表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/63

殲滅

 ロロとムラサメとフローレンス先生は、森の(やぶ)を駆け抜ける。


 小枝が肌や服に引っかかるが、無理矢理(むりやり)に突破して。


 途中、何度かマンティコアが単体で出たが、全てムラサメの一撃で葬り去っていた。


 フローレンスが走りながら叫ぶ。


「ロロ!なんかおかしくないかい!?

 出てくるマンティコア、一匹ずつだよ!」


 マンティコアは本来、群れをつくる獣だ。

 それが、一匹ずつ出てくるのがおかしい。

 ムラサメが言う。


「もしかしたら、奴らは群れからはぐれたのかもしれませんね。

 恐らくは、群れがどこかにいるのでは……」


 すると、三人が藪を抜けた途端、青空の見える大きな広場に出た。


 そこでは、デイズが宙を舞いながら、手のひらから紫の爆炎を放ち、戦っている。


 五十匹以上はいると思われる、マンティコアの大群と。


 デイズの叫びが聞こえる。


「ちょっと、多すぎっ!」


 両足から紫の火炎を噴射(ふんしゃ)し、宙を縦横無尽(じゅうおうむじん)に駆け巡るデイズ。


 紫の火の粉が舞う。


 紫に変色したショートカットの髪が、炎の風圧でなびく。


 デイズに付いている男性教師も、これは危険だと判断したのか、(ほうき)にまたがり空を飛びながら、風の刃を撃ち、応戦している。


 ロロは、ムラサメとフローレンスに言う。


「彼女を助けます」


 臨戦態勢に入る、ロロたち。

 フローレンスは叫ぶ。


「ロロ!あいつらなんか、やっちまえー!」


 ロロは、骨の杖を自分の影に向ける。


「いきます」


 この大規模な群れに対し、まず最初に呼び出す者は。


 デイズを守るため、その身が盾となる()が最適だ。


「お願いします。がしゃどくろさん」


 ロロの影が、広がって行く。

 それは、ムラサメを呼び出した時よりも、遥かに大きく。

 まるで池のように。


 広がり切ったロロの影から、巨大な骨の右手が天に向かって伸び出てくる。

 それは、片腕だけで、家屋(かおく)の高さよりもさらに長い。

 伸びた巨大な右手は、そのまま(ひじ)を折り曲げ。

 その手のひらを、轟音を立てて地面に突き刺す。


 そして広がったロロの影から()い出てきたのは。

 途轍(とてつ)もなく巨大な、スケルトン。

 その骨の口から、野太い声が響く。


「はぁ~い!ロロちゃん!

