学校でモブキャラだった僕が可愛い後輩と一緒に悪役令嬢のようなクラスメイトにざまぁをしたら人生が変わった
モブキャラに、なりたくてなった訳じゃない。
目立つことが嫌いな僕は、いつの間にか一人でいることに慣れただけ。
クラスメイトは僕の名前すら知らない。
先生は名前は覚えているものの、僕が見えていないのか毎朝、僕がいるのか確認をする。
存在感のない僕は目立たないから、それでいいと思っていた。
このまま高校生活を静かに終わらせて、社会人になってもモブキャラとして生きていくんだと思っていた。
誰の思い出の中にも存在しない僕。
「あっ、ごめんね。大丈夫?」
クラスメイトの女子が廊下で僕にぶつかって謝ってきた。
僕はその女子を驚きながら見てしまった。
だって僕とぶつかる相手はみんな、僕がいたことに驚くのに、その女子は驚かなかったから。
逆に僕が驚いた。
そして女子の顔を見てもっと驚いた。
その女子は学校で一番の美女だったから。
こんな間近で見たことはなく、驚いた。
「えっ、本当に大丈夫? 私ったらよそ見をしていたから、あなたの足を踏んだわよね? もしかして骨が折れてたりしてないわよね?」
美女は僕を覗き込みながら心配そうに見ている。
そんなに見られると困ってしまう。
「あっ、いやっ、その。大丈夫です」
「本当? 良かった」
美女は僕に笑いかけてくれた。
すると美女の友達が駆け寄って彼女に話かけた。
「ちょっと誰と話をしてんの?」
「えっ、誰ってクラスメイトの彼よ」
「彼は一人がいいんだから、話なんてしたら迷惑よ」
「えっ、そうなの?」
「それに、あの見た目はダメよ。体型はガリガリで前髪なんて長過ぎだし、黒縁の瓶底眼鏡よ。何を考えているか分からないわ」
そして美女とその友達は僕から離れていった。
そんなに悪口を言わなくてもいいと思うんだが?
僕はそう思いながら自分の教室へ戻る為に歩き出す。
モブキャラは誰の心にも残らない。
だって女子達は見た目で選ぶから。
「そんなに言われて、ムカつかないんですか?」
僕は視線を下に向けていたのを上に上げると、そこには背の小さな可愛い女の子が立っていた。
上履きの色で一つ下の後輩だと分かる。
「君は高校生?」
「それは失礼ですよ。私だって好きでこんなに小さい訳ではないんですからね」
「それなら僕だって悪口を言われてムカつかない訳はないよ?」
「それなら怒ればいいんですよ」
「そうだけど、女子達が言うことは間違いじゃないからね」
「それでも悪口は言ったらダメなんですよ」
彼女は僕の代わりに怒っているようだ。
何故かそれが嬉しかった。
僕が彼女の中には存在していることが嬉しかった。
「ありがとう。君はイイコだね」
僕は彼女の頭をヨシヨシと撫でた。
「私はちゃんと高校生です。子供扱いは止めて下さい」
彼女はそう言いながら怒っているようだが、僕の手は嫌がらなかった。
彼女の短いショートヘアはサラサラでずっと撫でたくなる。
「私はまだ悪口を言った人に怒っているんですからね」
「もう忘れていいよ。女の子は笑顔が一番、似合うんだから」
「あっ、、、」
「ん? どうしたの?」
彼女が顔を赤くしてうつむいたから僕は彼女の顔を覗き込んだ。
「分かりました」
彼女はいきなり顔を上げて決心したように言った。
「私はあの女子の先輩達に悪口を言ったことを後悔させます」
「えっ、何でそうなるわけ?」
「私は先輩を、その見た目を変えてみせます」
「それって僕が変わろうと思うことが前提だよね?」
「先輩は変わりたくないんですか?」
「僕はこのままでいいよ」
「分かりました。先輩はそのままでいいです。私が先輩の心を変えます」
「どうしてそこまでしてくれるの?」
「同じだからです」
「同じ?」
「その話はまた今度にしましょう。それではまた放課後に先輩の教室へ行きますね」
彼女はそう言って何処かへ行ってしまった。
何だったのだろう?
