5話
2章最後のお話です。よろしくお願いします。
エイ型ドローンが散発的に爆発する。
残骸がまき散らしながら降り注ぐ。
爆発に伴う煙と残骸の前の向こうに、数百の白く輝く羽根が円を描くように周回している。
その中心に3対6枚の翼を広げた守護天使が両腕を組んで中空に佇んでいた。
「おいおい……ライトセイバーの兵装、あんなに強力だったか?フレディ中尉。」
『いえ……近接戦闘特化型の大型高周波ブレードだけだったと記憶してますよ。オーレン大尉。』
フレディ中尉の硬い声音を聞きながらオーレンは呟く。
「だよな……というか、たった一薙ぎで中華大国の大戦力を半壊って異常だぜ……」
全天周囲モニターには、エイ型ドローンが爆発しながら残骸をまき散らしていく様が映し出されている。
『かつて勇者が駆ったライトセイバーとは、兵装だけでなく出力も桁が違っています……白の勇士団の新型機動兵器と言われた方がしっくりきます。』
「確かにな……まあ、何にせよ後は、あのデカブツへの対応を……って……なんだこりゃ……」
『Zoom 300%』というラベルのついたサブウインドウ上の光景にオーレンは絶句する。
亀の甲羅のような巨大な機動兵器の装甲各所からも爆発がおきており、連鎖的に誘爆が広がっていく。
「……さっきの一薙ぎが原因か?」
『そう……みたいですね……』
巨大な亀の甲羅のような装甲で、爆発の起きた箇所が次々に分離されていく。
分離された、いくつかのコンテナのような装甲が落下中に中空で爆発四散する。
中空での爆発であったにも関わらず、ビリビリと振動が伝わってくる。
「……弾薬庫に火が付いたから慌てて分離しているってところだな……」
『みたいですね……』
「このまま爆発四散して自爆してくれれば『それはなさそうですね……』」
オーレンの言葉を遮るようにフレディが硬い声で応じる。
『Zoom 300%』というラベルのついたサブウインドウに、亀の甲羅のような弾薬庫を兼ねた巨大な装甲がすべて分離され、濃紫色の光に包まれた機動兵器が中空に浮遊している。
目のようなデュアルカメラをもつ頭部から複数のアンテナのような突起が王冠のような形となっているのが印象的だ。両肩から漆黒のマントのような装甲を纏っている。
両腕に巨大な濃紫色の光に包まれた大剣を一振りずつ握られている。
『巨大な亀の甲羅のような装甲兼弾薬庫は機動兵器の機能拡張用兵装ってことですか……』
「……蒼虎騎兵よりも2周り近くでかいな……」
全天周囲モニター前方右に『Unknown』というラベルのサブウィンドウが開き、濃紫色の光に包まれた機動兵器の性能データが表示される。
[Analysis Item] [Analysis Result]
総合戦闘力: S-
攻撃力: A
防御力: S+
機動性: A-
兵装:
✓ メガ高周波ブレード
✓ ミラージュ・ダガー
✓ ミラージュ・シフト
✓ ミレージュ・クラフト
『この兵装は……やはり10年前奪取された『大地母神』のものですか……』
「おいおい……単騎での飛行能力……近接戦闘特化型の機動兵器……性能だけ並べると、かつて勇者が駆っていたライトセイバーだな。」
濃紫色の光に包まれた機動兵器は、中空で機体の向きを変える。
その向かう先には、3対6枚の翼を広げ、白い天使が両腕を組んで中空に佇んでいる。
『……つまり、10年前奪取されたのは『大地母神』だけでなく……』
「白の勇士団の機動兵器の設計データも含めてってことだな……こりゃあ……内通者がいたんじゃないか……」
濃紫色の光に包まれた機動兵器は、守護天使から距離を取るように中空を移動する。
『ライトセイバーを警戒しているようですね……』
「……そうだろうな……というか、碌な対空兵装を持っていない蒼虎騎兵は眼中にないってか……」
全天周囲モニターに表示されている『Enemy Encounter Alert』というラベルのサブウィンドウに多数の赤いマーカーが動いているのが視界に入る。
人工幻夢大陸中心部へ続く幹線道路の経路を徐々に移動している。
『……この場はライトセイバーに任せるのが適任ですかね……』
「……不本意ではあるが……人工幻夢大陸中心部へ続く幹線道路の経路を、上陸した『原国家体制連盟』側の陸戦部隊が占拠する前に押さえた方がよさそうだな。」
オーレンは、蒼虎騎兵を人工幻夢大陸中心部へ続く幹線道路の経路へ向けて、リクライニングシートのペダルを踏み込む。
全天周囲モニター前方の景色が徐々に後方へ流れていく。
