89.大魔王さん、ひと暴れ
「……」
アンは言葉を失う。
現れたのはシゲサトではなかった。
だが、その特徴的な容姿は確かに見覚えがあった。シゲサトと共にいた二人のうちの一人。角のコスチュームを付けた少女であった。
そして、その少女が“サラ”という名前であることが文字情報として強く印象付けられる。
「お、お前……何者だ?」
当然の疑問だ。
ウルトマという男性は焦りの表情と共にその少女に問い掛ける。
「見てわからぬか? ここに書いてあるだろ?」
そう言いながら褐色の少女は自身の表記名を指差す。
「お前、モンスターだったのか!?」
「主らがその問いを投げかけるのは少々、滑稽であるように思えるが? しかし、我の記憶の限り、主はプレイヤーであったと思うが、同類であったか?」
「っ……!」
「まぁ、どうでもいい。我はここに愉快な談笑をしに来たわけではない。離れている時間は極力、短いに越したことはないのだから」
ウルトマはその言葉の細かい意図はわからなかったが、早々にけりをつけるつもりであるニュアンスは読み取れた。そして、その通りに彼女は速やかに行動に移行する。
「スキル:支配」
「っ……! な、何だこれ……」
「体が……勝手に……」
それぞれグロウとアンを追い詰めていたウルトマとパンマはカクカクと不自然な動きをしながら、ターゲットから離れるようにフィールドの中心部へ誘われる。
「グロウ!」
アンは急いで半放心状態で尻餅をつくグロウの元へ駆け寄る。
この時点で、このサラというモンスターが自身らを助けに来てくれたのではないかという希望的観測であった公算の確度が高いと認識できた。
「思ったより抵抗されるが、雑魚にはよく効くな」
サラは嘲(ルビ:あざけ)るように笑みを浮かべながら、そんなことを言う。
「さてさて、もう少し踊ってもらおうか? ……魔法:“レイン・レイ”」
「っっっ……!」
モンスターとしてのサラは現時点ではプレイアブルモードでは解放されていない魔法やスキルを使用することができる。
サラの周囲には無数の淡い水色の発光体が漂い始める。
発光体はやや不規則な動きで周回している。
そして、その発光体の一つ一つからはまるで予告線であるかのように白い線が真っ直ぐに伸び、無数の線の重なりは美しくすらある。
「ま、まじかよ……」
だが、その線が指し示す領域範囲内に居る者からすれば、それは死刑宣告に等しく。
雨のような光の線は二匹の哀れなモンスターに襲い掛かる。




