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1話

『壱の勇者』の選抜試験開始の合図とともに選抜候補者達の絶叫がコロシアム中に響き渡った。


 深紅の勇者(壱の勇者)による選抜試験開始の宣言を受け、試験会場全体が騒然としている。


 碧の腕章をつけた騎士が緑の祭壇布が覆っている祭壇をゆっくりと登る。

 祭壇を登りきると選抜候補者となる貴族家令息および従者達をゆっくりと見渡す。

 翻えるマントから紅のハーフプレート・メイルを纏っているのが見て取れた。


「……試験官も近衛騎士なんだね。」


「左様ですね……今年は近衛騎士団が選抜試験を取り仕切るようです……」


 クレアをチラリと見ると思案気に眉を寄せている。


「これより《《適性》》を測定する試験を執り行う!」


 試験官の宣言により、徐々に静かになっていく。


「テフェン卿の説明にもあったが、今回の選抜試験から試験の形式が変更となる。


 評価対象となるのは2つ。


 1つ目は現時点での魔装神具(シード)への適性、


 もう1つは、諸君らの『強さ』となる。」


 ゆっくりと声が行き届いているかを確認するような説明を一旦、区切る。

 祭壇前の選抜候補者となる貴族家令息および従者達をゆっくりと見渡す。


 視線が自分に集まっていることを確認して頷く。

 試験官である近衛騎士が口を開こうとしたとき、か細くも通る声が響く。


「……ぐ……具体的には、ど、どのような……方法で評価するのでしょうか?」


 戸惑い気味な声音のした方を見ると、祭壇近くの黒髪の少年が視界に入る。

 着ている白色の胴衣の裾を握る手が震えている。

 どうやら緊張しているようだ。


「あ。居ました!あの者がソーン家の従者です!」


「えッ!?……そうなんだ……」


「まったく!……どうにかして合流しないと。」


 不機嫌そうなクレアから、質問の成り行きを見ようと視線を戻す。


「……いい質問だ。では具体的な評価方法を説明する。……まずはこちらを見てもらおう。」


 鷹揚に頷いた試験官は、祭壇を覆う緑の祭壇布を勢いよく取り払う。

 祭壇中央部に高さ1メートル、幅1メールの切り出した大理石のような台座が設置されている。

 その台座に半ばまで突き立った直剣が(あらわ)になる。


 刃の幅が10~15センチほど。

 深緑の柄と鍔を含めると70センチ程度の直剣。

 仄かに深緑の光を放っているようだ。


 深緑の柄には、直径3センチほどの翡翠の宝玉が埋め込まれている。


 他の祭壇に配置された試験官も、各祭壇を覆っている赤、青、黄、紫、白、黒の祭壇布をそれぞれ取り払うのが視界の隅に映り込む。


「これは『肆の勇者』の魔装神具(シード)である風の断ち切る者(アウラ・ブレーカー)偽・武装神具(レプリカ)だ。此度の選抜試験はこれを用いて行う。」


 質問した黒髪の少年――身に着けた白の胴衣から従者と推測――を含む祭壇前に集まった子爵令息達とその従者達の真剣な表情をゆっくり見渡し、頷くと続ける。


偽・武装神具(レプリカ)に魔力を流し込んだ際の翡翠の宝玉が発する光の強さで魔装神具(シード)の適性を評価する。最も高い輝度を出せたものが高く評価される。」


「……もう1つの強さは、3つの指標で評価する。


 1つ目の指標は、適性が近いもの同士の模擬戦の結果。


 2つ目の指標は、模擬戦の勝者と私との模擬戦の結果。


 ……そして最後の指標が……『壱の勇者』との模擬戦の結果だ。」


 試験官の近衛騎士の最後の言葉に、一瞬、辺りがシンと静かになる。


「……えッ!?……い、『壱の勇者』との模擬戦ですか!?」


 説明を聞いていた子爵令息達とその従者達の中から慌てた声で試験官に確認をする。その声を皮切りに騒めきが広がる。


「……そうだ。強さの最後の評価指標は『壱の勇者』の評価結果だ。そしてこれが最も配点が大きい。」


 ある意味、()()な評価指標になるほどと内心頷く。

 チラリと、視線だけで周囲の様子を伺う。

 騒ぎはまだ収まらないものの、不承不承といった子爵令息や従者が多いように見受けられた。


「平民の場合、選抜試験の成績が優れていれば学費を全額免除の上、生活費も支給される。……全寮制の宿舎での生活も約束されているが……あくまでも成績上位者のみの特権となっている。」