人工幻夢大陸中心部へ続く|幹線道路に近づいたところで、リクライニングシートのマニピュレーターと前方のコンソールパネルを操作し、蒼虎騎兵が両手に持つ蒼色の蝶の羽を1本の巨大な馬槍へと戻す。
やおら、オーレンはコンソールパネルを操作して『バックカメラ』というラベルが表示されたサブウインドウを表示する。
サブウインドウに映し出された映像では、守護天使が左腕から伸びる白い光の剣を、濃紫色の光に包まれた機動兵器が持つ濃紫色の光に包まれた大剣と切り結んでいた。
◇◆◇
「残った兵装は……メガ 高周波ブレード二振りか……」
「D装備と違って黒武玄神の装甲は『幻想装甲』だからあの守護天使の遠隔兵装は無力化できるはずよ……気を付ける必要があるのは、あの光の剣ぐらいかしらね……」
李特尉の苦々しげな声に、趙特尉は淡々と後方のリクライニングシートのコントロールパネルを操作しながら『重火器群管制機構』から黒武玄神の『火器群管制機構』へ変更していく。
「ASURA Engineの今の調整状況で、飛行機能と幻想装甲を維持しながら利用できる兵装を表示するわ。」
趙特尉の声と共に、李特尉の正面コンソールに兵装の情報が表示される。
<中距離兵装>
幻想短剣 500 / 500
<近距離兵装>
メガ 高周波ブレード 2 / 2
「我が国軍の中でも技術力に優れた夜叉衆が、高機能新型試作機として開発した黒武玄神でここまで苦戦するとはな……」
「老師が推し進められた近代化によって、我が国軍は八部衆に再編されたけれど……ここにきて開発した試作型機動兵器の運用上の課題が洗い出されたってことね。」
趙特尉の言葉に内心頷きながら李特尉は、正面コンソールに表示された兵装情報を一瞥した後、『Zoom 300%』というラベルのサブウィンドウに表示された守護天使を苦々しげに睨みつける。
数百の白く輝く羽根が円を描くように周回している。
その中心に3対6枚の翼を広げた守護天使が両腕を組んで中空に佇んでいる。
守護天使のような機動兵器の3対6枚の羽根の先端が光り輝くと、守護天使を中心に更に数百の羽根が円を描くように展開される。
眩い白光に包まれると、展開された数百の羽根が意思を持ったかのように黒武玄神に殺到する。
が、濃紫色の光の装甲の手前で、白光につつまれた羽根が止まる。
波紋のようなものが浮かび上がり、数百の白光色に輝く羽根の行く手を遮る。
濃紫色の光の装甲の手前に浮かび上がった波紋を突き破るかに数百の羽根が一際、輝き次々に爆発していく。
黒武玄神は爆炎に包まれる。
が、爆炎上部を濃紫色の光につつまれた黒武玄神が突き抜けると、そのまま守護天使へ左腕に持った巨大な高周波ブレードを突き出す。
守護天使は首を傾ける最小限の動きで回避すると、右腕で高周波ブレードをもつ腕を掴む。
黒武玄神は振りかぶっていた右腕に持つ巨大な高周波ブレードを振り下ろす。が、振り下ろされる高周波ブレードは、守護天使の左腕から発生させた白い光の剣で受け止められる。
「……ええい……」
李特尉は、忌々し気に正面のコンソール画面を操作する。
黒武玄神を中心に中空に濃紫色の光を放つ短剣が百近く浮かび上がる。全天周囲モニター前方に映し出された守護天使が多数の赤い枠で囲まれるとビープ音と共に『Lock On』というラベルが表示される。
「行け!!」
李特尉の声と共に、黒武玄神を避ける形で守護天使に濃紫色の光を放つ百近くの短剣が突き刺さる。
黒武玄神の左腕を掴んでいた守護天使の右腕は、濃紫色の光を放つ十数本の短剣が突き刺さる。直後、力を失うかのように制動が弱まる。
黒武玄神は、守護天使に掴まれた左腕を力任せに外へ薙ぎ払う。その衝撃で守護天使の右腕が肘から引きちぎれる。
直後、守護天使との間にできたスペースを使い黒武玄神は守護天使を蹴りつける。
衝撃で守護天使の3対6枚の羽根のうち2枚と、左脚が機体から引きちぎれ落下していく。
◇◆◇
亀の甲羅のような巨大な機動兵器の装甲各所からも爆発がおきており、連鎖的に誘爆が広がっていく。
巨大な亀の甲羅のような装甲で、爆発の起きた箇所が次々に分離されていく。
「へえ……拡張兵装を分離するんだね……」
分離された、いくつかのコンテナのような装甲が落下中に中空で爆発四散する。
中空での爆発であったにも関わらず、ビリビリと振動が伝わってくる。
「もう一薙ぎで終わらせるか。」
呟いた久間は、リクライニングシート前面のコンソールのタッチパネルを操作する。
