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本当に欲しかったもの

 近衛騎士団は、戦場を駆ける。

 真鍮(しんちゅう)の怪物、ヒドラへと向かって。


 近衛騎士の内、三名だけは絨毯に残っていた。

 ミラージュ男爵は、皇帝をバリアで守り。

 ボラン教授は、後方で怪我人を治療する。

 ガラスの剣を操るガラス術師は、グリーンハルトの隣で控えていた。


 残る近衛騎士は、箒を取り出し、キールの元へと飛び立つ。

 各々の武器を構えて。




 分厚いバリアを張っているスケルトンの隣へ、オーバードライブが駆けつけた。


「お前さん、がしゃどくろか?」

「あら、オーバードライブちゃん」

「お前さん、ずいぶんと小さくなったなぁ。一体何があった」

「乙女には秘密があるものなのよ」

「……そうか。まあ、いい」


 オーバードライブは、がしゃどくろの肩を軽く叩く。


「防御は任せる。攻撃は任せろ」


 がしゃどくろは、右手の親指を立てて見せた。




 ムラサメは、担いでいたナインを、大絨毯の上へと運ぶ。

 七人ミサキにマナを吸われたところに、無理をしてブラックホールを作り、さらにはロロたちを運んだものだから、マナ切れで倒れてしまったのだ。

 ナインは、ボラン教授へと引き渡され、絨毯の上に転がされる。


 ナインは、起き上がれないまま、ムラサメに声をかける。


「ムラサメ。死ぬなよ」

「ふふふ。私、もうゾンビですよ」

「そういう意味じゃねえ。いなくならないでくれ」


 ムラサメは、刀の鯉口(こいくち)を切り、(こた)える。


「まだまだ食べたい物が一杯ありますので。

 死ぬわけにはいきませんな」


 編み笠の下で、ニヤリと笑い。

 駆け出して行く、ムラサメ。




 キールは、大激怒していた。

 ロロとデイズを殺そうと思ったら、突然に発生した、異常な硬さのバリアの壁。

 そして、空飛ぶ箒に乗り、まるで蝿のように(たか)って来る、魔法使いたち。

 何もかもが、自分の邪魔をする。


 キールは、レッドドラゴンの死体の上で横たわる、セバスチャンへと複数の鎖を伸ばす。

 その先には、真鍮の剣。


「枯渇したマナが、またいつ湧き出てくるかわかんねえからな。

 後顧(こうこ)(うれ)いは断たせてもらうぜ」


 セバスチャンの胸に突き刺さる、数本の真鍮の剣。


「狂戦士薬は、死んだ後も残り続ける。

 ゾンビにしようが何しようが、セバスチャンは誰の味方にもならねえ。

 ここらで退場だ。大魔法使いの爺さん」


 そして、キールはセバスチャンの死体を切り刻んだ。

 細切れになる、セバスチャン。


「薬が残ってる肉を食う訳にもいかないからな。

 手前(てめえ)はただ、死んでろ。

 ……ん?」


 キールは、上空を見上げる。

 無数の魔法使いが、箒や絨毯に乗って、飛び交っている。

 その内の一つから、キールへ向かい、落ちてくる人影。


 黒と赤のオッドアイが、残像の軌跡を残す。

 飛来したオーバードライブが、キールへと蹴りを放つ。


 キールは、一本の鎖を持ち上げた。

 その鎖の先には、小さな真鍮の盾。

 盾は、瞬時に巨大化し、オーバードライブの蹴りを受け止めた。


 轟音と衝撃が、帝都を揺らす。


 オーバードライブは、(はらわた)が煮えくり返っていた。


「お前さん、ウチの元団長に何してくれてんだ」

「オイオイ、感謝しろよ。

 手前の元団長は、二度とまともな人間には戻れねえんだからよ。

 俺が直々(じきじき)引導(いんどう)を渡してやったぜ」


 オーバードライブは、真鍮の盾を蹴り、宙を舞い、がしゃどくろのバリアの壁の上に着地する。


「セバスチャン殿に打った薬を作ったのは、お前さんか」

「ああ、そうだ!

 楽しい余興(よきょう)だったろ?

