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「あの、どういうことですか?」
「私がワープして移動したここは、あなたの住む場所とは違う分岐の世界です」
「違う分岐の世界。ええ、はい」
「あなたたちの言葉を使うなら、パラレルワールドというものが一番近いです」
「ちょっと待ってください。ここがパラレルワールド?」
鈴木は自分がパラレルワールドにいるなどと信じられなかった。
「そんな、冗談はやめてくださいよ」
鈴木はひらひらと手を振った。
「私は冗談を言ってません」
「いやいや。だってこれ、どう見たって日本のものじゃないですか。このはっぱとか」
鈴木は葉をつまみとってロボットの前に突き出した。
「日本でおんなじようなの見たことありますよ。名前は知らないけど。でもちょっと探せばケヤキとか杉の木とか見つかるんじゃないんですか? そうしたらすぐにばれますからね」
鈴木はここが日本である理由を探そうと必死になっていた。ここが日本ではないと信じたくなかったのだ。だが一方で、心のどこかでロボットが嘘を言う理由がないことをわかっていた。
パラレルワールドへ移動するなどということがあり得ない、とは言えなかった。渋谷を練り歩くロボットに出会い、町中から山の奥へ一瞬でワープした今となっては、なにが起きてもおかしくなかった。
「ここは確かに日本です」
ロボットは言った。
「なんだ」
「ただしここはあなたの日本とは異なる分岐をたどった世界の日本です。あなたの知る世界とは全然違います」
鈴木の希望は一瞬にして取り消された。
「じゃあ、俺は帰れないんですか? でも帰れないと本当に困るんですけど」
そう口にしてから鈴木は困る事柄を思い浮かべようとした。しかしそこで鈴木は自分がついさっきまで死んでもいいなどと考えていたことを思い出した。
仮に戻ったとしても、バイトに行って帰って一人しかいないアパートで寝て起きるだけの生活しか待っていないのだ。
「しかし、私にあなたを助ける義務はありませんよね?」
「いや、そんな。待ってくださいよ」
ロボットや宇宙人相手に、人間ごときがないてわめいても動いてくれるとは思えなかった。それに、帰っても別になにもないのだ。それならば、この世界で生き抜く方向で努力するしかないではないか。