犯人現る
お腹空いてない。
記憶にある限り、私は最初の数日以来、お昼ご飯を食べていない。…というか、そのことすら忘れていた。
しかも今現在進行形で、隣のダイニングには一生涯でほとんど目にすることは無いであろう豪華な大量の料理が待っている。
「…お腹空いてないです。少なくともここにいる間、何かを食べなきゃって思ったことがありません。私どうしちゃったんでしょ…んぐ、むっ!!」
「…しっ!…来たみたいだよ……」
彼はそう言って私の口を指で塞ぐ。
----!!!ちょっとダメダメダメ!!
慌てふためく私を一瞥すると、彼は肩を竦めて手を離し、目線でダイニングに誘導する。
「……やっぱりね」
ダイニングの様子をこっそり見ながら彼が静かに零す。
私の目には何が起こっているのか映らない。
「…何かいるんですか……?」
私が静かに訊ねると、
「…見えない?へぇ、そうなんだ」
そう言って、彼が私の両瞼にフワッと触れた。
あまりの出来事に目を見開いて彼を見ると、彼はおかしそうに口元を緩めながら囁く。
「ほら、見てごらんあそこ。わかる?」
彼が指差した方を恐る恐る窺うと、そこには、私の作ったシチューを貪る…赤い目と大きな口の…〝あの日〟の魔物がいた。
「…キースせんっぱ………」
そう呟きながら、私は意識を手放した。
「俺はお前とは暫く口を聞きたく無い気分だ」
「…すまない」
自分の目の前で気を失った彼女を抱えて、僕は研究所の地下に連れて来た。
通信魔法でゲオルグを呼び出すと、一瞬で状況を悟ったのか、顔面蒼白になりながらも彼女を介抱し、今ようやく人心地ついたところだ。
「……俺はなぁ、この子を夜外に出すのだって嫌だったんだぞ。それをお前が職権濫用して無理矢理実験に付き合わせて?挙句の果てに気絶させて連れ帰って来るとはどういう了見だ?あぁん?」
全く言葉も無い。
「……相手がお前じゃなきゃ極大魔法で消し炭にするところだ」
ふと顔を上げると、寂しそうに自分を見る親友と目が合う。
「……なんて、どんな綺麗事を言ったところで、俺がこの子を引き取ったのも結局お前のためだ。お前がそうなってなかったら、俺はあの村に行くことも無く、この子を引き取ることも無く、…こんなにやるせない気持ちも知ることは無かった」
ゲオルグは、質素な寝台に寝かされた彼女を苦し気に見つめる。
「………………。」
「結果を報告しろ。実験は上手くいったのか」
目に力を込めて研究員の顔に戻る親友に、僕は言葉では上手く表せない、切なさのようなものを覚えた。