 御用(ごよう)かしらぁ?」


 ロロは、その巨大なスケルトン、がしゃどくろに願う。

 デイズを指さしながら。


「あそこにいる女の子を守ってください」

「お任せぇ~!」


 がしゃどくろは、巨大な右手の親指を立てた。







 デイズは、大量のマンティコアの群れに囲まれていた。

 手のひらから、紫の大爆発を起こすデイズ。

 数匹のマンティコアが、黒焦げになって倒れた。


 だが、自身の背後のマンティコアまでは、倒しきれなかった。

 デイズに背後から跳びかかる、数匹のマンティコア。


 後ろを振り向くデイズ。


 その紫の目には、マンティコアたちが映る。


 ひと()みで、胴体を食いちぎる、その牙が。

 ひと()きで、大出血を起こす、その爪が。

 ひと()しで、死に至らしめる、尾の毒針が。


 デイズは、背後に爆炎を撃とうとした。

 だが、間に合わない。

 デイズは、死を覚悟する。

 死にたくないと、思いながら。


 その時、巨大な骨の腕が、デイズの背後のマンティコアどもを殴り飛ばした。


 一体、何が起きたのか。


 デイズは、上を見上げる。

 そして、唖然(あぜん)とした。

 そこには、恐ろしく大きなスケルトンがデイズを(のぞ)き込んでいた。


 この巨大なスケルトンは、一体何者なのか。

 敵なのか、味方なのか。

 デイズは、必死に頭を回す。

 すると、その巨大なスケルトンは、デイズに覆いかぶさり、強固な骨格でマンティコアの群れからデイズを保護する。

 さらに、バリアの魔法を自身にかけ、防護の隙間(すきま)を無くす。

 巨大なスケルトンは、野太い声でデイズに言った。


「はぁ~い!もうだいじょうぶよ~。

 あとは、ロロちゃんたちが何とかしてくれるからねぇ~」


(ロロ?ロロって誰?)


 デイズの頭には、クラスメイトのはずのロロの名前は記憶されていなかった。


 デイズは、自分に覆いかぶさった巨大な肋骨の隙間から、外を見る。

 マンティコアの群れはしばらく、がしゃどくろの強固なバリアと骨の守りを破ろうとして、噛み付き、引っ掻いた。

 だが、がしゃどくろはびくともしない。

 マンティコアどもは、がしゃどくろを破壊することを諦め、離れたところにいたネクロマンサーたちに狙いを変えた。

 デイズは、肋骨の隙間から、ロロたちを見つけた。


(あれは確か、うちのクラスのネクロマンサー!

 このおっきいスケルトン……

 まさか、あの人が?)


 デイズは、死霊術については、全くの専門外であった。

 興味を持ったことすらない。

 だが、この巨大なスケルトンを行使するのは、並大抵の力では不可能なことだけは、魔法使いとしての直観で分かった。


 あのネクロマンサーは、デイズと同じように、いつも一人で狩りをし、成績は毎回、最優秀と採点されている。

 クラスのみんなは、採点する側の老婆も同じネクロマンサーのため、ただ贔屓(ひいき)されているだけと不満を漏らしていた。

 デイズは、あのネクロマンサーには毛ほども興味が無かったため、贔屓されているかなんて、どうでもよかった。

 だが、たかがネクロマンサーなんて実力はどうせ大したこと無いだろうと思ってはいた。




 デイズは今この瞬間より、認識を天地逆転させることとなる。







 マンティコアの群れが、ロロたちに走り寄る。

 ムラマサは、刀を抜き、上段に構えた。

 フローレンスも、自分の影の中から、双子の執事の青年のゾンビを出し、臨戦態勢に入っている。

 ロロは、左手のひらをフローレンスに向け、フローレンスたちの参戦を制する。


「先生。僕たちだけで対処できます」


 ロロは、自分の影に向かい、再び骨の杖を向けた。


 ロロは、状況により、頼る眷属(けんぞく)を使い分ける。

 基本的には、近接戦が最強のムラサメ。

 誰かを守りたい時は、自身が強固な盾となる、がしゃどくろ。


 そして、敵が大量にいる今は、広範囲攻撃を得意とする、魔法使いの少女のゾンビ。

 ティナ・シール・ベルモントを呼び出す。

 影の中から、黒い三角帽子を被った、白髪の少女のゾンビが現れた。


 ティナ・シールの名を知らぬものは、この帝国には居ない。

 教科書にも名前が出てくる、超有名人。

 ティナ・シールは、大気中のマナを吸収する『マナ・アブソープション』が使えないため、大魔法使いではなかったが、百年前の群雄割拠(ぐんゆうかっきょ)の戦国時代、帝国の天下統一に多大なる貢献(こうけん)をした英雄であった。


 ティナ・シールは、大魔法使いであるロロを心の底から尊敬している。


 ティナ・シールは死後も魔法で氷漬けとなっていたため、百年経っても遺体が残っていた。


 とある事件が切っ掛けでロロに蘇らせてもらった時に、何が何でも眷属(けんぞく)にして欲しいと、ロロに(すが)り付いて眷属となったのだ。


「ロロ様!私の出番なのですね!」

「うん。あのマンティコアたち。

 お願いできるかな?」

「ロロ様のためなら、何だってやっちゃいます!」


 満面の笑みで、両手を空に向けて広げるティナ・シール。

 その上空には現れたのは、幾千もの(とが)った氷塊(ひょうかい)


