3話
茜色に染まり始めた空を黒く塗りつぶすかのように無数のエイ型のドローンが渦を巻くように飛行している。渦の中心には、濃紫色の光に包まれた巨大な重起動兵器が中空に浮いている。
目のような碧い輝きを宿したデュアルカメラをもつ頭部が、無数の棘が生えた亀の甲羅のような形をした重機動兵器の中心部から生えているように見える。
その頭部には、王冠のような形状の複数のアンテナのような突起がある。
――デュアルカメラの輝きが碧から朱に変わる。
亀の甲羅のような装甲の周辺部が30程、突如、分離されて地上へ円を描くように落下する。
装甲を構成する濃紫色の立方体が落下する先には、2機の濃蒼色の機動兵器が見える。
全天周囲モニター前面に表示された『Combat Zone』というラベルのサブウィンドウに2機の濃蒼色の機動兵器と、中破して横倒しになったASULT GRIFFONが映し出されている。
「……先行した『三巨頭』が駆るASULT GRIFFONか……」
感情のない声で呟きながら、リクライニングシート前面のコンソールを操作する。
『Combat Zone』というラベルのサブウィンドウに映る2機の濃蒼色の機動兵器が赤い六角形の枠で囲まれ『Lock On』という文字が表示される。
直後、落下中の30もの濃紫色の立方体から黒い矢じりのようなものが、矢羽根部分から爆炎を吹き出しながら発射される――2機の濃蒼色の機動兵器に向かって。
同時に9発の黒い矢じりが発射されると濃紫色の立方体の一部がパージされる。
直後、同時に9発の黒い矢じりが発射されると同時に濃紫色の立方体が空中分解する。
黒い矢じりのようなミサイルの矢羽根部分から吹き出す爆炎が『Combat Zone』というラベルのサブウィンドウを埋め尽くす。
直後、2機の濃蒼色の機動兵器付近に着弾すると、横倒しになったASULT GRIFFONを巻き込みながら連鎖的に爆発が広がっていく。
轟音とともに吹き出す爆炎がキノコ雲を形作っていく。
眼下に映る爆炎が、黒いヘルメットのバイザーに照り返している。
全天周囲モニター前面に『索敵結果』というラベルのサブウィンドウが表示される。
と、ビープ音とともにサブウィンドウに赤い正方形の枠が2つ表示されると、次々に起きる爆炎の合間を縫うように移動していく。
「むっ……空対地ミサイルポッドによる絨毯爆撃を受けてまだ動けるだと!?」
李特尉の驚きの声をききながら、趙特尉は複座となっているリクライニングシートの後ろの席でコンソールを操作する。
<D装備 - 中距離兵装>
[1] 9 連空対地ミサイルポッド 970 / 1000
[2] 150mm 中距離対地砲群 残弾 4000000 / 4000000
[3] 240mm 長距離対地砲群 残弾 1000000 / 1000000
<D装備 - 近距離兵装>
[1] 高周波ブレード 1000 / 1000
[2] メガ 高周波ブレード 100 / 100
「落ち着いて……『D装備』の残弾数は十分あるわ……」
趙特尉の声を聴きながら全天周囲モニターに『索敵結果』というラベルのサブウィンドウを注視する。爆炎の合間から、蒼色の光に包まれた2機の機動兵器が眼下で左右に別れて移動する。ミサイルが直撃するも、蒼い光の前で爆発四散する。
「ッ!?……まさか、エナジー・シールド!?」
後方の席からの趙特尉の驚く声を聞きながら眉を顰めると、李特尉は複座となっているリクライニングシートの前方の席でコンソールを操作する。
「中華大国では、まだ概念レベルでしかないはずだぞ!」
李特尉が叫んだ直後、『分析結果』というラベルのサブウィンドウに、蒼虎騎兵の性能データが表示される。
[評価項目] [評価結果]
総合戦闘力: ???
攻撃力: ???
防御力: A+
機動性: S
兵装:
✓ 高周波ブレード
✓ ブレード・バックラー
✓ ???
✓ ???
