いな……、気温の上昇分は太陽エネルギーか」

「データーは少ないが、そう言うことになる」

「太陽の寿命ってどれくらいだ?」

「百億年くらいと、されているが……」

「今は、四十六億年か……、まだ若いな……、活動のばらつきがあっても可笑しくないさ。太陽の活動周期は十一年だな。今が一番、元気のいいときじゃないか?」

「そう思って、前回の太陽の活動期の気温の変化を、過去の資料を探して見てみた。ほぼフラットだった」

「それはそうだ。黒点の動きぐらいで、この水の塊の地球が変化するわけがないからな」

「そうなると、もっと可笑しいことになる。この太陽エネルギーの増加は何だ……?」

「ただの温暖化だろう……、オゾンが減少しているから、その影響か?」

「オゾンもそれほど影響しないが、数字的には確実に増加している。太陽が膨張している様に……」

「怖いことを言うな……、人類滅亡じゃないか……」


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