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コカトリスの大群との決着

 デイズは、左右の手のひらから炎を上げ走る。


 コカトリスの大群の中へと。


 コカトリスたちは、デイズに数十本の麻痺の毒羽根を飛ばす。


 デイズは、足から炎を吹きだし、高く跳躍した。

 デイズの眼下には、猛毒の(にわとり)たちがひしめき合っている。

 コカトリスたちは、空中で回避ができなくなったデイズへと、毒羽根を集中砲火。


 デイズは、両手両足から紫の火炎を噴き上げながら、身体を高速で回転させる。


 回転しながら放たれた炎が、デイズの身体を隙間なく包む。

 まるで紫に燃える巨大な(まゆ)のよう。


 デイズを覆う炎は、全方位から飛ばされてきた数百の毒羽根を、余すことなく焼き尽くした。


 そのままデイズは、上空へ向け爆炎を放ち、その反動でコカトリスの群れの中央へと高速でダイブする。

 群れの中央に(かす)かに見える地面に向けて。


 両手から放たれた紫の爆炎を、鶏たちの隙間から見える地面に叩きつけた。


 デイズが着地した途端に起こる、群れの中心を起点とした、紫の大爆発。


 灼熱の爆風が放射状に広がる。

 燃える土砂が舞い上がる。

 焼けながら吹き飛ぶコカトリスたち。


 今ので、十匹はイケたかな、と瞬間的に周囲に目を巡らすデイズ。


 他の生き残りの騎士たちも、火炎や、高圧の水の刃を放ち、奮闘している。


 そこに、空高くから飛来した、超高速の木の矢。

 ロロの眷属(けんぞく)、リリアナの三本目の矢。

 その矢が、デイズの目の前の群れを、一直線に蹴散らした。


 爆散したかのように、血と肉片を撒き散らし、倒れてゆく、デイズの目の前のコカトリスたち。


 血の雨が降る中で、デイズは前方を(にら)みつけていた。


 デイズのまっすぐ目の前には、巨大なコカトリスの王。

 先ほどから、こいつの雄叫びに反応して、コカトリスたちは動いていた。

 きっと、こいつを倒せば、群れは瓦解(がかい)するはず。


 デイズは、(ひざ)を曲げ、勢いをつけて、思い切り跳ぶ。

 足から爆炎を噴射しながら、空高く舞い上がった。

 大木のような大きさの、コカトリスの王の頭よりも、さらに高く。

 コカトリスの王は、デイズを見上げた。


 デイズと王の視線が交差する。

 デイズの紫に染まった髪の毛先が、跳んだ勢いで浮かび上がる。


 デイズは、両手から紫の爆炎を王に向けて放った。


 王は、その巨大な翼で、顔の前を(おお)った。

 デイズの炎は、翼で防がれる。

 だが、翼に生えている毒の羽根は、焼け焦げていた。


(効いてる!)


