二つの実験②
「さて、ここからが本題だ。もう君は理解できてると思うけど、僕らと彼女の魔力は真反対だ」
ゲオルグが同意を伴って頷く。
「俺たち魔法使いは、魔力を放出しながら生きている。訓練によってそれを閉じることが出来るようになる。それが当たり前だから、それを…通常状態と呼ぶ」
僕は静かに頷く。
「この子は、魔力を吸収しながら生きている、そう言うことだな」
「そう。それを訓練で閉じられるようになった。…ただし、意識がある時だけ」
二人で眠り続けるセレスを見る。
「…そういう魔力がある事を証明するために、邸で起こったちょっとした事件にかこつけて、彼女に料理を作ってもらったんだ」
「お前が職権濫用して作った任務依頼の件だな?」
僕は口の端を上げながら言う。
「普段は大人しくいい子にしてるから、ここぞと言う時に持ってるものを使っただけだろ」
「…大人しくいい子…?俺が…どれだけお前の…尻拭いをしてると…」
「まーまー、落ち着いて落ち着いて。それでね、彼女の料理を食べに来たのはピクシーだったよ。邸に囚われてしまったんだろうね。元は妖精でありながら、強い魔力に晒されて魔物に近い状態になってた。この魔物はね、テーブルに並んだどんな食べ物にも脇目も振らず、彼女の作ったシチューを一心不乱に食べてた」
「…結果は?」
「まぁ、彼女が倒れちゃったから正確に測定できたわけじゃないけど、ピクシーの魔力濃度は明らかに薄まってた。魔物って凄いよね。本能的に自分に必要なものがわかるんだ。…僕もそうだったら良かったんだけど」
しばしの沈黙。それを破るように低い声が響く。
「アレン、俺は諦めてないからな。何度も言わせるな」
「………そうだね。まぁ僕の事は今はどうでもいいよ。要は、彼女には、僕らの当たり前とは逆向きの魔力が〝確かにある〟ってことだ」
「彼女は邸で集中して作業するあまり無意識になってるんだろうね。いつも昼過ぎには髪が銀色を帯びてる。最初に気づいた時の衝撃ったらなかったよ」
「そうか……」
「だから最初から推理のやり直しだ。彼女は魔力を奪わなくても体内に取り込む。じゃあ取り込んだ魔力はどこに行くんだ?って。当初の前提に従うなら、取り込んだ魔力を放出しなきゃならない。でも彼女は邸ではたった一回しか魔法は使わなかった」
「…お前、セレスに風呂に入れられたらしいな。報告書では、『銀色の男性の腕を掴んでしまった』『奪った魔力を使ってお風呂にお湯をはった』とあった」
「そうそうその時。その一件があったからずっと勘違いしてたんだけど、彼女、自分で魔法を使う時を選べるよ」