 感謝しろよな!」


 その会話は、その場の全員に聞こえていた。

 生者にも、死者にも。

 近衛騎士たちの間に漂う、怒りで()で上がりそうなほどの空気。


 キールは、激高していない時であれば、敵の気配を敏感に察する。

 だから、背後から迫る脅威にも、気づけた。

 そこには、編み笠を被った、女の侍。


「おっと!手前はこっち来んなよ!」


 キールは、巨大化させた真鍮の盾を、ムラサメの前に突き立てた。


「雷蜘蛛から聞いてんだよ、フォレストピアの勇者。

 手前は、人が意識できない早さで動く、ってな。

 だから、攻撃もさせねえ。近寄らせもさせねえ」


 キールは、巨大化した八つの真鍮の盾を、竜の頭のようにくねらせる。


「来いよ、近衛ども!

 手前らの魔法なんざ、この盾の前には効かねえんだよ!」


「でも、吹雪は盾では防げませんよね?」


 キールの耳に届いたのは、少女の声。


 空飛ぶ絨毯の内の一つに、黒い三角帽子の魔女がいた。

 氷点下の魔女、ティナ・シール・グレイ。


 ティナ・シールは、キールに向けて手のひらを向ける。


「凍りなさい」


 そして発生する、氷と雪の猛吹雪。

 空気を凍らせ、がしゃどくろのバリアにも霜が下り、キールへと迫る氷点下。


 キールは、袖から新たに八本の鎖の束を解き放つ。


「質量の小さい魔法なんざ、吹き飛ばせば済む話なんだよ」


 その鎖の先に付いていたのは、刃の付いた真鍮のプロペラ。

 プロペラはキールの頭上で巨大化し、強力な風を起こす。

 押し戻される吹雪。


 氷点下の空気が、近衛騎士団へと吹き荒れる。


「うひゃあっ!」

「うおお!寒い!」

「あっ!ご、ごめんなさい!」


 ティナ・シールが、慌てて吹雪を解除する。

 霧散する氷点下の空気。

 火炎や氷結といった、熱魔法は非常に強力ではあったが、強風に吹き飛ばされるという弱点があった。

 しかし、真鍮術使いが、まさかあんな方法でティナ・シールの吹雪を破るとは思ってもみなかった。

 当然、氷点下の魔女の吹雪は、ちょっとやそっとの風で押し返せるような代物ではない。

 キールは、その身にどれほどのマナを宿しているのか。

 そもそも、一体なにをして、あれほどの力を得たのか。


 そして、猛スピードでキールの後ろを横切る箒が一つ。

 第一騎士団の偵察飛行部隊の一人が、操縦する箒。

 その箒から飛び出したのは、銀髪のベリーショートの女性。


 第一騎士団長、エリザベス・サファイア公爵令嬢が、聖剣ヴィーナスを構えて、宙に舞う。


「風の吹かしっこだったら、私を仲間外れにしないでくれよな」


 エリザベスが、宙に浮いたまま、聖剣ヴィーナスを振るう。

 巻き起こる、かまいたちの混ざった、大竜巻。

 キールは一瞬にして、上空まで巻き上がられた。


 キールは(つぶや)く。


「やっぱりスゲぇな、聖剣ヴィーナス。

 この風には、勝てねえ。

 まあ、でもよ……」


 キールの袖から伸びているのは、鎖に繋がれた八本の真鍮の剣。

 キールは、その鎖を(まと)めて掴み、乱暴に振り回す。

 その真鍮の剣が、竜巻を切り裂いた。

 消えゆく竜巻。


 エリザベスが驚愕(きょうがく)する。


「は?はあああっ?」

「そんなに驚くことはねえだろ。

 あの侍だってやってたじゃねえか。

 魔法斬り。

 俺も、ようやく出来るようになったんだ。

 いいもん見れただろ?

 お代は、手前の命だ。サファイア公爵令嬢」


 キールの八つの真鍮のトラバサミが巨大化し、エリザベスへと襲い掛かる。

 上空から迫りくる、八つの竜の(あぎと)


 宙に浮いたままのエリザベスは、それを回避する手段がない。


(くそ!このまま終わりかよ!)