 炎は、翼を貫通するほどまではいかなかったが、それでも翼の表面の羽根は、焼けて削られていた。




 そして、その削られた翼に。

 飛来してきたリリアナの強力な矢が突き刺さる。

 王の羽根は弾け飛び、頑丈な翼には大きな穴が開いていた。


 激痛と怒りで、咆哮を上げるコカトリスの王。


 その弾けて散った翼の穴に、デイズは狙いを定める。


「食らえっ!」


 手のひらから放たれた、凝縮(ぎょうしゅく)された一直線の火炎。

 穴の空いた翼は、それを防ぐこと(かな)わず、翼を素通りした炎は、王の顔面を焼いた。

 王が、悲痛な叫びを上げながら、暴れ回る。


 デイズは、足から爆炎を撃ち、さらに上へと昇る。

 発狂している、コカトリスの王の真上へと。


 王は、渾身(こんしん)の力で、残っていた毒羽根をまとめてデイズに撃ちこむ。


 デイズは、火炎を薄い(まく)のように作った。

 その膜を目の前に大きく広げ、撃ちこまれた毒羽根を、焼き防ぐ。


 王の毒羽根は、ほとんど使い切ってしまっているようだ。

 他のコカトリスの群れは、騎士団が押している。

 時折、リリアナの矢が、十数匹まとめて吹き飛ばしているのが見えた。


 このまま、リリアナがコカトリスたちを掃討(そうとう)してくれるのを待ってればいいのかもしれない。

 しかし、戦いに絶対というものはない。

 リリアナの矢も、数に限りがあるだろう。

 今のが最後の矢かもしれない。

 だから、この手で決着を付ける。


 デイズと王の一騎打ち。


 王が、翼に残った、(わず)かな毒羽根をデイズに撃つ。

 デイズは王の真上に浮かび上がり、真下に向けて炎を放つ。

 炎は、毒羽根を焼き払い、王の肉体をも焼いた。


 王は、悲鳴を上げる。


 デイズは、叫ぶ。


「ここで、決める!」


 デイズは、真下にいる王へと手のひらを向けた。

 デイズの両の手のひらが、かつてないほど、強烈な紫の光を放つ。


 最大火力、十連発。


 今デイズにできる、最強の攻撃。

 これで、本当に最後の力を使い果たす。

 ここで倒し切らなければ、デイズの命は終わる。




 デイズのボロボロになった制服が、風に舞う。




 デイズの手のひらが輝く。




 そして。




 紫色の、極大(きょくだい)の爆炎が、連続して真上から王に降り注いだ。




 そして王は、

 紫色の炎に包まれ、

 顔と胴体から、煙を上げて、

 周囲の木々を()ぎ倒しながら、

 地響きのような音を立て、

 大地に墜ちた。


 それを見て安心してしまったデイズは、倒れた王の上空に浮かび、意識が薄れていくのを感じる。


(やば……、私も、落ちる……)


 もはや、宙を駆けるほどの力も残されていない。

 重力に逆らえず、固い地面へと落ちて行く。

 この高さから地面に激突すれば、死は免れない。


(ロロ、私の事、生き返らせてくれるかな)


 この湖の場所は、ロロの活動距離を超えている。

 ここまで、来てくれるだろうか。

 落ち行くデイズは、ロロの手で蘇ることを願った。


 だが、空中で、誰かに胴体を捕まえられるデイズ。

 それは、革の鎧を着て、(ほうき)にまたがった女性の騎士。

 鉄の装備を着けていない、身軽な飛行部隊の一人。

 その騎士が、空飛ぶ箒で、落ち行くデイズを捕まえたのだった。


「ブラスター男爵令嬢!しっかり!」


 飛行部隊の騎士に抱えられ、治癒術師の控えている本陣まで飛んで行くデイズ。

 騎士から、治癒術師へと、その身を渡される。

 薄れゆく意識で周囲を見渡すと、コカトリスの群れは、壊滅寸前で。

 騎士団の魔法により、次々と滅びゆく猛毒の(にわとり)たち。


 そして、デイズが気絶する直前に見たのは。

 最後の二匹がまとめて、流星のような矢に消し飛ばされていた姿だった。







 第六騎士団が、ルイーゼの町の拠点へ戻ってきたのは、その翌々日であった。

 湖の(ほとり)で野営をし、生き残った騎士たちで、周辺に異常が無いかを、丸一日かけて調べ回っていたのだ。

 何か起きたら、即座に退避できるように準備をして。

 その結果、コカトリスの群れは壊滅したと見なされた。


 あの戦いでは、騎士団側の犠牲者は、治癒術師を含め、死者十一人。重傷者多数。

 しかし、全滅してもおかしくなかったはずの激闘で、生き延びることができたのは、リリアナの矢のおかげだった。


 死亡した騎士たちは、ロロの死霊術で、一か月だけ蘇らせることにした。

 以前は、満員だった墓場の村も、先日、半数が塵へと還り、今は五十人にも満たない数が住んでいる。

 運よく、と言っていいのかわからないが、今はロロが蘇らせられるキャパシティにも、余裕があった。

 ゾンビとなった騎士たちは、これから一か月の間、恋人や家族、友人らと、最期の時を過ごすのだろう。


 デイズもボロボロになった制服から、予備の制服へと着替え、夕方ごろに灰色の村へやってきていた。

 あの小高い丘にある、村よりも広大な墓地。

 あの丘の(ふもと)にある、墓場の村。

 ロロの自宅も、あそこにある。


 デイズは、墓場に入り、無数の墓標(ぼひょう)の間を歩いていた。

 これだけの数の人生と、これだけの数の死。

 死とは、案外身近なものだろうとデイズは思う。


 デイズは、ロロの自宅の前まで来ていた。

 窓からは、明かりが漏れている。

 ロロは既に帰宅しているのだろうか。


 ロロの家のドアをノックする。


 すると、家の中から足音が聞こえた。


 鍵が外れ、ドアが開かれる。


 そこには、顔色の悪い、愛しいネクロマンサー。


 デイズは、ロロの胸に飛び込む。


「ただいま」

「おかえり」


 ロロも、デイズを抱きしめる。


 今回の遠征では、本当に危なかった。

 あと一歩で、デイズも命を落とすところであった。

 ロロの手の届かない場所で。


 今日、デイズはある覚悟をしてロロの元にやってきた。

 自分には、明日も命があるか、わからない。

 だから、いつ死んだとしても後悔が無いように。


 今夜、ロロと肌を重ねようと。


 デイズは、ロロの(くま)のできた目を見つめる。

 ロロも、デイズの目を見返してきた。


 ふたりは、きっと同じ想い。


 ロロが言う。


「デイズ。今日、泊って行く?」

「うん。泊めて」


 デイズは、ロロに(うなが)されて。


 ふたりで、ロロの寝室へと、姿を消していった。









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