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「まだ私の質問に答えていただけていないようですが」
言われて鈴木は、自分が子供を見たことがあるかどうかまだ答えていないことに気づいた。
「ああ、すみません。そうですね、あなたの子供はちょっと見たことないと思います。いや、ないですね。多分見つかっていたらネットでニュースとかになってると思いますし」
「そうですか。ありがとうございました」
ロボットは礼を言うと、体をひるがえそうとした。
「あ、あ、ちょっと待ってください!」
鈴木は引き留めた。
「俺もあなたに尋ねたいことがあるんです。ここってどこなんですか?」
「ここは山と呼ばれる場所です」
「いやそうじゃなくて」
鈴木はここが日本のどこなのか、そもそもここが日本であるかどうかを知りたかった。
「えっとじゃあ、ここは何県なんですか?」
「質問の意味がわかりません」
鈴木は頭をかいた。これではらちがあかない。日本語は話せるくせになぜ日本の県庁所在地を知らないのか。しかし鈴木がロボットをそうやって責め立てたとしても何にもならない。冷静に別の策を考えるしかなかった。
要するに元の場所へ帰れればそれでいいのだ。ワープかなにかで帰れればここがどこかなどどうだっていい。
「じゃあさっきみたいにもう一度ワープしてさっきと同じ位置に戻してもらうことはできますか?」
「できません。エネルギーが不足しています」
「じゃあワープに必要なエネルギーがたまるのにどれくらいかかるんですか?」
「二年ほどかかります」
「二年ですか……って、にねんっ!」
二年あれば地球のどこにいても家に帰れるだろう。いや、それ以前に二年もこの山の中で生きられると思えなかった。助けが来ない限り、三日も生きられないかもしれない。
「ちょっと待ってください」
鈴木はポケットからスマホを取り出した。スマホをつけてみたが圏外だった。救助を呼ぶことはできない。鈴木はスマホをポケットに戻した。
「そしたら俺はどうやって帰ったらいいんですか?」
「帰ることはできません。ここはあなたの住んでいた世界ではないからです」
鈴木は首をかしげた。発言の意味が理解できなかった。ここはあなたの住む世界ではない、というような言い回しはたまに聞くこともある。しかしそれで言う世界というのは、人生のステージ、としての意味合いである。発言の流れに意味が合っていないような気がした。