 だが、そこを一人の男が、空飛ぶ箒で横切った。

 エリザベスの身体を抱きとめ、トラバサミを(かわ)す男。

 第一騎士団の、偵察飛行部隊の一人だ。


「団長、危機一髪だったな!ガハハ!」

「うっせえ!マジでヤバかったんだからな!」


 エリザベスは、全身の冷や汗が止まらなかった。

 危険の多い第一騎士団の戦歴の中でも、一番の危機だったのだ。

 エリザベスは偵察兵へと話しかける。


「それにしても、あの野郎、マジで大魔法使い並みか、それ以上だ。

 このままだと、帝国が滅ぼされちまう。

 どうすりゃいいんだ」




 ロロは、考える。


 ()にも(かく)にも、あのプロペラか盾を何とかしないことには、騎士団のほとんどが手を出せない。

 火炎や冷気を武器にする騎士は、数多い。

 それ以外のほとんどの魔法も、プロペラの猛烈な強風には負けてしまうだろう。

 唯一対抗できそうなのは、質量の大きい、岩石くらいだ。

 しかし、岩石を放っても、巨大な真鍮の盾に阻まれて終わりなのだ。

 プロペラと盾のコンビネーションが、鉄壁の防御を作り上げている。


 一体、どうすれば……。


 そこに、ロロの肩を叩く、手。

 ロロが振り向くと、デイズが立っていた。


「どうしたの?」


 デイズが提案する。


「向こうがコンビネーションを組んでいるのなら、私たちもやったらどうかな」




 キールは、帝都中央広場で、騎士たちを相手に大暴れしていた。

 既に、多くの死者も出ている。

 キールは、叫ぶ。


「大した事ねえな!騎士様よぉ!」


 真鍮のヒドラが、地を()せ、天をうねる。

 空を飛ぶ魔法使いたちが、多頭の竜の餌食になってゆく。


「俺が最強だ!はははっ!

