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木乃香、22歳【07】

結論から言うと、意外にもスムーズに音葉がピアノ教室へ通うことが決まった。

木乃香が音葉の父親賢介に許可を得た後、佐野先生が賢介に連絡をしたところ賢介は喜んで快諾したそうだ。何か事情を察していた佐野先生は機転をきかし、毎回の音葉のレッスンの光景を写真付きでメールにて報告すると提案してくれた。母親は喜んでいる賢介に表立っては反対できず、渋々了承したようだ。また、毎回レッスンの写真を送られては下手な動きはできないはずだ。


音葉は毎週末家から電車で30分の位置にある、佐野先生の元教え子が教師をしているピアノ教室に通う。佐野先生は世界各国の演奏会に引っ張りだこで直接音葉に指導をすることは出来ないが、日本に戻る際は必ず音葉に会いに来ると約束してくれた。



木乃香はキッチンからソファに座っている音葉をちらりと見る。音葉はととても集中してピアノ教室で使っている楽譜を読んでいた。

音葉がピアノ教室に通い始めても、二人の生活にさほど変化はなかった。週に2,3日ほど公園で話したり木乃香の家に来る。木乃香の家では音葉はずっと紙の鍵盤で練習をしていた。その間、木乃香は家事をしたり本を読んだりしている。


「頑張ってるね。はい、はちみつレモンだよ。」

先ほどキッチンで作ったホットはちみつレモンの入ったマグカップを音葉の前の机の上に置いて言った。


「ありがとう。」

音葉は楽譜から顔を上げると一旦机の上に置き、マグカップを手に取った。そしてマグカップにふーふーと息を吹きかける。


「いつもピアノの練習頑張ってるね。お父さんに電子ピアノも買ってもらったんだっけ?」

木乃香がいつもの調子で話しかけると、音葉の飲み物を飲む手が止まった。


その様子に木乃香が驚いていると、音葉はマグカップを机に置き話し始めた。

「実は…ピアノは買ってもらって家にあるんだけど、使うとお母さんに怒られるから使えないんだ。」


「えっ…音がうるさいから?」

木乃香の家でも未だに紙の鍵盤を夢中で弾いていると思ったらそんな事情があったとは…。何故気づいてあげられなかったんだろう。


「うん。ピアノの音色はヘッドフォンをつけてるから大丈夫なんだけど、指が鍵盤に当たる音がうるさいって。弟の病気が悪くなっちゃうって。」


「そうなの…」

鍵盤を押す音だけを聞いたことはないが、そんなに音がうるものだろうか。キーボードをたたく音程度に思えるが、それなら部屋を変えればいいだけの話だ。


きっと音葉が気に食わない母親の嫌がらせなんだろう。音葉が父親に不満を言わないことをわかってしている気がする。


木乃香の家にピアノを買って置いてあげたいが、それは干渉しすぎだ。第一赤の他人の子供のために部屋まで貸してピアノまで買ってあげるというのは異常だろう。

何か手助けをしたいが、今回はさすがに黙って見守るしかない。

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