婚約者のいる王子と男爵令嬢
身分違いの愛が両想いでなかった場合……
貴族に産まれた者達が一定年齢に達すると通う事を義務付けられている学園に通う公爵令嬢ロザリアは、廊下の端で頭を下げている女子生徒の存在に気が付いた。
彼女は最近男爵家に引き取られた元平民のターニャ。産まれた時から貴族としての教育を受けて来なかった彼女は貴族だらけの学園の中で浮いていた。
そんな彼女に興味を持ったのが、よりにもよってこの学園に通っている第一王子のエドモンだった。
第一王子はロザリアの婚約者である。にも関わらず、エドモンはターニャと度々二人っきりになるような行動を起こし始めた。
これには第一王子の側近として付き従っている者達も苦言を呈したが、第一王子は彼らの忠告を聞くどころか、障害がある方が余計に燃え上がったのか、益々男爵令嬢を構う事にのめり込んで行った。
第一王子エドモンの婚約者であるロザリアも、どうしたものかと思案していたが、そんな彼女の頭を悩ませていた問題の片割れである男爵令嬢は、ロザリアが廊下を歩いて来るのを待ち構えていたように、彼女に見えるように手紙を高々と差し出した。
護衛も兼ねてロザリアに付き従っている侍女がどうなさいますか? とロザリアに伺いを立てる。
本来であれば面識のない男爵令嬢からの手紙など公爵令嬢であるロザリアには受け取る必要も声を掛ける必要もない。存在など無視して通り過ぎても問題にならない。
だが、婚約者である第一王子エドモンを篭絡したのであろう、身分が自分よりも低い男爵令嬢が何を自分に伝えたいのか、ロザリアは興味が湧いた。
侍女に手紙を受け取るように指示すると、ロザリアは普段通りに学園で授業を受け、他の高位貴族達と交流を終えてから馬車に乗って王都にある公爵家の所持する屋敷に侍女と共に戻った。
学園は王都にあり、公爵家の領地とは離れているが、高位貴族の多くは王都にも屋敷を持っている。そうでない者達、ターニャのような男爵令嬢は学園内にある寮に住んでいた。
公爵令嬢であるロザリアは屋敷に戻ると自室に行き、侍女から男爵令嬢から貰った手紙を受け取ると、侍女を部屋から下がらせた。
一体どんな内容が書かれているのかと、ロザリアは密かに楽しみにしていた。
下位の令嬢達の間では、最近婚約破棄を題材にした本が流行っているとロザリアは耳にしている。
内容は高位貴族、それもロザリアのような公爵令嬢を婚約者に持つ王子が下位の貴族、そうまさにターニャのような男爵令嬢と運命的な出会いをして恋に落ち、真実の愛を貫く為に公爵令嬢との婚約を破棄するのだ。
高位貴族の間ではこの本の内容は不敬であるとか不謹慎だと不評のようだが、ロザリアは物語としては十分面白いと思っていた。
産まれた時から第一王子と同い年だからと公爵家と王家の都合で婚約を結ばれたロザリアは燃え上がるような恋など知らない。高位貴族の大半は政略結婚であり、恋をした相手と結ばれる訳ではない。だから身分を超えた愛や恋を題材にした物語はあくまで物語の中にしかなく、ロザリアにとっては現実的ではなかった。
だと思っていたのに、ロザリアは今まさに本に書かれている登場人物のように、恋に落ちた王子と男爵令嬢の間にいる悪役のような立場になっていた。
配役に多少不満はあるが、男爵令嬢が何を自分に伝えたいのか。王子への愛を綴った恋文のようなものか、それとも憎き恋敵へのおどろおどろしい呪いのような文なのか、さあ、何が書かれているのかと物語が書かれている本のページを捲るような気分でロザリアは男爵令嬢から渡された手紙を読み始めた。
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