 ティナ・シールは、(かか)げて広げた両手を、マンティコアたちに向けて振り下ろす。


 空に輝く、幾千の氷塊の刃が、マンティコアの群れに、嵐のように降り注ぐ。


 五十体以上はいたはずのマンティコアが、氷塊の嵐に身を切り裂かれ、断末魔の叫びを上げながら次々と倒れて行く。


 降り注ぐ氷の冷気で、大地に霜が降りていた。


 そして、全ての氷が降り終わる頃。


 その大きな広場に残ったのは、(うずくま)る巨大ながしゃどくろと、全て死体となった、切り裂かれ凍ったマンティコアたち。


 ロロは、広場を見渡す。


「ありがとう。

 ティナ・シールさん。

 がしゃどくろさんも、もう大丈夫だと思う」


 がしゃどくろは、立ち上がる。

 直立すると、まるで巨大な塔のようだ。


 ロロは、自分の影に杖を向けると、その影が再び、大きな黒い池のように広がる。

 がしゃどくろは、その影の中に、足を踏み入れた。


「ロロちゃん!またいつでも呼んでねぇっ!」


 がしゃどくろは、野太い声でロロに言い、そのまま影の中に入って行った。

 ティナ・シールは、ロロと離れるのが名残惜しそうだ。


「ロロ様。ロロ様。

 私の事、何でもない時にも呼んでいいんですからね!

 お話相手でもいいんですからねっ!」

「ありがとうございます。

 寂しいときは、お相手してもらいますね」


 ティナ・シールはロロに向かって手をぶんぶん振りながら、影の中に消えた。

 三角帽子を揺らしながら。


 まだ危険があるかもしれないため、最強の戦士であるムラサメには残って貰っていた。


 ロロは、再び広場に身体を向ける。

 大量のマンティコアの死骸の向こうを見ると、茫然(ぼうぜん)としたデイズが。

 ロロは、マンティコアの生き残りが居ないか注意しながら、ムラサメと共にデイズの元へと歩み寄る。


「デイズさん、怪我は無い?」


 ロロはデイズに呼びかける。

 デイズは、反応が無かった。


「デイズさん?」

「……えっ?

 は、はい」

「怪我、無い?」

「う、うん。大丈夫だと、思う」


 空から、(ほうき)に乗った教師がゆっくりと降りてきた。

 デイズに付いていた男性教師。

 降りて来つつも、まだ周りを警戒しているようだ。

 辺りを見回しながら、地上に降り立つ。

 そして、ロロに聞く。


「そこの君。その、すまん。名前がわからないけど、ネクロマンサーの君。あれが君の力なのか?」


 その教師は、今起きた全てを、箒に乗って上空から見ていた。

 まるで白昼夢(はくちゅうむ)を見ているかのようだった。


 巨大なスケルトンを呼び出しデイズを守り。

 ゾンビの魔女は、一瞬でマンティコアの大群を壊滅(かいめつ)させた。


 さらには、今もネクロマンサーの隣に(ひか)える、女性の(さむらい)のゾンビ。

 尋常ではない強さの気配がする。


 これほどの力を持つ眷属(けんぞく)を複数従えるのは、並大抵の規模の魔法ではない。


 今までの狩りの実習では、いつもフローレンスだけが彼に付いていたはず。

 そして、成績は常に最優秀。

 デイズに付いていた男性教師は、今までは、それをただのネクロマンサー同士の贔屓(ひいき)だと思っていた。


 だが、彼は見てしまったのだ。

 ロロの、実力の一端を。


 これは、最優秀などという生易しいものではない。

 学生の範疇(はんちゅう)を遥かに超えている。


 それどころか、教師陣の中でも、彼に(かな)うものはいないのではないかと、冷や汗をかいた。










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