ロロは、第六騎士団へ。そして、デイズと、
デイズは、朝、授業が始まる前に、久々に第六騎士団へと顔を出した。
騎士団は、第一から第二十九まで存在し、それぞれに管轄や役割が異なる。
帝立魔法学園があるルイーゼの町を拠点にするのは、第一、第四、第六の三つの騎士団。
これらの騎士団がルイーゼを拠点にしているのは、魔法学園の生徒を補佐として迎え、鍛えるためでもあった。
デイズが所属している第六騎士団は、言わば補給・治癒担当の団。
もちろん猛獣退治などの戦闘も行うが、最も多いのが、災害被害に対する補給や治療だ。
ちなみに、第六騎士団は、普段は非常にゆるい空気の団だ。
待機場所では、みんなでお茶をしていたりする。
災害の報告が発生した途端、全員が一瞬でプロの顔へと変化するが。
第六騎士団の旗は、オレンジ色の燕を模している。
これは、どこにでも飛んで駆けつける、という意味を込めて作ったらしい。
第六騎士団の拠点は、三階建てのレンガの建物。
窓から、オレンジの燕の紋章の旗が下がっている。
拠点の一階は、受付と、騎士たちの待機場所になっている。
そこで、デイズは騎士団長と、お茶を飲みながら話をしていた。
「体調はもう大丈夫ですかな?
ブラスター男爵令嬢」
「はい。まだ、完全とは言えませんけど、だいぶ良くなりました」
昨日は、久しぶりによく寝れた気がする。
アイから受け取った、ロロの言葉。
「だいじょうぶ?」の一言。
たった一言だけれど、そのおかげで、不安がずいぶんと払拭されたのだ。
デイズの中で、ますます大きくなっていくロロの存在。
待機場所を見回すと、みんな革の鎧を着ている。
災害派遣がメインの第六騎士団では、何よりも素早さが重視される。
そのため、みんな鉄ではなく、革の鎧を着用している。
嵐の中でも目立つよう、オレンジに染められた革の鎧が。
デイズの目の前には、丸い顔に口ひげを生やした、第六騎士団長。
騎士団長は、前々からロロのことをデイズから聞いていて、ロロを団に欲しがっていた。
「ブラスター男爵令嬢。その、例のネクロマンサーの彼ですが、やはり駄目ですかな?
彼の気質は、第六騎士団の理念に合っているとは思うのですが……」
強大な死霊術を、人々を癒すために使っているロロ。
その心の根底は、人々を救助する第六騎士団に通ずるものがある。
だが、ロロは騎士団に入るつもりは全く無いらしい。
騎士団は、場合により遠方にも派遣される。
ロロの地元である、灰色の村の中の、墓場の村で暮らすゾンビたちは、ロロとあまり離れると塵へと還ってしまうため、ロロは遠出をする騎士団には入らないのだ。
デイズは、騎士団長にそのことを告げる。
「たぶん、無理だと思いますよ。
ロロ君は、灰色の村からは離れられないんです」
「うーん、ならば特例として、この付近で発生した災害時のみ活動してもらうというのは、どうだろうか」
「あ、それならもしかしたら行けるかもしれません。
そう伝えてみましょうか?」
「ブラスター男爵令嬢。是非、お願いしたい」
★
その日の放課後、デイズはロロと一緒に、第六騎士団の拠点へと足を運んでいた。
「本当に、近くだけでいいの?
僕、遠出はできないよ?」
墓場の村のゾンビたちを心配するロロ。
あまり離れると、彼らが塵へと還ってしまう。
「騎士団長には、事情は伝えてあるよ。
それでもいいからって」
拠点の建物の、頑丈な木のドアを開けるデイズ。
それに続くように、中に入るロロ。
一階の待機場所のそこらじゅうで、おやつを食べながら待機している団員。
災害の無いときは、みんな朗らかだ。
奥から、丸い顔に口ひげの、第六騎士団長が顔を出す。
「おお!ブラスター男爵令嬢!
