Ⅱ-2
アンソニーだけが真ん中にいる
アンソニー「びっくりだった。アリスがそんなことを言うなんて、そんなことを思っていたなんて・・・本当に驚いた。あのあと、アリスが追いかけて来て、こう言った。『明日もあそこで待ってる』ってね。たぶん、返事が聞きたいんだろう」
暗くなる アンソニーとアリスが真ん中にいる
アリス「・・・昨日、私が言ったこと覚えてる?」
アンソニー「・・・・・・」
アリス「覚えてるんだったら、返事をちょうだい」
アンソニー「・・・・・・」
アリス「ねえ、アンソニーったら・・・」
アンソニー「・・・・・・アリス・・・」
アリス「何?」
アンソニー「・・・返事をする前に・・・俺の過去の話を聞いてもらいたいんだ」
アリス「過去の話?」
アンソニー「そう、過去の話。それを聞いてくれたら、アリス。君に昨日の返事をするよ・・・聞いてくれる?」
アリス「ええ!いいわ。アンソニー、あなたの話は初めて。だから、しっかり聞くわ」
アンソニー「ありがとう。・・・俺の本当の名前は、ケヴィンなんだ。アンソニーじゃなくてケヴィンなんだ」
アリス「アンソニーじゃなくてケヴィン!?」
アンソニー「そうなんだ・・・俺には親も兄弟もいないんだ。・・・俺の親はね、アル中でね・・・親父もおふくろもすごいアル中だった。・・・小さい頃、親に虐待されていて・・・・・・ある日、俺は親がいない時、思いきって家のドアを開けて、俺の走れるところまで走った。その時ちょうど、人が現われて・・・その人に言ったんだ『助けて!!親に殺される!!』ってね。その人は元警察官で俺はその人に助けられたんだ。今もその人には感謝してる。それから、少しして、親父もおふくろも病気で死んだ。俺は天涯孤独。でも、寂しくはなかった。やっと自由になれた気がした。・・・それから何年かして、友人ができた。それまで、俺には一人も友人がいなかった。初めての友人だ。その友人はとても頭の良い優等生だった。俺は、悪戯ばかりしていた。よく大人に怒られた。そんな頃だった、一人の女の子が俺の住んでたところに家族と一緒にやって来たんだ。その女の子が来て何年か過ぎた頃、俺はこう呼ばれてたんだ。『口説きアンソニー』とか『飲んだくれアンソニー』とか・・・俺はその名のとおり酒をバカみたいに飲んでた。・・・・・・こんなこと言うとアリス、君は怒るかもしれないし、俺のことを嫌いになるかもしれない。・・・そうなるかもしれないけど、この話の続きを聞いてくれるかい?」
アリス「ええ、聞くわ。聞いてもアンソニー・・・ケヴィンって呼んだほうがいい?」
アンソニー「どっちでもいいよ。(小さな声で)今は・・・」
アリス「じゃあ・・・アンソニー、聞いても私はあなたを怒らないし、嫌いにならないわ。初めてあなたに会ってとってもすてき!!って思った時のことを思い出したら、あなたのことを嫌いになんてならない・・・」
アンソニー「それならいいんだ。・・・続き、話すよ・・・」
アリス「ええ、早く聞かせて」
アンソニー「・・・あの日も酒をバカみたいに飲んでたんだ・・・いつもよりたくさん飲んでた。それでね、気がつくとさ、隣にはさ、家族と一緒にやって来た女の子・・・その時にはもう立派な大人の女性のキャサリンがいたんだ。キャサリンっていうのは分かると思うけど、家族と一緒にやって来た女の子ね。・・・それから、キャサリンと仲良くなったんだ。・・・その頃だったんだ、俺の一人だけの友人、友人の名前はスチュアートっていうんだけどね・・・そのスチュアートが『キャサリンが好きだ』って言ったんだ。・・・・・・その頃だんだん俺もキャサリンが好きになってた。・・・それで、俺はスチュアートにこう言ったんだ『俺もキャサリンが好きになってしまった』ってね・・・それから、俺とスチュアートとキャサリンで話し合ったんだ。・・・話し合ったって言っても俺が一方的に話してたんだけどね・・・」
アリス「そ、それでどうなったの?」
アンソニー「それで、俺はスチュアートとキャサリンのキューピッドになったんだ」
アリス「それじゃ、その二人は恋人同士になったのね?」
アンソニー「ああ、そうだ。俺は恋愛のために友人を無くしたくなかった。・・・だから、二人のキューピッドになったんだ。・・・・・・俺は、もしかすると逃げたのかもしれない」
アリス「逃げた?」
アンソニー「ああ、逃げたんだ俺は・・・恋愛から逃げたんだ。怖いんだ、恋愛をするのが・・・とっても怖いんだ。もし・・・もし、恋愛をして、相手を傷つけてしまったら?・・・もし、恋愛をして、結婚をしたら、俺はうまく暮らすことができるのか?もし、恋愛をして、結婚をして、子供が生まれたら、俺はその子を大事にできるだろうか?本当に幸せの家族ができるだろうか?って、不安なんだ。・・・不安で不安でどうしようもないんだ。どうすればいい?」
アリス「アンソニー・・・それは皆が思う気持ちだから心配しなくていいのよ」
アンソニー「それは分かってる。でも、やっぱり不安で不安でたまらないんだ。もし、俺もあの親のように自分の子供を・・・って考えると、とても怖いんだ」
アリス「大丈夫よ。アンソニー、あなたはとても優しいもの。きっと、良い夫になって、良い父親になるわ。信じて、私の言葉を・・・」
アンソニー「本当にそうなると思うか?」
アリス「思うわ」
アンソニー「本当にそう思っているんなら、本当に嬉しいよ・・・」
アリス「本当にそう思ってる。だって、アンソニーあなたはとっても優しくて、とってもすてきな男性よ。・・・ほら、ね、私怒りもしないし、あなたを嫌いになってない。・・・あなたの過去の話を聞く前より聞いた後のほうがもっと好きになったわ。本当に好きなの。アンソニー、あなたのことが本当に好きなの。愛してるの!!お願い、昨日の返事を聞かせて!!」
アンソニー「こんな俺でも好きなのか?愛してるのか?」
アリス「ええ!!」
アンソニー「・・・・・・」
アリス「・・・・・・」
アンソニー「・・・俺は、もう逃げない!!逃げそうになっても逃げない!!・・・スチュアート、お前は幸せだよな!?きっと・・・俺も幸せになってもいいよな?・・・スチュアート!!お前は普通の家族しか知らない。俺から見れば、お前の生きている世界は光だ。俺の生きている世界は闇だ。そんな俺なのに、俺のことを愛してくれる人が一人いる。一人いれば十分だ!!アリス・・・」(アリスの顔を見る)
アリスもアンソニーの顔を見る
アンソニー、急にアリスを抱く
アンソニー「アリス、俺もアリスのことが好きだ!!愛してる!!」
アリス「本当に!?」
アンソニー「ああ!!」
アンソニー、アリス 抱き合う 暗くなる