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そして全ては帝都中央広場へ

 デイズは、目を覚ます。

 その目に入ったのは、満天の星空。

 そして、ロロと、眷属のみんな。


「あ、れ……?私、たしか……」


 頭の中がぼんやりする。

 なんで自分は、こんなところで倒れているのだ。


 たしか、あのやたら複雑な路地に入って……。

 街灯があって……。

 そこで、黒髪の少女に出会って……。

 確か、ミーシアと言う名前の。


 そして。


 デイズは、跳ねるように身を起こす。


 そうだ、胸を突き刺されたんだ。

 ミーシアに。

 氷の刃で。


 デイズは、自分の胸元を見る。

 制服に穴が空いていた。

 だが、傷はどこにもない。

 夢だったのだろうか。

 しかし、制服にはしっかりと穴が空いているのだ。


 デイズは、ふと気づく。

 自分の手や脚の、肌。

 こんなにも青白かっただろうか。

 まるで、ロロの眷属のゾンビたちみたい。


 ゾンビたちみたい。


「……え?」


 デイズは、ロロを見る。

 ロロの目には、涙が浮かんでいた。


 もし。

 もし、あれが夢では無かったとしたら。


「ロ、ロ……」

「デイズ。ごめんね。

 本当は、デイズの意思を尊重しなきゃいけなかったって、わかってる。

 でも、どうしても、一緒に居たかったんだ。

 だから……」

「私、その、し、死んだの?」

「うん」

「……それで、ゾンビにしたの?」

「……。

 うん。

 ごめん」


 デイズは。


 ロロに、抱き着いた。


「ありがとう。ロロ。

 私を助けてくれて。

 私がこの世からいなくなるまで、もうあと数時間しか残ってないのは分かってる。

 それでも……」

「デイズ。

 聞いて。

 デイズは、塵にはならないよ。

 僕の眷属になったから」


 デイズは、ロロに抱き着いたまま、その意味を咀嚼する。

 しかし、疑問は湧くばかり。


「え?だって、眷属って、もう増やせなかったんじゃないの?」

「……」


 デイズは、ロロから身を離し。

 あたりを、見回す。


 アイが、いる。

 リリアナが、いる。

 ティナ・シールが、いる

 ムラサメが、いる。

 がしゃどくろが、いない。


「……がしゃどくろさんは?」

「……」

「ね、ねえ。がしゃどくろさん、は?」


 ロロは答えない。


 もうデイズは、おおよその事を察していた。

 だが、認めたくないのだ。

 あまりにも辛すぎる現実を。


 そして、ロロが口を開く。


「がしゃどくろさんは、眷属から外れることを選んだんだ。

 そうじゃないと、デイズが……、って」


 デイズは、ロロの顔を見て、止まる。

 その黒い瞳を揺らして。


 デイズは、ロロの胸元へと、顔を埋める。


「ごめん、ロロ。ちょっとだけ、このまま……」


 ロロは、デイズの頭を優しく撫でた。


 そこに、リリアナとティナ・シールが、歩いてくる。

 二人は、デイズと同じく、そっとロロに抱き着く。

 アイも、ロロの頭の上に乗っていた。

 アイの涙が、ひんやりと冷たかった。


 ムラサメは、一人後ろを向いていた。

 その表情は、伺えない。

 悲しんでいるのか、怒りに満ちているのか。

 それとも、いつも通り飄々としているのか。


 今は、戦火の真っただ中。

 こうしている間にも、罪なき人が死んでいるのかもしれない。

 しかし、ロロはみんなの悲しみを受け止める。

 これは、眷属の主として、そして夫として、とても大切なこと。




 本当は、戦いなんて、無ければいいのにと、何度も思う。


 しかし、こちらがそう思っていても、必ず敵はやって来る。


 それは、ある時は猛獣だったり。

 ある時は、犯罪者だったり。

 ある時は、国だったり。

 戦いは、常にそばにある。