 おずおずとばかりに、最初に質問をした黒髪の少年――ソーン子爵家の従者が手をあげる。


「どうした?」


「あ、はい。質問いいですか?」


「許可する。」


「……ありがとうございます……えっと……学費を全額免除というのは……その……才能のあるものが家庭事情等で通えなくなることを可能な限り防ぐ措置として整備された制度……との理解で良かったでしょうか。」


「そうだ!……他に質問があるものはいるか?」


 祭壇前に集まった子爵令息達とその従者達の真剣な表情をゆっくり見渡す。

 特に誰からも手が挙がらないのを確認すると頷く。


「では、祭壇近くにいる者から順番に偽・武装神具(レプリカ)に魔力を流し込め!」



 ◆◇◆◇

 ◇◆◇◆◇


 祭壇中央部に高さ1メートル、幅1メールの切り出した大理石のような台座が設置されている。

 その台座に半ばまで突き立った直剣。


 刃の幅が10~15センチほどの深緑の柄。

 それを、一人の従者がおずおずと両手で握ると魔力を流す。


 深緑の柄に埋め込まれている直径3センチほどの翡翠の宝玉が鈍く輝く。


「そこまで!!次っ!」


 続けて別の従者が深緑の柄を両手で握り魔力を流すも、翡翠の宝玉は鈍く輝くだけだった。


 3人目、4人目の従者も魔力を続けて流すが翡翠の宝玉は鈍く輝くだけだった。


「従者程度では、この程度だろうな」


 そう呟いた左側に佇む子爵家令息の方を見る。

 こちらの視線に気づいたのか振り向く。


 長めの赤味を帯びた金髪を邪魔にならないよう、後ろに纏めている。


「言い方に棘があったかな?」


「まあ……」


 口を濁しながら苦笑いを浮かべる。

 金髪の子爵令息は、こちらの表情から信条を読み取ったのか少し眉を寄せる。


「ふむ……こちらの意図は――従者となる者たちは貴族とは違い生まれつき魔力量がそれほど多くはないということを言いたかっただけ――他意はないのだ。」


 凛とした口調に、赤味を帯びた金髪。


 ――あの日。


 幻想空洞(ダンジョン)から溢れだした魔獣の群れに蹂躙された東京の摩天楼。

 ダークブルーの瞳に意志の光を宿す青年の横に佇む、赤味を帯びた金髪の女性。

 紅の細身剣(レイピア)を振るい襲い来る魔獣の手足を切飛ばす姿。

 白のワンピースのスカートを翻しながら舞うが如く振るわれる細い剣戟。

 魔獣の群れを絶妙なタイミングで足止めをし、黒髪の青年のアシストをする姿。


『生きることを諦めて生かされた事実を否定するな!それは、君を生かそうとした人たちを否定することになるんだぞ!』


 つなぎ留められた魂に再び焔を灯す契機となった、凛とした言葉が脳裏を過ぎる。


 あの日に邂逅した美麗人と重なる容姿に、一瞬、目を奪われる。

 貴族令息であることの確認に視線を下げるも華奢な肢体から女性だと気づき驚く。


「ルイ様……視線がいささか不躾かと」


 ()()メイドからのジト目での注意が飛んでくる。


「あ、いや……これは」


 ばつの悪さに口を濁す。


「貴族令息ばかりが、参加しているわけではないからね……」


 苦笑しながら金髪の貴族令息――もとい令嬢からやんわりと窘められる。


「そろそろ従者たちの魔力測定が『おおおお!!!』」


 突如、沸き起こった歓声に祭壇を見ると翡翠の宝玉が一際眩く輝いている。


「ッ!?……これは驚いた……例外がいるのだな。」


「あ……彼は、最初に質問したうち(ソーン家)の従者の人だったよね。」


「左様でございます。ルイ様の従者としてソーン家から選抜されたものです……試験終了後に合流する段取りを付けます。申し訳ありません。」


 頭を下げるクレアの言葉に、傍らの()()()()が驚きの表情を浮かべる。


「ッ!?……君はソーン家の噂の次男だったのか」


「まあ……その噂とやらは会場で初めて聞いたのですが……ソーン家の次男です。」


 苦笑交じりの返答に対する()()()()の慌て様に、思わずクスリと笑う。


「お気になさらず。人の噂というのは、広まるにつれ尾鰭がつくようですから。」


 気まずさから逸らした目でチラっとこちらを見る。

 その仕草から少女の面影が垣間見える。

 