彼が、噂のネクロマンサーですかな?」
ロロが騎士団長に、ぺこりと頭を下げる。
「ロロです。よろしくお願いします」
「ああ、固くならないでいいですよ。
いつもはみんな、ゆるく過ごすことにしているので」
笑顔でロロに手を振る騎士団長。
騎士団長は、続ける。
「それで、ですね。
見てみたいのですよ。君の死霊術を」
第六騎士団の拠点の裏側には、大きな演習場が作られている。
ここでは疑似的に災害の状況を作り出し、レスキューの訓練を行うのだ。
そこに積み上げられたのは、大きな瓦礫の山。
地震が起きた時を想定してのものだ。
瓦礫の山の下には、練習時に被害者の代わりとなる、人形が下敷きにされていた。
そこに現れる、巨大な人影。
三階建ての騎士団の拠点よりも、さらに大きなスケルトン。
その巨大なスケルトン、がしゃどくろは、大きく重たい瓦礫を、やすやすと除けていた。
野太い声が、他の騎士たちに掛けられる。
「はい、次の被害者さんよぉ~」
普段なら、数十人がかりで除ける瓦礫。
がしゃどくろは、一人で瓦礫を除け、下敷きになっていた人形を丁寧に騎士たちに渡す。
巨大な手のひらから、被害者代わりの人形を受け取る騎士たち。
ロロがそれを見て呟く。
「やっぱり、災害派遣だと、がしゃどくろさんが一番合ってるね」
巨体から繰り出されるパワーと、頑丈な骨と、バリアの魔法。
地震でも、洪水でも、嵐でも。
がしゃどくろは、様々なケースで活躍できるポテンシャルを秘めていた。
あとは、探査と連絡に優れた、アイがいいだろうか。
他の眷属三名は、完全に戦闘特化型のため、獣や野党などの討伐系の仕事の方が向いている。
第六騎士団でも、討伐はやるみたいなので、その時にでもお披露目しようとロロは思っていた。
ロロの隣では、唖然として、がしゃどくろを見ている騎士団長。
「……いやはや、ブラスター男爵令嬢から聞いてはいたのですが。
実物を見ると、凄まじいの一言ですな」
騎士団長は、ロロの死霊術に関しては、実際に見るまでは、半信半疑であった。
だが、今この瞬間、ロロの実力は本物だと、確信へと変わる。
騎士団長は、ロロの両手を握りしめ、輝く目でロロに懇願する。
「是非!是非に!我が第六騎士団へ!」
「あっ、その、遠出はできませんが、それでよければ……」
「もちろんだとも!事情は聞いていますから!」
騎士団長の口ひげが、興奮した鼻息で揺れる。
少し引き気味に、入団を了承するロロ。
騎士団長が、満面の笑みを浮かべた。
★
その日の夜は、ロロの歓迎会。
いつ災害が起きるか分からないため、第六騎士団では酒は禁止されている。
もちろん、ロロは元々、まだ酒が飲めない歳であったが。
お茶とお菓子の歓迎会。
ロロは、チョコレートケーキに舌鼓を打っていた。
「えっ。おいしい」
そのチョコレートケーキは、そこらの店で売っているものよりも、ずっと美味であった。
騎士団長が、ニコニコ顔だ。
「それ、私が作ったんです」
「え?騎士団長がですか?」
「はい。私の趣味でして」
人は外見とは違うものだと、改めて思い知るロロ。
そういえば、自分自身も外見は、ただのみすぼらしい少年に過ぎないことを、ロロは思い出した。
しばらく団員たちと話をし、縁もたけなわとなった頃。
デイズが、ロロを手招きする。
「ロロ君。屋上、行ってみない」
「屋上、あがれるの?」
「うん。夜景がきれいだよ」
デイズは、ロロの手を取り、階段を上がる。
長い階段を昇り、屋上への扉を開ける。
そこには、煌めくルイーゼの街並み。
デイズが振り返る。
「ね?きれいでしょ?」
デイズの背後に光の粒が撒き散らされているみたいで、とてもきれいだった。
デイズに見とれるロロ。
デイズも、顔を赤くする。
「ちょっと、ロロ君。その、見過ぎ……」
「あ、ご、ごめん」
ふたりして、下に俯く。
手を取り合ったまま。
ロロは、繋いだままの手を見る。
(あ、この手、どうしよう。
離すタイミング無かったなぁ)
今から急に離しても、変な空気になりそうだ。
手は、繋いだままでもいいか。
ロロは、顔を上げる。
「デイズさん。ここ、すごくいい場所……」
その時。
デイズの唇が、ロロの唇に重なった。
(えっ?)
デイズは、手も唇も、離そうとしない。
ロロは、どうしていいかわからなかった。
初めてのキス。
デイズが。
なぜ、ロロに?
そして、デイズは唇を離す。
その頬は、赤く染まっていた。
デイズの頭の中には、姉の言葉が響き渡っていた。
『どうなっても後悔がないように生きてるの。
好きな人には、好きって言わないと。
言えなくなってからじゃ、遅いから』
そう、言えなくなってからでは遅いのだ。
危険と隣り合わせの人生。
デイズは明日死ぬかもしれない。
ロロの手の届かない所で死ねば、死霊術で蘇ることもできずに。
だからデイズは、今日、自分に正直になることにした。
「ロロ君。私の彼氏になって」