 ……ん?」


 逃げ惑う魔法使いの中、ひとつだけ、上空で静止している空飛ぶ絨毯があった。

 あんな場所に止まっていたら、撃墜(げきつい)してくれと言わんばかりだ。


「あの絨毯の奴、馬鹿じゃねえのか。

 ほれほれ、逃げねえと死んじまうぞ?」


 キールは遊ぶように、トラバサミの鎖を一本だけ、その絨毯へと向かわせる。

 トラバサミは口を開け、絨毯に食らいつこうとしていた。


 だが、その絨毯からは、数人の騎士が顔を出している。

 一斉に杖を構える騎士。

 そして出現したのは、巨大な岩石。

 固く重い巨石が、トラバサミを押しやり、落下する。


「げっ!」


 トラバサミもプロペラも、固くて質量の大きいものには弱いのだ。

 だが、キールには真鍮の盾がある。

 どんなに大きくても、ただの岩石程度なら、盾で弾くまで。


 しかし、絨毯の上から現れたのは、目と髪を明るい紫に染めたデイズ。

 デイズが、岩石に向かって、極大の火炎放射を放つ。

 紫に燃える巨岩。

 あまりの熱量に、既に巨石の表面が、溶岩と化している。


「……おいおい、マジか」


 ここにきて、初めてキールは汗を垂らす。

 盾で岩を弾くことが出来るが、それだけでは、あの超火力の炎がそのままキールへと降り注ぐことになるだろう。

 盾で岩を防いでから、プロペラを吹かしても、降り注ぐ炎を飛ばすのには間に合わない。

 優先すべきは、炎の抹消。

 しかもあの威力の火炎を消すには、プロペラ三つは必要になる。

 炎を消しても、巨岩がプロペラを破壊するであろう。

 だが、背に腹は代えられないのだ。


 キールは、トラバサミの制御を投げ捨て、三つのプロペラを巨大化させる。

 途轍(とてつ)もない風圧が、プロペラから放たれる。

 だが、デイズの炎はなかなか消えず、キールへと燃える岩石が迫りくる。

 防御ではなく回避をしようと思ったが、ご丁寧(ていねい)に、全方位から隙間なく、同時に炎が放たれていた。

 これでは逃げられず、プロペラの風で吹き飛ばすしか手が無い。

 残り五つのプロペラで、他の方向から振る火の雨を吹き飛ばす。


 プロペラに衝突する寸前で、ようやく消えるデイズの紫の炎。

 だが、今からプロペラを引き寄せ、盾に入れ替えるのは間に合わない。

 炎が消えた巨岩が、三つのプロペラに激突し、プロペラはねじ曲がり、ひしゃげていた。


 形の曲がったプロペラは、もう風が起こせない。


 キールの真鍮術は、強化や巨大化に特化し、形を変化させる技術は乏しかった。

 大まかな形状の変化程度ならば可能だが、プロペラは、ほんの少しでも形が違っていると、正しく機能しない。

 そこまでの繊細な形状変化は、キールには不可能であった。


 形を曲げながらも、巨岩を受け止めたプロペラ。

 一応、回転する刃として武器にはなるが、もう、風を起こすのには使えない。


「チッ。ふざけやがって……」


 舌打ちをして、岩石を適当に投げ捨てるキール。


 だが、気づく。


 レッドドラゴンの血の海となった帝都中央広場の地面に、幾つもの、影。

 上空を見ると、騎士や冒険者の魔法使いの軍団。

 それらが一斉に、燃える岩石を作り出す。


 まるで、隕石群。


 キールの(ほお)()()る。


「マジか」


 盾とプロペラを総動員し、守りを固めるキール。

 巨大な八つの盾が、燃える岩を防ぐが、そこから鎖を通し熱が伝わり、キールの腕を焼く。


「ぐあああっ!」


 金属魔法使いは、熱や電気といった、金属に伝わりやすいエネルギーが弱点なのだ。

 特にキールのような、素肌に直接金属を身に付けているタイプは。


 肌の焼けつく痛みに耐えながら、盾で燃える岩石を弾き飛ばす。

 だが、その岩石に纏わりついていた炎が、盾の間をすり抜けて、キールへと降り注ぐ。

 キールのすぐ目の前で、残り五つとなったプロペラを総動員する。


 キールの強力なプロペラの風と言えど、炎を吹き飛ばすには、本当はもっと距離が必要だった。


 弱い火力の炎は、何とか消せたが、ひとつだけ、全く消えない青い炎があった。

 近衛騎士イザベラの、青い炎だ。


 青い炎は、プロペラをすり抜けて地面に到達すると、キールの立つ場所を中心に燃え上がる。


「ぎゃああああ!」


 キールは、右半身を青く燃やし、地面に転がる。

 レッドドラゴンの巨体から流れ出た、血で消火する。

 身体中を血で真っ赤に染め、何とか焼死を免れた。


 だが、右半身の服は焼け焦げ、皮膚も大火傷を負っていた。

 凄まじい痛みが、全身を駆け抜ける。

 この火傷は、命に関わる。

 速い所、帝都を壊滅させ、フライングパンあたりに行って、治癒術師に治療をしてもらわねばなるまい。


「く、そ……。

 ゆるさねえ。

 ゆるさねえぞ、てめえら」


 キールは、全ての凶器を解き放ち、上空に居る魔法使いたちに、襲い掛からせる。

 剣も、盾も、壊れたプロペラも、トラバサミも、何もかもを。




「デュフフ。待ってたっす。この時を」


 壊れた神殿の影からは、金色の千里眼を輝かせ、黄金の弓を引くリリアナ。

 先ほどまでは、キールのすぐ近くにある真鍮の盾のせいで、有効打を放てなかった。

 だが今、逆上したキールは、盾でさえも、武器として扱った。

 全ての鎖が伸びきっていた。


 リリアナの狙うは、盾に繋がった鎖。

 秘宝の黄金の弓で、木の矢を放つ。


 それは、生き物のようにうねり、軌道を無視し、伸びきった真鍮の鎖に、次々と襲い掛かる。

 撃ち砕かれてゆく、盾の鎖。

 鎖を千切られ、キールの魔法が無くなり、元の小さな盾に戻って行く。


「なっ!俺の盾が!」


 さらに、第二射を構えるリリアナ。

 リリアナの第二射は、駄目押しとばかりに、小さくなった盾を、全て砕いた。


 これで、キールの身を守る物は、五つのプロペラから発する強風のみ。

 火や冷気はまだ吹き返せるが、重く質量のある攻撃には、無力な、風。


 上空にいる魔法使いたちが、幾つもの燃える巨石をキールに放つ。

 移動して(かわ)すこともできないほど多くの、炎に包まれた岩石。


「こんなところで……!

