恋敵②
時折カサッと紙をめくる音以外が、まるでこの世から消えてしまったのかと思う程の静寂に包まれた応接室。
ローテーブルを挟んで対峙するのは、この邸の主アレン・クロノス・イェーガーと、王立魔法研究所第一魔法研究室所属、上級研究員キース・アーヴィングである。
得体の知れない緊張感にお茶を出すタイミングを失った私は、とりあえずドア付近で二人を凝視する。
「ふぅん、よく出来てると思うよ。まぁ、最後の主張はちょっと時期尚早って気がするけど」
偉そうに口を開くのは、邸の主人。
「ありがとうございます。まさか所長直々に添削して頂けるなんて、この上なく光栄です」
卒なく答えるキース・アーヴィング。
「本当だよ。僕のアポは10年待ちだって知らないの?」
高圧的な邸の主人。
「ええ、それを10段階飛ばして頂けたみたいで光栄です」
卒なく答えるキース・アーヴィング。
「…君、休暇中だろ?若者は若者らしくハツラツと遊びに出かけたらどうなのさ(……根暗)」
先輩は真面目なんですよ!
「お気遣いいただきありがとうございます。そう思ってセレスを迎えに行ったんですよ、副所長の所に。なぜかここに転送されたんですけどね?(……陰険)」
え、わたし?
「なぁ〜んで君がセレスを迎えに行くわけ?(……腹黒)」
だから何でわたし?
「それは決まってるでしょ。今さら何言ってんですか。耄碌したんですか?(……老害)」
え、キース先輩?
「ほう、君、もしや僕が誰だかご存知ない、と」
「もちろん知ってますよ。ドーーーーでしょ。」
「はぁっ!?それは君だろ!君なんかーーーーーじゃないか!!」
「いえいえあなたには負けますよ。まさかーーーでーーーがーーーなんて。」
聞き取れない。二人の会話が聞き取れない。
というか二人は何でこんなに仲がいいの??
「で、セレスは何でここにいるの!?」
キース先輩から突然お鉢が回って来た私はしどろもどろになる。
「え、え、あー…その、しゅ、しゅぎょう?」
「修行?」
「……魔法の」
「はぁ〜……」
先輩は大きな溜息をつくと、ツカツカと私の隣にやって来た。
そして耳元でこう囁く。
「君の魔力についての相談なら、僕に1番最初にしてくれるんだと思ってたんだけど?」
あ…そう言えばデトパルト家でそんな話をしたような…。
「…ごめんなさい。ちゃんと説明もせずに」
「…もういいよ。別に責めてる訳じゃないから。でもその髪の色は頂けないなぁ?」
そう言って私の髪をひとすくいする。
先輩の完璧な笑顔がちょっと怖い。
「こらー!!そこ!!離れなさい!!」
アレンさまがギャーギャー騒いでいる。
「僕にもセレスの修行、手伝わせて?」
ニッコリと微笑む先輩を相手に、どうして断ることができようか、いや、できない。
頭の中にそんな修辞法が浮かんでは消えていった。
「こらー!離れろ!キープディスタンス!!」
アレンさまはうるさかった。




