大魔法使いと私
流れる沈黙、時折聞こえる朝を告げる鳥のさえずり。その静寂を突然かき破ったのは…。
「あっはっはっは!!セレス、君その顔!」
…空気の読めない大魔法使いの爆笑である。
「なっなっなっ、だってアレンさまが!アレンさまが悪いんでしょう!?」
「だって、だってさ、真っ赤な顔で口ぽかーんと開けて、まるで、間違って巣穴から出てきた小鬼みたいじゃないかっ!くくっ」
「〜〜〜!!もうっ!アレンさまなんか知らないっ!部屋ぐちゃぐちゃになっても二度と掃除しないんだから!」
まだ笑いの止まらない彼は、目尻に涙を溜めながら、それでも愛おしそうにこう言った。
「ごめんごめん。…でもまたアレンって呼んでくれた」
もう本当にやめて。経験値が低過ぎてどう対処するのが正解か、皆目検討がつかない。
口をパクパクさせるしか出来ない私に、彼は少し申し訳無さそうに言う。
「…あーもう、本当に何やってんだろ。10分の1しか生きてない女の子に対して。自分でも自分が信じられないよ。ねぇ、やっぱり君ってさ、本当は100年生きた魔女だったりする?」
「そんなわけないでしょ!」
何なんだこの人は。甘かったり辛かったり、真剣かと思えば冗談ばっかり。
アレンさまが、むくれて頬をパンパンに膨らませた私の隣にいつの間にか座って、一つに結んだ髪を掬いあげる。
「君が一生懸命に頑張った結果だったのに、本当にごめん……」
とたんに私の目尻に水が溜まる。
「…あの時は、ちょっと…いや、かなりショックでしたけど、ディルク君助けてくれたから、もう怒ってません」
「そっか、ありがとう」
アレンさまはいい笑顔でそう言った。
「でもさ、セレスって泣き虫だよね」
「はいっ!?」
聞き捨てならん言葉が聞こえる。
「いつもはさ、なーんか年相応じゃないというか、妙に大人びた話し方するのに、さっきの屋敷ではおいおい泣いちゃって」
私はハッとする。その先は…待って…お願い。
「しかも僕にぎゅーって掴まってさ。可愛かったよね〜。なーんかゲオルグの気持ちがよくわかったよ。あいつ何かの病気なんじゃないかって思うぐらい過保護だろ?ようやく理解できたよね、うん」
「…………。」
いい感じで話が締めくくれそうだったのに、やっぱりこの人は空気が読めない。いや、読まないのか?それが許される身分だから?
少しだけ、いつもくたびれている父親の労を思った。




