ユートピア上陸! プニプニうんこ現る!
「川矢 米異、貴様を島流しにする!」
2022年12月、俺は今まで犯してきた罪を償うため、島流しという罰を受けることになった。出発は1時間後だそうだ。ひでーよ。
一緒に島流しされる仲間がいるのが唯一の救いだった。
「川矢さん、あんた何したんだ? 俺はたった150人殺しただけで捕まっちまって、この有様よ」
そう、俺と一緒に島流しされる仲間というのがこの男、連続殺人犯の辻 蓮染草だ。名前に草という字が入っているのがたまらなく面白い。名前だけ見たら100人中100人が植物の名前だと思うだろう。
「川矢さん、あんた何したんだ? 俺はたった150人殺しただけで捕まっちまって、この有様よ」
聞こえてなかったと思ってもう1回言ったのか? 聞こえてるけど今読者と話してたからお前と喋ってる余裕がなかったんだよ。
「俺は何もしてない」
俺は罪を犯したことなどない。にもかかわらず、罰を受ける。これには深いワケがあるのだ。
「何もしてないやつが島流しになんてされるわけないだろ」
その通りだ。確かに俺も真面目な人間ではなかったからな。こうなってしまうのも仕方がないといえる。
「闇金だよ。国家予算の40倍くらいの借金を作っちまってな」
そう、俺はその借金をチャラにしてもらう代わりに闇金業者の罪を全て被ったのだ。殺人に強盗、強姦、放火、立ちション、落書き、野グソなど、数え切れないくらいの罪を被った。
「なんのためにそんな借金を⋯⋯!」
「欲しいものを全部買ってたらこうなってたんだ。まさかこんなに金を使ってるとは思わなかったさ、はは」
この世にあるうんこグッズを全て手に入れたかったんだ。もちろん本物のうんこも集めてた。犬、猿、雉、その他多数の動物のうんこ、そして芸能人のうんこ、ハリウッド俳優のうんこ、スポーツ選手のうんこ、アイドルのうんこ、この世の全てを手に入れたいと思ったんだ。
ただ、あまりこの趣味は人に言えないんだよな。けっこうな確率で引かれるから。話したうちの2割くらいの人は引いてしまうのだ。
そういえば、島流しってどんな刑なんだろうか。
「なぁ辻さん、島流しについて何か知ってるか? 知ってたら教えてほしいんだが。拷問とかあるのか?」
痛いのとかは耐えられないんだよな。
「普通の奴らよりは詳しいぜ。なんたって連続殺人犯だからな。拷問か⋯⋯島に行くこと自体拷問っちゃ拷問なんだよなぁ」
どういうことだよ。針山地獄みたいな感じなのか。塩酸でも撒かれてるのか。
「痛いのとかはあるのか? 刺されるとか殴られるとか」
「そういうのは一切ないぜ。だがな、それの方が良かったと思うほどにつらいらしいぞ、あの島は」
刺されたり殴られたりする方がマシだと思うような島? 入るだけで拷問? いったいどんな島なんだ⋯⋯
「時間だ! さっさと船に乗れクズども!」
そう言って鬼のようなおじさんが面白い形の棒で俺たちの尻を叩いた。クズだなんてひどいよ。俺は何もしてないのに。
それから鬼のようなおじさんと3人で船に乗った。19時間ほどたった頃にやっと島が見えてきた。それと同時に、懐かしい匂いが鼻孔をくすぐった。これは⋯⋯!
「くっせ!」
辻さんが鼻をつまんでいる。
「静かにしろ!」
そんなに怒らなくても。
近づくほどに匂いが増してゆく。この匂い⋯⋯間違いなくうんこだ。この島は、うんこの島なんだ。辻さんにとっては拷問かもしれないが、俺にとっては天国だ。こんな島がこの世にあったなんて、感動で涙が止まらないよ。
「さぁ、降りろ!」
鬼のようなおじさんが面白い形の棒で俺たちの尻を叩く。叩かれなくても降りますよ〜。
「ひぇえ! やめてくれぇ! こんな島入ったら死んじまうよ!」
辻さんが泣いている。
「死んでくれて構わんが」
鬼のようなおじさんは鬼だった。
俺はワクワクが抑えられず、泣いている辻さんを置いて走り出した。
ぬかるんだうんこの地面を踏みしめる度に、黄土色の半固形の物体がびちゃびちゃと音を立てて跳ねている。周りに見える景色も黄土色一色だった。
草も木も、山も川も、小屋もスーパーマーケットも、全てが黄土色だった。ここは天国か。うんこ好きの俺のために用意された天国なのだろうか。もしや、俺はもう死んでいて、神様がこの天国を見せてくれているんじゃないか。
草履の裏についたうんこを舐めてみる。
うむ、しっかり苦味があって、口の中に匂いも広がる。これは正真正銘のうんこだ。そして、これは現実だ!