 きっと、戦争が異常なのではなく、平和が貴重なのだ。


 きっと、死が異常なのではなく、命が貴重なのだ。


 だからこそ、かけがえのない人生を、楽しく生きることが大事なのだ。




 ロロは、三人の妻を、まとめて抱きしめる。


 もうこれ以上、何も失いたくない。


 妻たちも。

 ムラサメやアイも。

 近衛のみんなも。

 学園のみんなも。

 騎士団のみんなも。

 ナインも、ついでに。







 ミーシアは、浮かれながら、その民家のドアを開いた。


「キール君、ただいま」


 ようやく。

 ようやくだ。

 やっと、デイズをキールの中から追い出せる。

 あとはデイズの死を、キールに報告するだけだ。


 キールは、ずっとデイズに執着していた。

 自分の女にしようと。

 ミーシアは、それがどうしても許せなかった。


 キールの中には、自分だけがいればいい。

 あんな女のことで、頭をいっぱいにして欲しくない。


 ミーシアは、民家の二階へと上がる。

 当然ここは、ミーシアの家などではない。

 適当な家を見繕って、住民を食い殺し、勝手に占拠しているのだ。


「キール君?」


 キールは、真鍮の鎖が編み込まれた革の鎧を着て、ベッドに腰かけ、武具の手入れをしていた。

 顔も上げずに、ミーシアに返事をする。


「どうした、ミーシア」

「あの、ね。残念なお知らせを聞いちゃって……」


 ミーシアは、しおらしい演技をする。

 ミーシアがデイズを殺したと、悟られてはいけない。

 キールはデイズに執着している。

 もし、自分の獲物を横取りされたと知ったら、次の標的はミーシアとなるのだ。


「デイズさん、のこと、なんだけど……」


 キールは、武具の手入れをしていた手を止める。


「デイズがどうした?」

「その、タタリヒメさんの妖怪に、殺されちゃったって……」


 キールが、顔を上げる。

 目を見開き、驚愕している。


「……本当か?」

「うん。タタリヒメさんから聞いたの」


 キールは、手の中の武具を見つめる。

 それは、真鍮の鎖の束。

 鎖の先には、丸鋸やドリルと言った、小さな凶器が沢山ついている。


 キールは、それを壁に投げつけた。

 腰かけていたベッドから立ち上がる。


「ふざけやがって!タタリヒメ!あの女!

 デイズは俺の物だぞ!

 勝手に殺しやがって!」


 目を充血させ、怒り狂うキール。

 でも、ミーシアは心の中で笑っていた。

 それでいい。

 タタリヒメは、キールの怒りの標的となり。

 キールを癒すのは、ミーシアの役目。

 ミーシアの行動は、全てキールの心を手に入れるためであった。


 荒い息を吐き、ベッドに乱暴に座るキール。

 その横に、そっと座るミーシア。


「キール君。一緒にタタリヒメを殺そう?」

「……ああ、そうだな。そうするか」


 タタリヒメへの殺意により、デイズのことはもう頭の中から消えかかっているはず。

 あとは、ロロとタタリヒメを殺せば、もうミーシアの邪魔をする者はいない。

 キールの女は、ミーシア一人だけでいいのだ。


 キールが、呟く。


「……ああ、そうだ。

 お前、だいぶマナ溜まったか?」

「もちろん!もう大魔法使いにだって負けないよ!」

「そうか。それは頼もしいな」


 キールは、ミーシアに向かって微笑む。

 これだ。これが欲しかったのだ。

 ミーシアは、心が蕩けそうになるほど、キールに溺れていた。


「ミーシア、こっちへ来い」

「……うん」


 キールは、ミーシアをベッドへ誘う。

 ミーシアは、キールに抱き着いた。








 そしてキールは、ミーシアの首筋を噛み切る。

 絶叫するミーシア。


「うぎゃああああっ!」


 ミーシアは、咄嗟にキールを突き飛ばす。

 背中から壁に激突するキール。

 首筋からは、大量に血が噴き出す。

 激痛と出血で、頭が朦朧とする。


(血、とにかく、血、止めないと……)


