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「帰れないのはわかりました。そしたら迷惑とかはかけないんで、一緒に山をおりませんか?」
「ついていきたいと?」
「はい」
「人間は足手まといになるので、あまり連れて行きたくないのですが」
ロボットは黙り込んだ。ロボットなのでなんの動きも見せず音も発しないと、フリーズしたようにしか見えなかった。
「まあいいでしょう」やがてロボットは言った。
「いいんですか?」
「はい。あの子は人間が好きなのです」
「そうなんですか」
よくわからなかったが、つれていってくれるならなんでもいい、と鈴木は思った。
「あなたを連れていったらきっと喜んでペットにすると思います」
鈴木の笑みが一瞬で消えた。
「ペット……?」
「はい。私と一緒に来る代わりにあの子のペットになるという条件であればいいでしょう、連れて行きます」
ペットになるぐらいなら死んだ方がましだった。しかしそうはいってもこのまま山で飢え死にしたいわけでもなかった。鈴木としてはどちらの結末もさけたかった。
「は、はい。それで大丈夫です」
鈴木はそう答えたが、もちろん嘘だった。頃合いを見計らって逃げ出すつもりだった。宇宙人のペットになるなど死んでもごめんだ、というのが鈴木の本音だった。
「俺は鈴木春人といいます。よろしくお願いします」
それでも鈴木は自己紹介をした。相手が宇宙人であっても礼儀は欠かすべきではないと思った。鈴木は握手のために手を差し出した。
「鈴木さんというのですね」
そう言ったきりロボットは握手しようとはしなかったし、自己紹介を始める様子も見せなかった。
「あの、あなたの名前は?」
「教えることができません。あなたに理解できる名前ではないのです」
理解できない名前とはどんな名前なのか。鈴木は逆に聞いてみたくなったが、わからないのでは聞いてもしかたがなかった。
「じゃあ俺が仮の名前を考えてもいいですか? そうじゃないと不便なので」
「お願いします」
「じゃあ……ロトとかどうですか?」
「それで構いません」
ロボットは考える様子もなく返答した。名前はどうでもいいらしかった。
「よかったです。そしたらまずは人を探しましょう。そうじゃないと生きていくことすらできません。このあたりの道とかわかりますか?」
「わかりませんが、とにかく下ればいいのではないかと考えています。山ですから」
宇宙人であっても、なんでもは知らないらしかった。