が、『Weapon Controller』というラベルのサブウィンドウに『Warning』という文字列が表示され[Active Weapon]の下のClaíomh Solaisという文字の右に『Limited』と表示されている。
[Active Weapon]
Claíomh Solais (Limited)
Homing Wing Shot 698 / 1000
[Deactivate Weapon]
Wing Shot 29000 / 30000
「これは……」
ちらりと後方のリクライニングシートを見やると、塁が荒い呼吸をしながら胸元を鷲掴みにるように押さえている。
「出力制限がかかった……のか」
リクライニングシート前面のコンソールに視線を向けると、まるで意図を感じ取ったかのように3対6枚の翼を持つ白い天使の模式図シルエットが表示される。
6枚の翼の先端部分が、ランダムに朱色へ変わっていく。
全天周囲モニターの下部に映し出された濃紫色の光でつつまれた機動兵器が赤い正方形で囲まれる。
ビープ音と共に『Lock On』という文字が表示される。
「……行け……」
黒髪童顔の男の呟きと共に、白色の数百の羽根が一斉に眼科の濃紫色の光でつつまれた機動兵器に殺到する。
「…………」
濃紫色に輝く装甲の手前で白光の羽根が止まる。
波紋のようなものが浮かび上がり、数百の白光の羽根の行く手を遮る。
「これは……だが、ゼロ距離からなら。」
数百の羽根が一際、白く輝き次々に爆発していく。
「やったか?」
濃紫色の光でつつまれた機動兵器が爆炎上部を突き抜けてくる。
「ちッ……」
濃紫色の光でつつまれた機動兵器は、そのままの勢いを乗せ、ライトセイバーへ向けて左腕に持った巨大な高周波ブレードが突き出す。
久間はライトセイバーを最小限の動きで回避させ、右腕で突き出された巨大な高周波ブレードをもつ腕を掴む。同時に濃紫色の光でつつまれた機動兵器が右腕に持つ巨大な高周波ブレードを振りかぶる。
「くっ!」
久間はリクライニングシートのマニピュレーターと前方のコンソールを操作し、守護天使の左腕から巨大な高周波ブレードと同じ長さの白い光の剣を発生させ受け止める。
動きがとまった直後、濃紫色の光でつつまれた機動兵器を中心に中空に濃紫色の光を放つ短剣が百近く浮かび上がる。
「何っ……しまった!」
次の瞬間、濃紫色の光でつつまれた機動兵器を避ける形でライトセイバーに濃紫色の光を放つ百近い短剣が突き刺さる。
濃紫色の光でつつまれた機動兵器が、守護天使に掴まれた左腕を力任せに外へ薙ぎ払う。ライトセイバーの右腕が肘から引きちぎられる。
ライトセイバーとの間にできたスペースを使い、守護天使が蹴りつけられる。衝撃で守護天使の3対6枚の羽根のうち2枚と左脚が機体から引きちぎれ落下していく。
「くっ!……近接戦闘では機動兵器の性能ではなくパイロットの技量がモノを言うのか……」
リクライニングシートのマニピュレーターを操作すると同時に、ペダルを踏み込み守護天使の落下を止めると同時に体勢を立て直す。
直後、全天周囲モニター前方上部に『Warning Alert』というラベルのサブウインドウが表示される。
守護天使の各部損傷個所が徐々に表示されていく。
それに合わせ、前方のコンソールに表示された3対6枚の翼を持つ白い天使の模式図の左腕、2枚の羽根、左脚が赤くマーキングされる。
同時に『Auto-Recovery Function Activated』というポップアップ・メッセージが前方のコンソールに表示される。3対6枚の翼を持つ白い天使の模式図で赤くマーキングされた左腕、2枚の羽根、左脚が点滅する。
『Auto-Recovery Function』というラベルのサブウィンドウが表示されるとメッセージが次々に表示される。
『損傷個所を確認しました。』
『損傷前の機体データをロードします。』
『欠損・損傷個所との差分を取得します。』
『差分箇所の修復に必要なエネルギー総量を算出します。』
『摩那転換炉より算出したエネルギーを補完します。』
『欠損・損傷個所の修復を開始します。』
直後、ライトセイバーは光に包まれると破損していた左腕などが復元されていった。
後方のリクライニングシートでは、塁が、過呼吸気味に呼吸を荒げ、胸元を鷲掴みにするように押さえている。
意識を朦朧となりがらも、押されている状況に危機感を募らせる。
「ぐッ……くそ……こんな……こんなところで死ぬわけには……」
走馬灯のようにこれまでの出来事が脳裏を過ぎる。