 子爵令嬢という立場でありながら選抜試験に臨み『7勇者候補』の座を求めるということは相応の覚悟をしている……というキャラ設定なんだろうな。


 咳払いをした専属メイド(クレア)を思考を中断して見やると、何やらジト目で頬を膨らませている。


 ――なにかしただろうか。


 内心首をひねっていると、金髪の子爵令嬢が口を開く。


「……助かる。それと名乗っていなかったな。失礼した。私の名は、テレア。テレア=フォン=クレード。クレード子爵家の後継ぎとしてここにいる。」


「クレード家!?」


「クレア?知っているの?」


「東方戦役にて王国軍撤退時にソーン家と共に殿を務められた武家一門と聞き及んでおります。」


「なるほど。あ、こちらも改めて名乗りますね。ルイ=ラ=ソーン。ソーン家の次男としてこの選抜試験に参加しています。」


「ッ!?……そうか」


 一瞬、表情を曇らせて思案顔をしているテレアを不思議そうに見やる。


「そろそろ、従者の魔力測定が終わるようです。」


 クレアの声に碧の祭壇を見やると最後の従者が測定を行っている。


「……ようやくか。これからは子爵家()()()()の魔力測定だ。いくぞ!」


「あ……ああ。」


 どこか吹っ切れた表情で気合を入れるテレアに気圧されながら生返事をする。

 まるで人間の女の子のようだなと思いながら。


 ◆◇◆◇

 ◇◆◇◆◇



 テレアに促され、魔力測定の順番待ちの列に並ぶ。


 どうやら最後尾になったようだ。


 祭壇中央部に高さ1メートル、幅1メールの切り出した大理石のような台座が設置されている。

 その台座に半ばまで突き立った直剣。


 刃の幅が10~15センチほどの深緑の柄。

 それを、最初の子爵令息がおずおずと両手で握ると魔力を流す。


 従者たちと違い、直径3センチほどの翡翠の宝玉が眩い輝きをみせる。


『おおお!!!』


 周囲から、歓声があがる。


「やはり我ら貴族は生まれつき保有魔力が多いのだな。」


 ゲームのNPCのセリフ――選民思想のような言葉に、なんとなく昏い気持ちを抱く。


 魔力測定が順次行われていく。

 いずれの受験者も最初の子爵令息と同程度の輝きを翡翠の宝玉が見せる。


 と、順番が近づいてくる。

 元々、子爵令息令嬢の受験者が30名程度だった。

 思いのほか早く順番が来たことに納得する。


 順番が回ってきたテレアが、祭壇に突き立てられた直剣へゆっくりと歩を進める。

 祭壇中央部に高さ1メートル、幅1メールの切り出した大理石のような台座の前に佇む。

 ゆっくりと深呼吸を数回行う。


 と、意を決して祭壇に半ばまで突き立った直剣の深緑の柄を両手で握り魔力を流し込む。

 すると柄に埋め込まれている直径3センチほどの翡翠の宝玉が神々しい輝きを見せた。


「これは……素晴らしい魔力量だな。偽・武装神具(レプリカ)とも適正が現時点では最高と評価できるな。」


 試験官の評価に周囲がどよめく。


「あれは……クレード家の……」


「クレード家……確か東方戦役時の王国軍撤退戦の殿を務めた勇猛な武家だったな」


「クレード家か……流石だな」


 そして、とうとうこちらに順番が回ってきた。


 ◆◇◆◇

 ◇◆◇◆◇


「ルイ様……ご健闘をお祈りしております。」


