24.新たなる非凡な僕私-14
聞こえてきた声の方に、三人は同時に振り返った。
「あ……」
「お……?」
優とその女性の視線が交差した。
白い純白に金色の刺繍で装飾がなされた、神の御使いの正装。
その気ダルそうな目つきは、だが優を見つけると僅かに驚きに見開かれ。
「お前は……!」
(最悪だ……)
内心で、優は大きく舌を打った。というのも、そこに姿を見せたのは紛れもない。
「田中美紗緒さん」「夕凪優!」
昼間世界樹内部で一悶着あったそのお相手、田中美紗緒その人であったのだから。
「お前なんで、いや……、なるほどな」
どこか納得したように美紗緒は優の傍に立つ羽衣と灯花、二人へと意味深げな視線を送り。
そのあと何処が疑うような細い目つきで、優へと視線を戻した美紗緒は、
「お前、何企んでんだ? 入学初日からこれは……さすがにできすぎだろ」
優の力量の、ほんの片鱗とはいえ体感している美紗緒からすれば、その怪しい生徒が入学初日から学園の有名人二人とつるんでいる。
それを出来すぎと言わずして、何も思惑がないなどとそんな事思える筈もなく。
「ご、誤解です。ほんとにお二人と知り合えたのは偶然でして──」
「まぁ今はいい。どうせあとで話は聞くんだ。その時にじっくり尋問してやるとして」
「じ、尋問って……」
美紗緒は優から視線を外すと、次に無言でそのやり取りを見守っていた羽衣の方へと視線を向け。
「またお前か、高峰」
「また自分です、田中元教官」
羽衣の返しに、美紗緒は気怠そうに肩を竦めて嘆息を吐いた。
「まぁどうせそんなこったろうとは思ったけどよ。いつも面倒事に巻き込まれるのはお前だ」
「進んで巻き込まれてるわけじゃないのですが、いえ、モテるってつらいですね」
「黙れ」
気さくに冗談を交えて会話を運ぶ羽衣に、美紗緒はやはり気怠そうに自らの額に右手をあて。
「とにかくまずは詳しい話を聞かせてもらうからな」
「それは構いませんけど、ここにいらしたのは田中元教官だけですか?」
「他の職員は現場の調査中だ、お前らの子守は私が担当しろってよ。ったくめんどくせぇったらありゃしないが……黙ってついてきてもらうからな――」
そう美紗緒が言いかけ、それを遮ったのは辺りに響いた……誰かの虫の音、腹の虫であった。
「……ごめんなちゃい」
ぺこりと恥ずかしげにそう口にしたは、そっぽを向いて顔を赤くしながら、両手で腹を抑える灯花であった。
そんな緊張感に欠ける灯花に、羽衣は思わずと言った具合で笑みを零し。呆れた表情で頬を引き攣らせる美紗緒に向かい、
「田中元教官。申し訳ありませんが、空腹ではとてもとても、先ほどの光景を鮮明に思い出すことができません」
「はぁ? てっめ何いってんだふざけてんの――」
「ああ! そんなことを言っている間にも空腹でどんどん記憶が削れて……!」
両手で頭を抱える羽衣のわざとらしい演技に、優は苦笑を零し、灯花は呆然とその光景を見つめ。
「ち、あーくそ。わーったよ。適当な店で話を聞く。それでいいんだろ?」
「さすが田中元教官です。飴と鞭、もと鬼教官はきちんと使い分けていらっしゃいます」
「うるせぇ、てかさっきからその田中元教官はやめろ。今は田中聖務少尉だ。ったく、最初から今まで、俺相手にここまで意見を通そうとする馬鹿はお前くらい――」
と、美紗緒は言いかけるが、はっと何かに思い至ったのか、優へと視線を流し。
「いや、その馬鹿がもう一人いたなそういや」
その視線を受けた優は、咄嗟にそ知らぬふりで視線を逸らした。
「まぁいい、それじゃ行くぞ。おら、近衛のとこの餓鬼もぼけっとしてんじゃねぇぞ」
「へ、ふぁ、ふぁい!」
兎にも角も、優たち一行は美紗緒の後に続き、その場を後にし。
──適当に近場のファミリーレストランに入る事、暫くして。
「だいたいの話は判った」
そう言って手に持ったマグカップを置き、納得した顔で頷いた美紗緒の対面。
