表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/63

鶏たちの王

 その日の朝、ロロはデイズと手を繋いで登校した。


「みんな、おっはよー!」


 デイズが元気に、クラスメイトたちに挨拶(あいさつ)をする。

 それに引きずられるように歩くロロも、片手を上げて声を上げる。


「お、おはよう……」


 クラスメイトのみんなは、口を開けて硬直していた。


 ここ一か月で、あの陰気な死霊術師と、急激に仲が良くなっていたデイズ。

 しかし、手を繋いで登場したことは初めてだ。


 デイズは昨日までの数日間、体調が悪そうだった。

 なんでも、悪夢による寝不足が原因とのことであった。

 だが、今日のこの元気は一体どうしたことだろう。


 教室のちょうど中央にある自席に座るロロ。

 だが、デイズは自席に向かおうとせず、ロロの隣に立って、ロロと手を取り合っている。

 一か月前までの、あの孤高だったデイズの影は、もうどこにも見あたらない。


「ロロ。今日の放課後、湖の方まで騎士団の遠征があるから、あさってまで会えないんだ。私、寂しい」

「アイちゃんを付けるよ。危なくないように、ちゃんと見てるから」

「へへ、ありがと。ちゃんと私を見ててね」


 デイズはロロと手の指を(から)め合っている。

 デイズの頬は赤く染まっている。

 もう完全に、恋する乙女の顔だ。


 クラスメイトのみんなは、未だ茫然(ぼうぜん)としている。

 みんなの思いは同じだった。


(えっ?あのふたりデキてるの?)