僕はそう思いながら教室へ戻った。
一日を何もなく過ごし、今日も平和だったと思いながら帰る支度をしていた。
「先輩。迎えに来ましたよ」
廊下から元気で明るい大きな声がした。
僕はその声を知っていた。
だから僕は存在感を消すように、聞こえないフリをした。
そんな僕に彼女はお構い無しに近寄って覗き込んだ。
下を向いて帰る支度をしていた僕と彼女の視線がぶつかる。
「先輩。ちゃんと見えてますよ。隠れようとしないで下さい」
彼女は少し悲しそうに言った。
僕は彼女を傷付けたようだ。
僕のしたことは彼女の存在を消そうとしていることと同じだと気付いたんだ。
「ごめん。でも僕は目立ちたくないんだ」
「誰も見てませんよ。だから私の存在を消そうとしないで下さい」
彼女の言葉に僕は顔を上げた。
するとクラスメイト達が僕達を見ていた。
彼女は嘘をついた。
「嘘をついたね」
「それは先輩への反撃です。私を消そうとした先輩が悪いんです」
「僕は帰るから」
そして僕は教室を急いで出た。
人の目が怖い。
「先輩。待って下さい」
「君はついてこなくていいよ」
「嫌です。私は先輩を変える為に離れません」
「僕は変わらないよ。僕は変わりたくないんだ」
「先輩は自分にもう少し自信を持って下さい」
「僕に良い所なんてないんだよ。そんな僕は目立たなく、誰の心にも残らない方がいいんだ」
「先輩。そんなこと言わないで下さい」
彼女は自分に言われたかのように傷付いている。
「君は可愛いし、人懐っこいし、明るいし、一緒にいて飽きないから、気にしなくていいよ」
「そんなことはないです。チビだし、お節介だし、おバカさんだし、足は遅いし、天の邪鬼だし、、、」
「君の嫌な所は分かったから」
僕が彼女を止めなかったらいつまでも自分の嫌な所を言い続けそうだった。
彼女も自分の嫌な部分はあるようだ。
「みんな嫌な所はあるんですよ? 先輩だけじゃないんですよ?」
「そうみたいだね。でもどうしてそんなに堂々と歩けるのかな?」
「そんなの気にしてないからです」
「気にしない?」
「そうです。私がチビなのは先輩が撫でやすいようにです」
彼女はそう言って僕の手を持って彼女の頭に置く。
彼女がそんなことを笑顔で言うからそうなんだって思ってしまった。
「君は変な子だね?」
「私はイイコだって先輩、言いましたよね?」
「そうだね。変な子でイイコだよ」
「もう! そんな先輩にはこうです!」
彼女はそう言うと僕の眼鏡を取った。
僕の視力は凄く悪い。
彼女が何処にいるのかさえ、ぼんやりとしか分からない。
「眼鏡がないと全然、見えないんだ」
「それなら私の声を聞いて下さい。私はここにいます。眼鏡を取り返してみて下さい」
「でも本当に見えないんだ。足元も見えないから怖いよ」
「私を信じてそのまま真っ直ぐ来て下さい」
僕は彼女の言う通りに真っ直ぐ歩く。
ぼんやりと彼女らしきものが見える。
後もう少し。
その時、僕は自分の足に自分の足を引っ掛けて彼女の方へ倒れそうになる。
なんとか倒れることは回避できたが彼女と抱き合う形になってしまった。
「先輩。わざとですか?」
「ん? そうだね。お返しかな?」
「先輩の変態」
「なんでそうなるんだよ?」
「だって抱き付くなんて変態ですよね?」
「これは仕方ないだろう? 君が眼鏡を取るからいけないんだ」
僕は彼女から少し離れて、ぼやけて見える彼女を目を凝らして見た。
顔の辺りがピンク色に見えるのは気のせいだろうか?
「眼鏡を返してくれるかな?」
「ねぇ、先輩。前髪を切って下さい」
「眼鏡は返してくれないのかな?」
「もう少しだけ見えないようにしたいんです」
「なんだよそれ?」
「この前髪を切って下さい」
彼女はそう言って僕の前髪を持ち上げた。
僕の視界が明るくなる。
「この前髪は僕の存在を無くしてくれる大切な
前髪なんだ」
「先輩の存在はもう、無くせませんよ。私と出会った時から、、、」
「そうだね。君にはすぐに見つかりそうだよ」
「でしょう? だから先輩。前髪を切りましょう?」
「いつか切るよ」
「駄目です。明日、一緒に切りに行きましょう?」
「明日? 明日は土曜日だよ?」
「そうです。デートです」
「でっ、デート?」
彼女はそんなに驚かなくてもと言って、明日の十時に駅前で待ち合わせですと言った。
僕は初めてのデートに心臓がバクバクだ。
今がこうなら、明日は死んでしまうかもしれないと思った。
それほど僕はドキドキしていた。
◇
次の日、待ち合わせ場所に三十分も前に着いた。
ソワソワして落ち着かない。
何度も携帯電話で時間を確認する。
「うわぁ~ん」
いきなり子供の大きな泣き声がした。
その子供を見ると親がいないようだ。
迷子?