「うん。ありがとう。できることをやってくるね。」


 ちらりと魔力測定を行った選抜対象者の方を見ると、テレアがこちらを向き強く頷いていた。


 祭壇に突き立てられた直剣へゆっくりと歩を進める。

 祭壇中央部の高さ1メートル、幅1メールの切り出した大理石のような台座の前で歩を止める。

 ゆっくりと深呼吸を数回行う。


 よく見ると、バスターソードに豪華な装飾を施しただけのように見える。



 

「動かないぞ……ビビっているんじゃないか?」


「あれは……ソーン家の次男だったか……成り上がり貴族のお手並み拝見ってところだな」



 

 ちらりと声がした方へ視線だけ動かす。

 先ほど絡んできた2人の貴族令息が見下した視線をこちらに向けている。


 内心うんざりしながらも祭壇に半ばまで突き立った直剣の深緑の柄を両手で握る。


『Event:001 選抜試験を開始します。』


 突然、目の前にメッセージがポップアップで表示されて消える。


「えッ!?」


 戸惑う中、続けて目の前にメッセージがポップアップで表示される。


偽・風の断ち切る者レプリカ・アウラ・ブレーカーの機能を使うためには、武装神技(マルス)を有効にする必要があります。有効にしますか?

(Yes / No)』


「えっと……これは、『Yes』なのかな?」


武装神技(マルス)を有効にしました。偽・風の断ち切る者レプリカ・アウラ・ブレーカーの機能を限定解除します』


「えっと……『限定解除』ってどういう」


 戸惑っていると、柄に埋め込まれている直径3センチほどの翡翠の宝玉が神々しく輝くと、その光が直剣と台座を含む祭壇全体を覆う。


 次の瞬間、自らの意思で動くかのように祭壇上の台座から抜けた。


 神々しい光は徐々に収まると、翡翠色の光が宝玉と刀身を覆うように輝きを放っている。


「な、何!?……『選抜の資格』なしに偽・風の断ち切る者レプリカ・アウラ・ブレーカーを抜くことが出来るのか!?」


 試験官のその声に周囲が騒然となる。


「ちょっ……ちょっと待て!『選抜の資格』を持たなければ偽・風の断ち切る者レプリカ・アウラ・ブレーカーを抜けないってことは《《アイツ》》はすでに持っているってことか!?」


「おいおい!『選抜の資格』を持ってたら翡翠の宝玉の光も強くなるんじゃないのか!?奴は何か不正をしているぞ!!」


「失格だ!!奴を失格にしろ!!」


 根拠のない暴言が相次ぎ、いわれのない悪意が増幅されていく。

 祭壇を取り囲むように子爵家令息とその従者が怒号を上げる。

 

 ルイを取り巻くように悪意が渦巻く様を目の当たりにしたテレアが叫ぶ。


「待て!冷静になれ!……『不正』であれば近衛が対処するはずだ!」

 

 しかし、テレアの声は既に大きくなった悪意の渦に掻き消されていく。

 

 その様を視界に入れながらもルイの専属メイド(クレア)はルイの瞳を呆然と見つめる。そして濃蒼色に変わったルイの瞳を見つめながら呟いく。


「あれは……あの瞳の色は……武装神技(マルス)

ここまで読んでいただきありがとうございます!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、

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