「収集可能な性能データに偏りがあるな……」
降り注ぐ実弾を蒼い光のシールドで弾き、蒼い光の刃で空対地ミサイルを切り裂く映像がサブウィンドウに映し出される。
「……こちらの攻撃手段に合わせて兵装を切り替えられる機体のようね……これだけの兵装を同時稼働させて機動的に運用可能な機体は初めて見るわ……」
趙特尉は、右手で複座となっている後方のリクライニングシートに備え付けられたサブアームごと、コントロールパネルを前面に移動させる。
『重火器群管制機構起動』
という文字が表示されると、全天周囲モニターの全方位に青い四角形の枠が無数に表示される。
「現時点で判明している戦績は、こちらの新鋭機一個中隊をたった2機で殲滅か……」
李特尉は、左手でリクライニングシートに備え付けられたサブアームごと、銃口の無い引き金だけの銃のようなマニピュレーターを前面に移動させる。
銃口と思われる場所には、赤いランプのようなものが光っている。
全天周囲モニター前面の『Combat Zone』というラベルがついたサブウィンドウに引き金だけの銃のようなマニピュレーターを向ける。
と、サブウィンドウに『重火器群管制機構連携中……』というポップアップメッセージが表示される。
「……事実は直視するべきよ……単純に『蒼の騎士団』の技術力がこちらを凌駕していると考えるのが妥当ね……信じがたいけれど……」
「……」
「……少なくともD装備ではできて足止めぐらいかしらね……」
「……俺たちは、一体、何と戦っているんだ……」
李特尉は、趙特尉の声に思わず下唇を噛む。
「……李特尉人工幻夢大陸接収作戦の目的は、敵戦力の殲滅ではないことを思い出して。行動不能もしくは戦略的な勝利にまで持っていければいいの……幸い対空兵装を備えていないみたいだからこちらの優位は動かない……」
サブウィンドウに表示されていた『重火器群管制機構連携中……』というポップアップメッセージが消えると『重火器群管制機構連携完了』というポップアップメッセージが表示される。
「判っている……富を独占する『|合理的国家の巨大同盟および関連議会』から中華大国が属する『原国家体制連盟』への富の再分配のため富の集積地となっている人工幻夢大陸接収により、『|合理的国家の巨大同盟および関連議会』と『原国家体制連盟』のパワーバランスを是正する……目的は見失っていない……」
全天周囲モニターの全方位に表示されていた青い四角形の枠が前方に移動していく。
『Combat Zone』というラベルのサブウィンドウ上の、蒼色の光に包まれた2機の機動兵器を囲むと赤色に変わり『Lock On』という文字が次々に表示される。
「いくら驚異的な性能であったとしても、たった2機の機動兵器で彼我の戦力差を覆すことはできないわ。」
亀の甲羅のような形をした重機動兵器の無数の棘のようなものが、蒼色の光に包まれた2機の機動兵器に向きを変えていく。
「……そうだな……人工幻夢大陸中心部にある行政区さえ占拠してしまえば作戦目標は達成するのだったな。」
李特尉は、左手に持つマニピュレーターの引き金を引く。
『重火器群一斉掃射開始……』というポップアップメッセージが表示される。
「そのためには……『蒼の騎士団』をこの場に足止めし、上陸した接収作戦第2派の部隊を軍管特区から人工幻夢大陸中心部へ送り込む幹線道路の経路を確保すればいいの。」
李特尉は、『Combat Zone』というラベルのサブウィンドウに映し出される蒼虎騎兵が降り注ぐ実弾を掻いくぐる様子を睨みつける。
「承知した……しかし……『蒼の騎士団』の機動兵器がここまでのものだったとはな……」
◇◆◇
◆◇◆◇
『Sound Only』と表示されたウィンドウがポップアップで表示される。
『フレディ=サイ』というラベルがウィンドウ上部で確認できる。
『……これどうやって撃退するんです?』
「……知らねえよ……彼我の戦力差ありすぎだろ……というか、そもそも近接戦闘主体の機体に対空兵装なんぞねぇからな!逃げ回るしかねぇだろ!」
降り注ぐ黒い矢じりがのようなミサイルによって巻き起こる爆発の中を蒼色の光に包まれた2機の機動兵器が疾走する。
全天周囲モニターに映る巨大な重起動兵器から、いつの間にか砲弾の雨が降り注いでいる。見ると重起動兵器を中心に回遊しているエイ型ドローン群からも弾幕を張るかのように機関砲が斉射される。
「……というか第3形態で弾いてはいるが……150mmの砲弾じゃねぇか?これ?」