僕は子供に近づく。
「お母さんは?」
「うわぁ~ん」
「泣かないで。お兄ちゃんが一緒に探すからね」
「うん」
待ち合わせ時間が迫っていたが、この子を助けてあげるのが先だと思った。
「お母さんはどっちに行ったの?」
「お母さんはいないよ」
「それなら誰と来たの?」
「お姉ちゃんだよ。お姉ちゃんがおトイレに行くって言って、待ってたけど寂しくなったの」
「そっか。それなら一緒に待っていようか?」
「うん。でも僕、お兄ちゃんの眼鏡が嫌なの」
「えっ、どうして?」
「眼鏡を取ると少し怖い僕のお父さんが、すごく優しくなるんだ」
「それならお兄ちゃんも取るよ」
「お兄ちゃんもとても優しそうだね」
僕が眼鏡を取ると男の子は嬉しそうに笑った。
こんな小さな子に教えられるなんて、僕ってまだまだ子供なんだろうなあ。
「本当ですね。優しくなりました」
男の子と一緒に駅前のベンチで座っていると上から声がした。
僕が見上げると彼女がニコニコしながら見下ろしていた。
「見てたんだ?」
「少し前からですけどね」
「それならこの子のお姉さんを、トイレに行って探してきてくれないかな?」
「分かりました」
そして彼女はトイレへと向かった。
すぐに彼女と男の子のお姉さんが出てきた。
男の子とお姉さんは僕達にお礼を言って手を繋ぎ帰っていった。
「お兄ちゃん。次は私の相手をしてくれるかなぁ?」
「お兄ちゃんって、君は僕の後輩だよ?」
「今日はお兄ちゃんです。それだと先輩も緊張しなくて過ごせますよね?」
「えっ」
「周りの目を気にする先輩なら、そっちの方が恋人に見られるよりはいいですよね?」
「まあ、冷やかしの目が減るからね」
「それじゃぁ、今からお兄ちゃんです。敬語も使わないからね」
彼女はそう言ってウインクをした。
彼女なりの優しさが嬉しかった。
僕の緊張をほぐしてくれた。
彼女は美容室へ僕を連れていき、前髪だけではなく髪全体を美容師に切らせた。
全体的に長くてボサボサしていた髪は短くなりすっきりとした。
そして彼女は僕にコンタクトを買わせた。
眼鏡はいらないと言われた。
初めてのコンタクトは違和感があったけど、眼鏡よりも視界が綺麗に見えた。
店員さんにはお世辞のように、イケメンなお兄さんと可愛い妹さんですねと何度も言われた。
そう言われて嬉しいのか、嬉しくないのかよく分からない感情が生まれた。
「君には付き合ってくれたお礼をしたいんだ」
「それなら女の先輩達に、悪口を言わせない先輩になったら私のほしいモノを下さい」
「君のほしいモノ?」
「その時に教えます」
「高価なモノはやめてくれよ?」
「それはどうですかね?」
彼女はクスクスと笑った。
「今日は本当にありがとう」
僕はそう言って彼女の頭を撫でた。
彼女が言う通り、彼女が小さいから頭を撫でやすい。
「今日は妹だから子供扱いも許します」
彼女はそう言って嬉しそうに笑った。
彼女の心の中に僕がちゃんと存在しているんだと実感できた。
彼女がとても愛おしいと思った。
そして僕のモノにしたいと初めて思った。
◇◇
次の日、僕が教室へ入るとクラスメイト達が見てくる。
見られることが苦手な僕も、彼女が僕を変えてくれたんだと思うとうつむくこともなく、自分の席へと座る。
彼女が喜んでくれると思えば、見られることも我慢できた。
彼女の心の中に僕がちゃんと存在しているのなら、何でも平気だった。
「おはよう」
学校一番の美女が僕に挨拶をしてきた。
「おっ、おはようございます」
「クラスメイトなんだから、おはようでいいわよ」
「あっ、そうだね。おはよう」
「印象が変わったわね」
「うん。彼女が変えてくれたんだ」
「彼女? 好きなのね?」
「えっ」
「顔に書いてあるわ」
「彼女にはまだ伝えていないから、秘密にしててくれると助かるよ」
「分かってるよ」
美女はそう言って綺麗に笑った。
美女を彼女のように可愛いなんて思わなかった。
美女は頑張ってねと言って僕から離れていった。
僕はその日から誰の目にも見えるようになった。
