魔法研究所第一研究室
「コールデン、これ頼めるか?」
「コールデン、これ今日までに仕上げてくれ」
「コールデン代わりに経理部行って来てくれよ〜!」
全ての依頼に「はい!」と答え、私は今日も日常をこなす。5年間の私の日常……。
あの邸での出来事はちょっと長めの夢だったんじゃないかと、私は執務室を見回す。
王立魔法研究所、魔法使い憧れの場所。
ここで働けることは、多くの人間にとって最高に名誉なことである。
国中から舞い込む様々な依頼。
要人護衛、失せ物探し、魔物狩り…。あまりにも幅広く膨大なそれらの解決には、研究所所属の最も適性のある研究員が抜擢される。
第一魔法研究室、私の職場。こんな私を爪弾きにすることなく置いてくれる場所。
数字が頭に付く研究室は、第一から第五まであって、通常は室長と呼ばれるトップが取り纏めている。
ここ第一魔法研究室は、なぜかその室長を副所長が兼務している。私の上司で……厳つい顔の、ゲオルグ・ガードナーその人だ。
人手不足だもんね…。そんなことを思いながら、私は目の前の書類の整理に取り掛かる。
「コールデン、大丈夫?何かぼ〜っとしてる?」
同期のエリック・ゴードンが声を掛けてくる。
「あ……私ぼ〜っとしてた?ごめんね、みんな忙しいのに」
いけないいけない、シャンとしなければ。
「…………。あ、そうだコールデン!今日は君が喜ぶすごいニュースがあるよ!」
すごいニュース…??
もったいぶったゴードン君がニンマリ笑う。
「キース先輩が任務から戻るんだ!!」
「キースせんぱーい!おかえりなさいっっっ!!」
私は思いっきり腕を振りながら、執務室の中を入り口ドアまで小走りする。
それに気づいたその人は、ふとこちらに顔を向けると優しく目を細める。
「ただいま、セレス。いい子にしてた?」
キース・アーヴィング上席研究員。この第一研究室の絶対的エースにして、同年代魔法使いみんなの憧れの人だ。
「当然です!もう子どもじゃ無いですから!」
私はフフンと胸を張る。
「そーんなこと言っちゃって、こないだワンワン泣いてただろー?あ、キース先輩お帰りなさーい」
ゴードン君がしれっとバラす。
「えっ!!何で知ってるの!?」
「執務室が震えるぐらい響いてたよ。あー泣き虫コールデンが戻って来たなって、みんなで顔見合わせてさー」
………穴があったら入りたい。
私は俯く。きっと今の顔は真っ赤だ。
「ははは!二人とも相変わらずだね。後で昼飯でも一緒に食べよう。とりあえず副所長に挨拶してくるよ」
そう言ってキース先輩は爽やかにローブを翻した。
「あーあー、コールデンったらすっかり元気になっちゃってさ。キース先輩効果バツグンだね」
「だって先輩すごく優しいんだもん!それにキース先輩に会えたら誰だって嬉しいに決まってるじゃない!」
そう言う私に、ゴードン君はおどけたように肩をすくめる。
だってキース先輩は私のヒーローだ。あの日からずっと。