蒼虎騎兵が150mm砲弾の雨を第3形態で器用にはじきながら疾走する。
『思いがけず第3形態の性能検証ができてますね……オーレン大尉、耐久性能に疑問を持たれてましたから実証されている気分はいかがですか?』
「嬉しかねぇよ!……というか命のやり取り発生しない方法で検証してくれ!」
茜色に染まり始めた空を黒く塗りつぶすかのように無数のエイ型のドローンが渦を巻くように飛行している。渦の中心には、濃紫色の光に包まれた巨大な重起動兵器が中空に浮いている。
「しかし、あんな馬鹿でかいの、どうやって飛ばしてるんだ?」
『……フライトユニット……ですかね……』
「フライトユニットだぁ?……昔、試作されてからお蔵入りになったっていうアレか?」
『ええ……10年前、セトニクス・エレクトロニクスで開発していた実験機……コードネーム『大地母神』は追加兵装を変更することで機能拡張が行えるのだと聞いたことがあります……』
「『大地母神』……聞いたことがあるな。確か魔獣災禍早期終息のために継戦能力を高めた中継拠点を機動的に運用するために開発されたんだったな……拠点攻撃型の戦略機動兵器って位置付けだったか……」
『……目の前のアレも、より攻撃に特化した武装とその弾丸が一体となった追加兵装――まるで空飛ぶ火薬庫ですね……』
「追加兵装――というか亀の甲羅みたいだが……無数の槍、もとい砲身をくっつけたもので機能拡張を行っているってか……」
『仰るようにより攻撃特化した追加兵装みたいですね……結局、目の前の光景を見る限り、10年前に強奪された『大地母神』は中華大国側に渡っていたということですね……』
言いながら、フレディ中尉が駆る蒼虎騎兵が降り注ぐ砲弾のうち直撃コースのものを展開している第3形態で弾く。
エイ型ドローンに近づこうとするが。
だが、近づいた分、距離を取る動きにオーレン大尉は眉を顰める。
「というか、俺達足止めされていないか……」
『おや……気が付かれましたか?』
「ASULT GRIFFONを誘い込むために丘陵地帯へ移動したが、逆に封じ込めらているってことは……」
『仮に占領された軍管特区から陸戦部隊が上陸していた場合、人工幻夢大陸中心部へ続く幹線道路の経路が抑えられてしまいますね……』
「……やばくないか?」
『まずいと思いますよ……現状、人工幻夢大陸の防衛戦力は北部に終結させた主力が壊滅状態ですからね……我々と契約している睦月グループの意向次第では人工幻夢大陸からの撤収が現実的ですかね……』
「……元々が睦月グループの前CEO暗殺未遂犯を捕まえる依頼だったはずなんだがな……」
『Mr.本田からの依頼を受けて立案された計画に、参謀殿が蒼虎騎兵2機を動員する計画を追加したことを過剰戦力だと進言して反対した頃が懐かしいですね……』
「結局、参謀殿の深謀遠慮が功を奏しているということになるのか……」
『原国家体制連盟の侵攻から人工幻夢大陸を守るという意味ではですがね……』
――唐突にエイ型のドローンにより作られている壁が爆発を巻き起こしながら崩れていく。
白い羽根のようなものが舞い落ちるのではなく、意思を持った動きをする。
直後、連鎖的な爆発が続きエイ型ドローンの残骸が中空から舞い落ちる。
「……なんだ?」
『白い……羽根?』
フレディ中尉が呟いた瞬間、馬鹿みたいに巨大な白い大剣が、周回するエイ型ドローンの群れを貫くように出現する。遅れて白い大剣の周囲に爆発が巻き起こる。
爆発とともにエイ型ドローンの残骸が煙と共に舞い落ちる。
『あれは……まさか……』
言い切る前に巨大な白光の大剣が薙ぎ払われる。
周回するエイ型ドローンの群れが作る渦を真っ2つに切り裂くように……。
薙ぎ払われた白光の軌跡を追いかけるように、連鎖的にエイ型ドローンが爆発していく。
エイ型ドローンの残骸をまき散らしながら。
目を凝らすように見つめる中、瞬くほどの僅かな間に、白光の大剣が消える。
――と、白い流れ星が尾を引いた。
次の瞬間、流れた白い流れ星が上向きに尾を引いた。
「そのまさか……だな……」
エイ型ドローンの爆発により発生した煙の向こうに戦いの装いを纏った、3対6枚の翼を広げ、白い天使が両腕を組んで中空に浮かんでいる。
『……白の勇士団の特化型機動兵器……ライトセイバー……勇者無しで稼働させる目途が立ったってことですか……』
フレディ中尉の少し硬い声音が全天周囲モニターのコックピット内に響いた。
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