 クラスで最上位の実力を持つデイズと、最底辺の死霊術師。

 男爵令嬢と平民。

 どこをどう見ても、釣り合っていない。

 なぜこうなったのか。


 一か月前から、急にコイバナに積極的になったデイズ。

 クラスの女子が聞いても、相手は秘密だと言うばかりだった。

 クラス一の美青年のキール当たりが相手だと、勝手に思っていた。

 まさか、あの陰気な死霊術師が相手とは……




 キールは、教室でデイズとロロを見て、唖然(あぜん)としていた。

 デイズに対しては、てっきり、あの死霊術師の勝手な片思いだと思い込んでいた。

 だからこそ、デイズを力づくでも手籠(てご)めにしてしまえば、自分のものになると思っていた。

 魔法封じの手錠(てじょう)で無力化し、デイズを目の前で(おか)してやれば、あの平民の淡い恋心は砕け散るだろうと笑っていた。


 だが、デイズのあの表情。


 あれは本気で恋に落ちている顔だ。

 プレイボーイで通っているキールは、同じ顔を女子から向けられることも多かった。

 それが、あんな陰気なネクロマンサーに……


 デイズ。


 デイズは、俺のものだ。


 絶対に俺の物にしてやる。


 キールの執着心は、既に黒く燃え盛っていた。







 デイズは放課後、第六騎士団の拠点に顔を出した。

 今日からあさってにかけて、遠くの湖付近で目撃された、コカトリスの群れを討伐するためだ。

 コカトリスは、羽根に麻痺の毒針が備わっている、人間と同じサイズの大型の(にわとり)だ。

 毒針の付いた羽根を飛ばして、麻痺して動けなくなった獲物を捕食する、非常に危険な動物。

 普段は群れることなく、単独で行動する。

 今回のように群れて行動するのが珍しいのだ。


 だからこそ、ただの討伐だけであれば、第一騎士団が行うのが常だったが、今回は討伐と調査を兼ねたもののため、探索能力も高い第六騎士団が任務に選ばれた。


 発見されたコカトリスの群れは、十匹ほどらしい。

 さらにまだ隠れている可能性もあるので、油断はできない。


 第六騎士団は、四十人ほどで編成されている。

 そのうち半数が、治癒術師だ。


 デイズの鞄の中から、アイの目玉が覗いていた。

 ロロの眷属(けんぞく)の一体、アイボールのゾンビのアイ。


 今回の目的地は遠方なため、ロロが直接、付いてくることはできなかった。


 だが、アイだけは、他の眷属やゾンビと違い、かなり遠くまでロロと離れても塵にならない。


 身体の大きさが関係しているのだろうか。


 その遠征可能な体質と、テレパシーなどによる通信能力で、遠方の湖に行くデイズたち第六騎士団の様子は、ロロの耳に入るようになっていた。




 デイズが拠点に到着してから、割とすぐに第六騎士団は出発した。

 今回は討伐任務のため、いつもの革鎧ではなく、鉄の鎧をみんな装着している。

 ほとんどが馬に乗って移動する。

 何人かは、空飛ぶ(ほうき)や靴で。

 高速移動をするような、身軽な方がいいタイプの騎士たちは、デイズと同じような通常の服を着ている。

 デイズも、鎧を着ると動けなくなるため、制服のままだ。

 デイズはいつものように、足から火炎を噴射して、地面を高速で駆けていた。


 移動速度の速い、第六騎士団。

 結構遠くだったはずの湖の(ほとり)には、その日の夕方には到着した。

 湖の向こうの山に沈もうとしている夕日を浴びて、輝く騎士団の鉄の鎧。


 今はみんな、馬や(ほうき)から降りて、野営の準備をしている。

 デイズも、靴下と靴を履いている。


 ロロからだいぶ離れたため、アイが(ちり)になっていないか心配になったデイズは、鞄を開けた。

 そこからは、元気そうに飛び出す、濁った眼のアイ。

 塵になっていなくてほっとするデイズ。

 アイは、蝙蝠(こうもり)の翼を羽ばたかせ、空高く舞い上がった。


 夕日が差し込む湖の(ほとり)


 デイズは、ふと前方の森を(なが)める。


 その近くの木陰(こかげ)から、一匹の人間サイズの(にわとり)が見えた。


 コカトリスだ。


 最前列に居たデイズは、騎士団のみんなに、注意を(うなが)す。


「コカトリス、前方一匹発見。周囲に注意、願います」


 騎士団の何人かが「前方一匹、周辺注意、了解」とデイズに返す。


 すると、デイズとは真逆の最後列に居た騎士が言った。


「コカトリス、後方三匹発見。周囲に注意、願います」


 同じく、騎士の何人かが、「後方三匹、周辺注意、了解」と返す。


 その時点で、デイズは嫌な予感がした。


 本来は群れるはずのないコカトリス。

 それが、十匹程度の群れが発見された。

 そして今、前方と後方に同時に現れたのだ。


 デイズは、横の森を見る。


 木の影から、新たに一匹のコカトリスの頭が現れた。


 ひょっこりと。


 だが、二匹目が現れ。


 三匹目、四匹目と。


 次々と。


 どんどん増えて。


(これ、十匹なんて、もんじゃないっ!)


 前からも、後ろからも、全方位から、次々現れるコカトリスたち。


 騎士団のみんなは、野営の準備を放り出し、剣や杖を抜き、陣形を組みなおす。


 第六騎士団は、湖を背にして、この獰猛な獣たちに囲まれていた。




 推定、百匹。




 上空にいたアイから、テレパシーでデイズに報告が入る。


「デカいの、きたよっ!」


 デイズがそれを聞き、前を見ると。


 大木ほどの巨大なコカトリスが一匹、姿を現していた。




(なに、あれ……)


 地響きを鳴らし、巨大なコカトリスが、歩いてくる。


 明らかに、異常な大きさ。


 差し込まれた夕日を浴びて。


 それは、一種の神々しさすら感じられるほど。


 あれこそは、コカトリスの王なのではないか。




 巨大なコカトリスが、雄叫びを上げる。


 すると、第六騎士団を取り囲んでいた、百匹のコカトリスから一斉に、大量の毒の羽根が、騎士団の上空に向け飛ばされる。


 弧を描いて飛び、騎士団に降り注ごうとする、毒の羽根の雨。


(あんなの食らったら、終わる……!)


 デイズは、手のひらを羽根の雨に向ける。


 髪と目が、紫に変わる。


 デイズの手のひらから、紫の爆炎が放たれ、羽根の一部を消し飛ばす。


 他の騎士たちも、火炎や水を放ち、羽根を迎撃しようとする。


 そして、コカトリスの軍団も、騎士団に向け、走り出した。


 空からは毒の羽根の雨。


 地上からは、百匹のコカトリス。


 コカトリスの王も、こちらに向けて歩き始める。




 第六騎士団長が叫ぶ。


「総員、戦闘開始!」




 今、戦いの火蓋(ひぶた)が切られた。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