唐突に、茜色に染まる図書館の中で加奈と交わした会話が脳内でリフレインする。
『あー……また、逢えますようにっていうおまじない……したいなって……』
『おまじないって……』
『えへへ……フレンチじゃなくて、ディープキスでした……またね……バイバイ』
『……うん……また……明日……』
「……加奈……」
◇◆◇
「えっ?」
白のワンピースに濃紺のショールを羽織った栗毛の少女が振り返る。
セトニクス・エレクトロニクスの医療施設の通路の窓から茜色に染まった空を見上げる。
ワンピースと同じ白のハイヒールが清楚さを強調している。
「加奈様……どうされました?」
少女の傍らに立つ白のスカートスーツの女性が怪訝な表情を浮かべる。
濃紺色のハイヒールが明確な意思を持っている女性を連想させる。
「あ……ステラさん……ううん……なんだか、塁君に呼ばれたような気がして。」
「……そうですか……」
ステラは思案気な表情を浮かべるも、加奈に向き直る。
「……まずは睦月グループの事業継続が優先されます。ここは、『白の勇士団』……いえセトニクス・エレクトロニクス側と今後の次善策を検討すべきかと。」
「……うん。そうよね。塁君が帰ってこれる場所を、私が作らないと。」
「では、セトニクス・エレクトロニクス側へ面会を申し込みますね。」
「はい。お願いします。」
その場を、2人の少女が通り過ぎる。
「へえ……あの子もカナって言うんだ。」
「詩織どうしたの?」
「あ……うん。今、すれ違った娘、可愛いなって思ったら『カナ』って呼ばれるみたいだから」
「へー……あたしと同じ名前かぁ……」
「ふふ……カナって名前の娘は、みんな可愛いなぁって思っちゃった。」
「もう!褒めたってなにも出ないぞ!」
「『カサンドラ』のプリン・アラモードで手を打つぞ!」
「……詩織が私に奢らせるための口実をでっちあげているだけじゃない」
佳奈は呆れた表情を浮かべるも、クスッと微笑を浮かべる。
釣られて詩織もクスッと微笑を浮かべる。
「……また、3人一緒に『カサンドラ』に行きたいね。」
「うん……塁……大丈夫かな……」
「多分……大丈夫だよ。」
「加奈様?」
「……ううん。さっきの娘達、私と同い年のような気がしたから……」
「……一連の混乱で『白の勇士団』の拠点へ退避しているのでしょう……」
「そう……」
「……ことは、こちらの想定を大きく超えた状況になりつつあります。先手を取られる前に、動きべきかと。セトニクス・エレクトロニクス側の担当者と連絡が付き、アポが取れました。」
「……そうよね。うん。私ができることをするだけよね。」
加奈が歩き出すと、ステラも控えるように歩み出す。
佳奈と詩織は、逆方向へ並んで歩き出す。
お互いの手を自然とつなぐ。
「塁君が帰ってこれる場所を作らなきゃ……」
加奈が呟くように声に出す。
「塁とまた……逢いたいな……」
「……そうだね……」
佳奈と詩織は、お互いに言葉を交わす。
歩みを進めながら、つないだ手に力を入れる。
◇◆◇
濃紫色の光でつつまれた機動兵器が茜色に染まる空を退いていく。
「中華大国側の特化型機動兵器か……パイロットの技量は、かつての勇者と同等か……『摩那転換炉』の自動修復機能で相手のリソース切れに持ちこめたってところか……しかしここのタイミングで出力制限がかかるなんて……」
顔を顰め、全天周囲モニターの左側に浮かぶポップアップメッセージを見る。
そこには、『Krishna system ver 1.5 updated phase is completed.』
「……いつの間にか、制御OSのバージョンがあがっている……バアルめ……」
久間はリクライニングシート正面のコンソールパネルを操作し、いくつものウインドウを表示させる。表示したウインドウには、守護天使のコアとコックピットを繋ぐ回線の通信量とやり取りされるデータが表示され、流れていく。
「……久間……さん……」
胸を押さえながら息を荒げる中、塁は、かすれた声で久間の名を呼ぶ。
どこか感情を押し殺したような籠ったような声音に、久間は眉を顰めさせる。
「塁君……くそ……『Krishna system 』が『真実の鍵』に干渉しているのか……」
「……久間さん……いったい……あなたは……」
塁の目に怯えの色が浮かぶ。
塁の言葉を無視しながら、久間はコンソールパネル上に表示させたキーボードから、いくつものコマンドを入力するも『Access Denied』というメッセージがポップアップする。