「店員さん! ライスおかわり!」
なりふり構わず、そう言って手を挙げ、瞳を輝かせるのは灯花であり。
「まぁそういうことで。私も今回の件についてはお手上げでして。ですので、今回は学園へと早々に連絡させてもらった次第です」
次にそう言って口元に運んでいたマグカップを置いたのは羽衣。
四人は近場にあったレストランに足を運んだ後、先に食事をとってしまった。
現在は三人が食事を終えた後、満たされた腹にようやくと今回の件についての話を進めているところなのだが。
「普段のお前からすれば随分と弱気だな。こっちがどれだけ教育を施そうがいつもお前が俺達に報告をよこすのは事後。そんなお前が今回は俺達を最初から頼った訳だろ? 言葉だけじゃない何かヤバいものをお前は感じたわけだ」
「いえ、さっきも一度いいましたが。今回は少なくはない一般人が巻き込まれていますので。私は自分ひとりを守るので精一杯ですし、足手まとい──いえ、一般人の皆さんはアスガルズの方々にお任せしようかと思いまして」
「かわいくねぇなおまえ」
苦い表情を浮かべてそう言った美紗緒は、次にまるで構わないでとばかりに気配を殺し続ける、優へと目を向け。
「さて、夕凪。次はお前だ。話を聞かせてもらうぞ」
ついに矛先を向けられた優は、びくりと肩を震わせ。
「そういえば、田中元教官は夕凪さんのことをご存知だったのですか?」
羽衣が純粋に浮かべた疑問を口にすると、美紗緒はまぁなと頷き。
「ちょっとばかし一悶着あってな。そうだよな?」
優へとにやりと口角を吊り上げた美紗緒に、羽衣の興味深そうな視線が向く。
向けられた優はといえば、マジデ勘弁してください、と内心で一人愚痴りながらも苦笑いを浮かべることしか出来ず。
「で、高峰。こいつと知り合った経緯は?」
「経緯と申されましても。私が先に知り合ったわけではないので。そこの暴食娘がたまたま夕凪さんの席の隣だった、という繋がりなだけで」
「店員さん! ライスもっかいおかわり!」
羽衣の話を聞き、訝しげな眼を優へと向ける美紗緒だが、優が必死に首を何度も縦に頷き肯定する様を見て。
「……白か」
一言、ただそう呟くと。
「ま、今回の件に関しては何もなさそうだが。夕凪、私がアスガルズにいる間は……そう悪巧みはさせねぇぞ?」
「わ、悪巧みって。私はそんな――」
苦笑を浮かべる優に、意地悪い笑みを浮かべた美紗緒は席を立ち。
「さてと、こんなもんか。んじゃ全員寮まで送ってくわ。おら、いつまでも食ってんじゃねぞ近衛妹」
「へう?」
まるでハムスターのように頬袋を膨らませてご飯をかきこむ灯花へと、呆れた表情を浮かべる美紗緒。
「ったく、あの姉あっての妹だな。どんな胃袋してんだよお前ら姉妹は」
「んぐ……、あはは、すいません。でもそろそろお腹も膨れましたので大丈夫ですよ。七分目くらいですけど」
あまり膨れてるようには見えない自らの腹部を満足そうにぽんぽんと両手で撫でる灯花に、三人は揃って苦笑を浮かべ。
「あ、それと会計は別々な」
「けちだ」
「どけちだ」
「だからまだ独身なんだ」
優、灯花、羽衣の順にとんだジトっとした視線に、美紗緒は事もなさ気に澄ました表情で、会計へと先を歩いたのだった。
*
夜の帳も落ち、月夜にぼんやりと浮かび上がる……名も知れぬ誰かの影。
「なるほど、ね。これは思わぬ収穫だ。まさか自分から伏兵を呼び込むなんて愚行を、彼女がするとは思わなかったが」
影の見つめる先、そこには楽しげに会話を交わす三人と、そして憎むべき悪魔の羽織を纏う一人の神の敵。
「まぁいい。予想外の収穫だ。有効に活用させてもらうとしようか――」
そう呟いた影は、どこか喜悦に満ちた声色で、最後にこう呟いた。
「夕凪 優」
誰とも知らぬその影は、夜の帳に紛れ、更なる闇の中へと姿を消して行った。
ブックマーク・評価をいただけたので連続更新してしまったちょろい作者でした。