クラスメイトに話し掛ければ、会話をしてくれる。
先生も僕のことを来ているのか、確認をすることもなくなった。
そして僕も友達ができて彼女と会うことができない日が続いた。
そんなある日、彼女が学校を遅刻してきているのが僕の席から見えた。
彼女の横では大人のイケメンが心配そうに彼女の様子を見ながら歩いている。
彼女もそのイケメンが隣にいるからなのか、安心しているようだ。
「彼女って昔はダサイ女の子だったみたいよ。高校デビューしたって後輩の女の子から聞いたわ」
僕が窓から彼女を見ていると以前、僕に悪口を言ったクラスメイトが近寄ってきて言った。
「だから何? どんな彼女も彼女だよ?」
「整形したみたいだからあの顔は偽物なのよ?」
「僕は顔で選んだりはしないよ」
「でもみんな美女を見ると可愛いなんて言うじゃない?」
「みんなじゃないよ。僕は思わないし、だから君のことを可愛いって思ってくれる人もいると思うよ」
「どこにいるのよ?」
「まずは君の中身を変えた方がいいよ。嫉妬なんてしても君が苦しいだけでしょう?」
「しっ、知らない」
クラスメイトは逃げるように教室を出ていった。
彼女がいた場所を見るともう、いなかった。
彼女に会いたいな。
「ねぇ、知ってる?」
ある日、僕が自分の席で帰る支度をしていると、クラスメイトの女子に声をかけられた。
「何の話かな?」
「小さくて可愛い後輩の女の子ってあなたの彼女でしょう?」
「かっ、彼女はそんなんじゃないよ」
「そうなの? でもあの子の様子を見ていた方がいいかもね」
「どうして?」
それからクラスメイトの女子は僕に教えてくれた。
彼女が困っていること。
そして彼女が困ることをしているのが誰なのかを。
僕はすぐに動く。
彼女は僕を助けてくれたのに、僕は彼女に何もしてあげていない。
彼女を助けたい。
そして彼女の中で僕は存在し続けたい。
「話があるんだ」
「何?」
僕は放課後、僕に悪口を言ったクラスメイトに話しかけた。
二人で屋上へ向かった。
「僕がこの前、言ったことを覚えてる?」
「何か言ったかな?」
「中身を変えた方がいいって言ったよね?」
「人って、そんな簡単に変われないわ」
「それは君が変わろうとしないからだよ」
「そんなのあなたに分かる訳ないわ」
「分かるよ。だって君は今の自分を好きだから。自分は間違っていないと思いこんでいるんだ。彼女が悪いんだと、人のせいにしているんだ」
僕の言葉にクラスメイトはムッとした顔になる。
「僕は許さないよ。彼女を傷つけるならその倍でお返しするよ。君にはそんな覚悟はあるの?」
「あなたなんて怖くないから。この前まで存在なんてしていなかったあなたが私に何ができるの?」
「君は僕と逆なんだ。誰かに見られたいんだよね? 君は一人じゃ何もできないんだ」
僕はそう言ってさっき入ってきた屋上のドアを開ける。
ドアの前には学校一番の美女が立っていた。
「全部、聞いたよ。友達だと思っていたのに、あなたは私を自分が目立つように利用してたのね?」
「そんなことはないわ」
「彼から聞いたの。彼の彼女を脅したり、いじめたの?」
「それは、、、」
「私はあなたが好きよ。私がバカだからあなたが教えてくれて助かっているのよ」
「私も好きだよ」
「それなら彼の彼女に謝りなさいよ」
「うん」
美女が悪口を言ったクラスメイトの頭を撫でながら、謝りに行くよと言って屋上を二人で出ていった。
彼女を守れることができた。
これからは彼女の隣にいることを、当たり前にしたい。
そうすれば、彼女をずっと守れるから。
◇◇◇
今日は、放課後に校舎裏で待っていますと、ラブレターを貰ったから向かう。
断ることは決まっているけど、勇気を出して言ってくれる女の子には、ちゃんと誠意を示さなければいけないと思う。
しかしそこには女の子はいなかった。
その代わり以前、彼女の隣にいた大人のイケメンがいた。
「あの。何でしょうか?」
「お前、あいつのなんだよ?」
「えっと、あいつとは?」