 やられて、たまるかぁ!」


 盾を失ったキールは、燃える巨石を、剣やトラバサミで斬り砕き、プロペラの風で炎ごと吹き飛ばした。

 だが、何個もの巨石を砕いた破片は、あまりにも数が多すぎた。

 プロペラの風で吹き飛ばしきれなかった破片は、キールの身体を貫く弾丸となる。


 キールは、両手で頭を(かば)う。

 その両手や胴体へと、高速の石礫(いしつぶて)が突き刺さる。


「ぐほっ……」


 幾つかの石礫(いしつぶて)が、内臓を傷つけたようだ。

 右半身に大火傷を負い、腹部を石の弾丸で撃ち抜かれたキールは、満身創痍であった。


 腹の奥から、血の塊が込み上げてきて、大量に口から吐きだす。


「うぼぇっ……」


 どばどばと、血を吐くキール。


 キールは、竜の血と、自分の血で(まみ)れた姿で、帝都の夜空を(あお)ぐ。

 もうすぐ夜明けなのか、東の空がうっすらと明るくなっていた。


 周囲には、騎士団と冒険者たち。

 弱者の集団に、今や敗北寸前のキール。


 失血し、ふらつく頭でキールは自問自答する。


 なぜ、こうなってしまったのだろう。

 何が欲しくて、自分は力を求めたのか。

 本当に欲しかったものは、何だったのだろうか。


 キールの真上にある絨毯から、紫色の炎の塊が飛び出した。

 デイズだ。

 デイズが、炎を身に(まと)い、こちらにやってくる。


 キールは、弱った身体で、五つのプロペラを回す。

 デイズに吹き荒れる強風。

 紫の炎が消え去った。


 だが、そこに居たのは。

 デイズと。

 ムラサメ。


 ムラサメが、編み笠の下でニヤリと笑う。


「おや、さっきの盾と比べたら、ずいぶんと斬りやすそうですね」


 ムラサメは、プロペラの強風すらも切り裂き、踊るように宙を舞う。

 抜き放たれる、刀。

 五つのプロペラが、気づいた時には、全てバラバラに斬られていた。


 ムラサメは、デイズに言う。


「さあ。フィナーレはお願いしますよ」


 デイズは、目と髪を、かつてないほど、明るく輝く紫色に染め、両手をキールへと向ける。


 キールは、思い出した。

 そうだ。全ては、デイズだ。

 デイズが、欲しかったんだ。


 キールは、真鍮の鎖を投げ捨てる。


 そして、デイズへ左手を差し出す。


 デイズを求めて。


「お、おれ、は……」


 デイズの手のひらが、紫色の光を放つ。

 それは、まだ暗い帝都の街並みを、紫色に染めるほど。


「おれは、おまえが……」


 デイズの手のひらが、灼熱を凝縮させる。

 触れれば、鋼鉄ですら溶かすほど。


「デイズ、おまえのことが……」


 紫色の光が、キールの全身を照らす。


 そして、デイズから放たれたのは。




 魔王レッドドラゴンの炎すら凌駕する、全てを焼き尽くす、紫色に輝く大爆炎。




 帝都中央広場が、紫の炎で満ちる。

 レッドドラゴンとセバスチャンの死体をも焼き尽くし。

 上空に浮かぶ騎士団や冒険者の元にも、熱風が巻き起こる。




 キールは紫の炎に飲み込まれ。

 肉を焦がし。

 骨を燃やし。


 ひとかけらも残らずに。


 この世から、消え去った。








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― 新着の感想 ―
[良い点] イザベラが活躍した ナインもエリザベスも死なずに済んだ ようやくキールが退場した [一言] 更新ありがとうございます ミーシアもキールもやらかしたことの割には 苦しまずに逝ってしまった…
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