「おいお前、オイラの縄張りに入って来るたぁ良い度胸じゃねぇか」
後ろから声が聞こえた。
振り返ると、そこにはまさに「うんち!」というようなとぐろを巻いた可愛いうんこがあった。1メートルくらいの。
え、こんなでっかいうんこ、食べていいの? 19時間航海してたからめっちゃ腹ぺこなんよね。いきなりこんなおもてなしされるなんて、最高すぎじゃん。
「じゃ、お言葉に甘えて⋯⋯」
俺は巨大な喋るうんこを掴んで大きな口を開けた。
「おいおいちょっと待て! 話聞いてなかったのか!? なにがお言葉に甘えてだよ! だいたいうんこを食べようとするなんてどうかしてるぞ!」
あ、そうか。食べていいよなんて言われてなかったな。いや、でも島にあるものは勝手に食べても大丈夫だろ。人間以外なら。
ていうか、なんでうんこが喋ってるんだ? 縄張りとか言ってたよな。うんこに縄張りとかあんの? うんこ同士で縄張り争いしてたりすんの? 意味分かんないんだけど?
「お前何者なんだ!」
意味分かんなすぎるので聞いてみた。
「それはこっちのセリフだよ! いきなり島に入ってきてオイラを食べようとするだなんて!
オイラたちはここに来た人間の死体を食べて生活してんだよ! お前のやってることはその真逆だよ!」
死体だって!?
「死体ってどういうことだよ! 俺を殺すつもりなのか!? 痛いのはないって聞いてるんですけど!?」
話が違いすぎるだろ!
「いやいや殺したりなんかしないよ。みんな勝手に死ぬんだよ。こんな環境だし、食べ物もないし飲み物もないし、お前ら人間が生きていけるようなところじゃないんだよ」
何言ってんだ?
「食べ物なんてそこら中にあるじゃないか。なんなら島ごと全部食べ物だろ」
うんこは驚いたような顔をしている。顔なんてないんだけどな。なんか分かる。
「そうだったな、お前さっきオイラを食べようとしたもんな。すげぇな、うんこ食べて生きていける人間がいるとは思わなかったぜ⋯⋯」
早く食べたいな。生きてるうんこなんて食べるの初めてだからなぁ。話ももう飽きてきたし、そろそろ食べちゃうか! 両手で掴んでっと、いただきます!
「待て待て待て待て! お前ヤバすぎるだろ! お前にとってうんこが食べ物なのは分かったけど、喋ってる相手を生きたまま食べるってヤバすぎないか!?」
確かに、よく考えるとヤバいわ。これが人間だったら絶対にしないもんな。
いや、でもうんこが生きてるのっておかしいよな。そんなの許されないよな? じゃあこいつの言うことなんて聞かなくていいよな?
「いただきまーす」
「何でそうなるんだよ! とりあえずオイラがいつも食ってるうんこ料理を食わせてやるからオイラを食べようとするのをやめろ!」
マジ? うんこが直々にうんこ料理を作ってくれるの? 楽しみーっ!
「あそこのうんこの滝の裏にある洞窟がオイラの住処だ。先に行っててくれ、オイラは縄張りの安全を全部確認してから行くから」
「分かった!」
すごいな、うんこの滝。うんこというよりはゲリだけど、喉乾いた時とか最高じゃん。今度滝行しに来ようかな。
さて、この滝の裏に洞窟が⋯⋯あった。
へぇー、電気もちゃんとあるんだ。うんこ電気なんだなぁ。ウンコンセントから電気出てんだ。すげー。
あ、うんこの棚がある。勝手に開けたら怒られるかな。まぁいいか、どうせ相手はうんこなんだし。勝手に開けちゃえ!
こ、これは⋯⋯!
うんこの通帳とうんこの印鑑! これ持ってうんこの銀行に行けばうんこのお金が引き出せてしまうのでは? 名前とか書かなきゃダメかな。あいつ名前なんて言うんだろ。
あ、通帳に書いてあるやん。
『プニプニうんこ』
名前可愛いな!
いや、でも勝手にお金引き出したら怒るかな? そりゃ怒るよな、見ず知らずの人にお金取られる訳だもんな。最悪うんこの警察に通報されるかもしれない。
でもさ、所詮この島は人間の産物だろ? 人間あってのうんこなんだから、うんこがどれだけ足掻いたところで人間の方が上だろ? じゃあとやかく言われる筋合いはないよな。
ていうかこの島は誰のうんこなんだ? なんで自我を持ったうんこがいるんだ? うんこがあるということは人間もいるんじゃないか? こいつらを生み出した張本人が生きてるんじゃないか?
難しいことを考えて疲れたので、俺はうんこ通帳とうんこ印鑑を持って洞窟を出た。
お前うんこマニアのくせにうんこを下に見すぎじゃないか? うんこマニアの風上にも置けないやつめ! お前はただうんこを支配したいだけなんだろう! それはうんこ好きとは言わない! ただのうんこ独裁者だ!