「……くそッ……さっきは実行できたコマンドが弾かれる……『Krishna system 』のプロテクトが強化されているのか……バアルめ……どうしても『真実の鍵』を手に入れたいのか……」
久間はコンソールパネル上に次々に表示されるエラーメッセージを一瞥して顔を顰める。
「……だが、この『真実の鍵』は俺のものだ……精神支配される前に『アガルタオンライン』へ、一時退避させればいいか……」
久間は『Local Admin Control』というラベルが表示されたコンソールパネルを表示させる。
上に表示させたキーボードから『runas -iH transfer -o soul -f saver -t agartha』という文字列を入力して実行する。
全天周囲モニターにいくつものウインドウが表示され、メッセージが流れていく。
「ぐっ!……ああああああああああああああああああ!!」
直後、塁が胸をかきむしるように苦しみ、叫ぶ。
「……バアル……お前に『真実の鍵』渡すものか!」
久間の吐き捨てるような言葉と初めて見る悪鬼のような険しい表情を一瞥した直後、塁は意識を失う。
直後、全天周囲モニターに表示されたウインドウが閉じていく。
「……バアルから直接アクセスできないようにはしたが……さて……」
久間は、モノをみるかのような冷徹な目で塁を一瞥する。
「せっかく手に入れた『真実の鍵』だ……生きていればいいか……」
◇◆◇
「……さま……だ……じょ……か?」
切羽詰まった、舌足らずな声とともに体がゆすられるのを感じ、暗転した意識が覚醒する。
うっすらと目をあけると、アーガイル柄の天井が目に映る。
どうやら、ベッドに寝かされているようだ。
ふと部屋を見ると来客用なのか過度に豪奢ではなく、どこか品を感じる調度品が揃えられている。
そよ風を感じ、ふと見ると窓がある場所を覆っているカーテンが揺れている。
換気用に少し窓を開けているのだろう。
過ごしやすいように、さり気ないく気配りを事前に行っていたようだ。
「ルイ様!……お気付きになりましたか?」
声のする方へ視線を動かす。
心配そうな表情を浮かべた栗毛のメイドの少女が視界に入る。
そよ風に揺れる腰まである艶やかな栗毛をさり気なくまとめている。
長いまつげが整った鼻筋と控えめな紅色に色づいた可愛らしい唇とともに健康的な小麦色の肌に映える。
「えっと……ここは……」
「王城の離宮にあてがわれた部屋です。暫く、こちらで静養するよう『壱の勇者』から指示が出ています。」
「……王城?……離宮?……『壱の勇者』って」
少女の言葉に、混乱する。
「あら。お目覚めになったばかりで混乱されていますね。」
くすりとメイドの少女は微笑を浮かべる。
「ですが、これだけはお伝えしますね。」
そういうと居ずまいを正して、メイドの少女は両手を前に組み、一礼する。
「『選抜試験』の突破、おめでとうございます。クレアは、ルイ様を誇らしく思います。」
クレアの言葉で『選抜試験』での出来事が脳裏を過ぎる。
はっとして部屋を見渡すと、ベッド脇に備え付けの姿見の鏡に気づく。
視線を動かし、姿見の鏡をのぞく。
青味がかった少し長めの黒髪に菫色の瞳。
黙っていれば少女のような目鼻筋が通った幼さの残る容貌。
そこには、『アガルタ・オンライン』にダイブした際のアバター。
ルイ = ラ = ソーンの姿が映し出されていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
これにて、2章完結となります。
3章以降は、異世界転移後の話となります。(よくある、なろうの異世界転移ものになります。)
1章と2章で作りまくった伏線回収を行いながら続きます。
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
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よろしくお願いします!
最後に、次章以降は、1話ごとの更新ではなく章単位で更新予定です。
1話ごとの更新だと、振り返った時、品質が一定にならないことに気づきました。
そのため、なろうでの更新方法は『無色転生』方式の方がいいのかなと考えています。
なお、読者の方の反応を見たいので、カクヨムでのみ実験投稿を兼ねて1話ごとに更新予定です。
もし先行して読みたい方は、カクヨム版をお読みください。
なろう版は、色々な制約を踏まえて表現を自主規制したもので更新予定です。