「可愛くて、小さくて、ふわふわで、ぷにぷにで、良い香りで、優しくて、強くて、たまに天の邪鬼で、少しおバカさんだけど守ってあげたくなるあいつだよ」
彼女のことを言っているのは分かった。
彼女のことを大切に思っていることも分かった。
それでも僕は彼女を譲るつもりはない。
「僕は彼女の何なのかと聞かれても、先輩と後輩ということしか言えません」
「それだけの関係なんだな?」
「今はそうです。でも僕はいつか彼女と、隣にいることが当たり前になるような関係になりたいと思っています」
「あっそ。まあ、俺は絶対に許さないけど、あいつが決めることだからな」
「許さない?」
「ちょっとお兄ちゃん!」
僕には大人のイケメンが何を言っているのか分からないでいると、後ろから足音がして大人のイケメンに突進する人物が現れた。
「おいっ、突進する必要はないだろう?」
「だってお兄ちゃんには邪魔されたくないの」
そう言って突進した相手は僕の方を向く。
「どうして君がここに?」
「だってお兄ちゃんが私の知らない所で先輩を脅そうとしてたから、急いで来たんです」
「君のお兄ちゃん?」
「そうです。過保護なお兄ちゃんです」
お兄さんだったんだ。
ライバルじゃなくて良かった。
モデルのような容姿でイケメンには勝てないからね。
「俺の可愛い妹を他の男の餌食にならないように、目立たない三つ編みおさげの眼鏡女子にしていたのに、いきなりそれをやめた時にこの日が来ると思っていたんだ」
「お兄ちゃん。私はいつまでも何もできない子供じゃないのよ?」
「妹を守るのが兄の務めだろう?」
「私にはお兄ちゃんよりも頼れる人がいるの」
彼女はそう言って僕を見つめた。
そんな僕達を見て悔しそうにしながら、お兄さんはトボトボと帰っていった。
「えっと、何か色々と質問があるんだけど?」
「その前に私から聞いてもいいですか?」
「君にはダメなんて言えないよ」
「甘やかしですか?」
「君を何よりも優先したいからだよ」
「先輩って本当に変わりましたね」
「君のお陰だよ。ありがとう」
「どういたしまして。先輩。私達の出会いを覚えていますか?」
「君が僕の代わりに怒ってくれた日でしょう?」
「やっぱり覚えていないんですね」
彼女は落ち込みながら言った。
「電車でニヤニヤしているおじさんから、私を助けてくれたんですよ?」
「電車? そういえばそんなことがあったけど、あの子は小学生だったよね? 嫌そうにしていたから小さな女の子の壁になってあげたんだ」
「その女の子は大きな男の子を下から見上げて、眼鏡の隙間から優しい眼差しを見たんです」
「あれって君だったの?」
「そうです。ちなみに小学生じゃなくて中学三年生です」
彼女は頬を膨らませて拗ねている。
「君はあの時から可愛かったんだね」
「覚えていないくせに」
「覚えてるよ。下から僕を見上げてお礼の代わりに、笑ってくれたよね?」
僕がそう言うと彼女はそうですと言って嬉しそうに笑った。
お礼といえば僕も彼女にお礼をしなくてはいけない。
「僕は悪口を言われたクラスメイトに、悪口を言わせないようにしたよ。だから君にお礼をさせてよ」
「それじゃぁ、私のほしいモノをください」
「うん。いいよ」
「先輩との思い出です」
「僕との思い出?」
「そうです。先輩の隣でずっと思い出を作っていきたいんです」
「そんなの、簡単だね。僕はもう、君から離れることはないからね」
「やっぱり先輩って変わりましたね?」
「そうだよ。僕は君の為に何にでもなれるんだ」
「私もです」
そして僕達は見つめ合う。
「君が好きだよ」
「私も先輩が好きです」
彼女は僕を見上げて上目遣いで言った。
彼女が小さい理由は頭を撫でやすいからではなくて、彼女の可愛い上目遣いが見られるからかもしれない。
僕はモブキャラ。
何処かの誰かさんからすればモブキャラ。
でも彼女からすれば僕は
主役級なんだ。
読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しくお読みいただければ幸いです。