 ミーシアは、首の傷口に流れ出る、血を凍らせた。

 応急処置ではあるが、このままでは死んでしまうところであった。


「キール、く、ん。なに、を……」


 キールは、ミーシアの首の肉を咀嚼して飲み込んだ。


「はははっ!確かに、すげぇマナだ。

 力が溢れてくるぜ。

 俺さ、ずっと考えてたんだ。

 マンイーターをマンイーターが食ったら、どうなるかって。

 どうやら、蓄積されたマナを、そのまま取り込めるみたいだな。

 ミーシア。

 俺は、お前を食って、大魔法使い以上の存在になる」


 キールの全身から、凶器の付いた真鍮の鎖が、浮かび上がる。


 ミーシアは、ふらつく頭で、魔法を構築する。

 両手から生える、幾つもの尖った氷。


「キール、くん。

 わたし、だって……。

 ただで、やられて、たまるかぁ!」







 その頃、中央広場の北の端。


 ナインは、戦場を駆ける。

 ジュピター・システムの衛星を、百の剣に変えて。


 目の前には、タタリヒメの式神の妖怪たち。


 ロロたちが居なくなった隙に、一斉に大絨毯へと襲い掛かってきたのだ。


 ナインは、妖怪の群れと擦れ違いざまに、百の剣で斬りつける。

 何枚にもスライスされ、血を噴き出し、泥の塊へと変化する、四体の妖怪。


「へっ。いいねえ、ジュピター・システム。

 そんでもって……!」


 ナインは、ジュピター・システムを解除する。

 消える、バリアと衛星。

 妖怪どもが、それを隙だと思ったのか、ナインへと殺到する。


 ナインは、右の掌を前へ差し出す。

 掌の先には、極小の黒点。


 発生する、重力場。


 恐るべき重力に、周囲の空気ごと黒点に吸いこまれる妖怪たち。

 逃げようとする者もいるが、逃れられない。

 妖怪たちの肉体は、黒点へと集まり。

 破砕音を立て、血と肉の飛沫を上げ、直径1ミリメートルへと圧縮される。


 ナインは、黒点を握りしめた。


「ようやく、少しマナが回復した。

 使えるぜ、ブラックホール!」




 大絨毯の上では、近衛騎士たちが、ナインの戦いぶりを見ていた。

 オーバードライブが、顔を引きつらせる。


「……ははっ。やっぱり強えな、S級冒険者」


 それは、A級冒険者の頂点で会ったオーバードライブすら、超えることができなかった壁。

 S級冒険者。


 岩石術師の中年女性の騎士が、オーバードライブに同意する。


「団長が相手してくれて良かったよ。

 お陰で味方に付いてくれたし。

 あれ、まともに戦ってたら、かなりの死者が出ただろうねぇ」


 リリスが、その横から顔を出す。


「私、S級冒険者って、嘘だと思ってたよ~。

 だって、どう見ても下っ端にしか思えないんだもん」


 その言葉に、近衛の皆が同意する。

 少しだけ、皆に笑顔が戻って来た。




 そして、中央広場の西側。

 エリザベスを先頭とした、騎士の軍団が、巨大な岩石の壁を構築しながら、箒で飛んでやって来る。


「お、ようやく中央広場に出たぞ!」

「ようよう、東側からも、でっけえ壁作りながら、騎士が飛んでくるぞ」

「ありゃあ、第二十八騎士団が先陣を切ってやがる。タイミング、バッチリだな!ガハハ!」


 エリザベスと偵察飛行部隊の二人が、猛スピードで箒で飛び行く。

 向かい側からは、岩石と氷が入り混じった壁を作りながら、やってくる別の騎士たち。




 帝都の西と東から伸びた、臨時の新たな外壁は、帝都中央広場で合流する。


 中央広場に隣接する大神殿の前には、ロロと、その眷属。


 広場の壁の向こうには、もう目の前に迫っている、セバスチャンとレッドドラゴン。


 北側では大絨毯の上で控えていた、近衛騎士の半数が、広場へと駆ける。


 広場に繋がる路地の暗闇からは、妖怪の群れを引き連れたタタリヒメ。


 そして、広場近くの民家の屋根には、真鍮板の仕込まれた革のブーツ。




 今、全ては、帝都中央広場へと集結する。








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[良い点] > きっと、戦争が異常なのではなく、平和が貴重なのだ。 > きっと、死が異常なのではなく、命が貴重なのだ。 > だからこそ、かけがえのない人生を、楽しく生きることが大事なのだ。 いろんな…
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