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夜の渋谷道玄坂を一体のロボットが歩いていた。ロボットの顔の部分は黒いガラスでおおわれていて、そのほかの部分は白い。ボディの形は成人男性のそれを模したかのようだった。そしてボディのところどころで青い光が淡く点滅していた。
ロボットの動きは人間の歩行運動を見事に再現していた。自分で障害物を目視して、歩けるところだけを歩き、小さな段差があってもなんなく乗り越えていた。
その様子を大勢の人たちが取り囲んで見ていた。ロボットを見たり撮影したりしている人たちはロボットにあわせてゆっくりと移動しながら距離をとっていた。しかしロボットに触れたものはいなかった。
先を急ぐ人は車道と歩道の間に入って横からロボットを見ていった。少し見て満足すると人混みを越えて歩き去っていった。車道のほうに人がしょっちゅう出てくるものだから車を運転している人たちは難儀していた。クラクションを鳴らす車も一台や二台ではなかった。
鈴木春人はロボットを撮影している人間のうちの一人だった。ニット帽をかぶり黒いダウンを着て、灰色のリュックサックを背負っていた。
鈴木はバイトからの帰宅途中にこのロボットを見つけた。最初はただびっくりしていたが、すぐに動画をネットにあげることを思いついた。動画が有名になれば収益化も夢ではない、と考えたのだ。
突然ロボットが立ち止まった。鈴木は撮影を続けたまま、あたりを見回した。周辺にロボットを操作している人はいなかった。それどころか、ロボットを管理したり護衛したりする人もいなかった。
こんなに人の多いところにロボットだけを歩かせたまま放置しておいて大丈夫なのか、と鈴木は思った。
普通は見守ったり操作したりする研究員のような人たちが何人もついて回るものではないだろうか。ロボットが歩きやすいよう、人払いをすることも必要なはずだ。
おかしいのはそれだけではなかった。ロボットのお披露目会のようなものがあるとしても、ここは適した場所ではない。地面はコンクリートだから傷つきやすいし、道も狭い。それに人が多いから、騒ぎになりやすいはずだ。