任務開始
ベビーベッドに寝かされた小さい男の子。
赤ちゃんはぷくぷくしているものだと思ってたから、目の前のあまりにも細い腕に正直びっくりした。
ロエベ主任いわく、新生児とはこのようにか細いのだそうだ。
「こんにちは。初めましてセレスだよ」
眠る赤子に小さな声で話しかける。
「一緒に頑張ろうね」
-1時間前-
「結界班は予定通り部屋全体へ魔封じ結界を。医療班は子どもの栄養補給を第一に。それと平行して抑制剤の効果的な投与間隔の算出を。修復班は結界班のサポートに回り、まずは結界阻害物の除去を」
「はいっ!」「了解!」「よし!」
「それからセレス、絶対に無理はしないように」
「はいっ!」
任務開始予定時刻、続々と集った総勢12名の研究所員の前でキース先輩は今回の作戦を告げた。
反対されるだろうかと心配したが、屋敷に来た所員たちは入室して早々、即状況を理解した。
長丁場になることを踏まえ、交代任務を取る事とし、引継ぎ要項やチームバランスなどが話し合われた。これがプロなんだな、と感心する他なかった。
手袋をはめる。確実にあの子に触れられるように。
「セレス、結界が拡張しおわったらインだ。声をかけるからあの子の側にいてあげて」
「わかりました!」
開始の合図とともに結界班の男性が空中に魔法陣を描く。呪文を唱える声が響き出す。
「セレス、行っておいで」
キース先輩が優しく送り出してくれる。
「コールデンさん、ロエベです。聞こえますか?」
「はい、聞こえます」
私は作戦会議中に配られたピアス型の通信機に触れる。魔力が無くても使える素晴らしい発明だ。
「では、まず赤ちゃんの体温を確認して下さい。冷たいようだったら布団を重ねて下さい」
「はい!」
私への指示は、基本的にロエベ主任が行う。医者である以前に、二児の母らしい。
「眠ってから間もなく2時間。そろそろ準備を」
「はい!」
取り外された部屋のドアが結界の境目だ。そこに魔力抑制剤入りのミルクが置かれている。私は手を伸ばしそれらを中に引き入れる。
「ふぇっ、」
小さな声が鳴る。
「ふぇっ、ふぇっ、ふ、え…」
泣き声に合わせて屋敷が震える。でも大丈夫。私は大丈夫だ。
「よしよ〜し、お腹空いちゃったかな?ミルクでごめんね?頑張って飲もうね」
「ロエベ主任、セレスはどうです?」
「アーヴィング総括、お疲れさまです。彼女はしっかりやっています。……大変なのはこれからですが」
「そうですね……」
「それよりも、彼女のあの体質は…」
「僕も知らないんです。でも今は聞くなと言われました」
「…そうですか」
デトパルト家での任務はこうして始まった。




