84.おじさん、弱体無効化
「行くぜ! スキル:決戦龍撃砲 だぁああ!」
シゲサトの銃口からは眩い光のドラゴンが放たれ、その全てがアネモネの全身を駆け抜けるように突き刺さる。
「ギギィイイイイぃぃぃぃ…………」
アネモネは激しい呻き声をあげ、次第にその動きを止める。
力を失ったアネモネはその巨体を湖面に叩きつけ、激しい波を発生させる。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
湖に落下したシゲサトは辛うじて動かなくなったアネモネの体に上陸する。
「やった……」
シゲサトの最後の残弾は、その使役するドラゴンであった。
ドラグーンの切り札”決戦龍撃砲”は使役するドラゴンを”弾”として使用する。
戦闘中一度切りしか使用できず、使用後は同戦闘内でドラゴンも戦えなくなってしまうが極めて強力なスキルであった。
「有難う……ピクク……あとは……」
最低限の自身の役割を果たしたシゲサトは残弾もゼロ。
正に満身創痍となり、アネモネが作り出した陸上に仰向けに倒れこむ。
「健闘は認めよう……」
「っ!!」
が、そんなシゲサトの元にジイニが訪れる。
「アネモネも…………よくやってくれた……だが、これでお前は完全に終わりだ……」
ジイニは掌をシゲサトに向ける。
が、功労者であるシゲサトに対し、そのような行為を容易く許すはずがなかった。
二者の間に強い剣撃が振り下ろされ、ジイニは突き出していた掌を思わず下げる。
「オーナー……!」
「シゲサトくん、有難う。おかげで戦える……」
偶然なのか、そのように設計されているのかは不明であるが、倒れたアネモネが陸の役割となる。
それにより、これまで外周に追いやられていたジサン、サラがジイニに接近可能となった。
「サラ……! シゲサトくんはもう戦えない。守ってあげて欲しい」
「っ……! 瀕死ルールがあります! 俺はHPゼロになっても構いません……!」
ジサンのサラへの指示に対し、シゲサトはそのように主張する。
そもそも通常の戦闘では、HPがゼロとなってもパーティメンバーが全滅しない限りは死亡とはならない。
残弾が無くなり、もはや役割を失ったシゲサトは確かに行動停止状態となっても問題はなかった。
「承知しました……ただし、いざとなればマスターを優先します。それが条件です」
「えっ……!?」
「有難う……」
そう言い残すと、ジサンはジイニに突撃していく。
「なんで……?」
残されたシゲサトは合理的とは言えないジサンの指示について、不思議そうに呟く。
「……あまり戦術的な理由はないと思う。だが、マスターがそう言う以上、我はそれを尊重する。敢えて言うならば……強者の余裕という奴だ」
「っ……」
◇
「あまり魔帝を甘く見るなよ……」
(……)
一対一の局面を作り出した状況下でジイニはそのように呟く。
「そんなつもりはないが……」
「果たしてどうだろうか……後悔するんじゃねぇぞ! 受けてみろ!」
ジイニがかざした掌から放たれる蒼い光弾群がジサンを襲う。
「っ……!」
ジサンは計算された最小限の動きで避けるというようなプレイングはできない。感覚とアジリティ頼りのいわゆる気合避けで何とか回避し、被弾を二発に抑える。
(通常攻撃でこの弾数か……っ……! ジイニは……! いない……!?)
弾に集中している間にジイニの姿を見失う。
[スキル:海流拳]
「っ!? スロウ……!」
真上からジイニそのものが流星のようなエネルギーを帯び、降り注ぐ。
地面は捲れる様に激しく損傷し、その攻撃を受けた際の被害を予感させる。
「……ちっ……避けるか」
(ちょ……お前の相棒だろ……!)
それが倒れたアネモネが作り出した陸地であっても容赦はないようであった。
[魔法:メガ・ヒール]
「有難う、フェアリー」
フェアリー・スライムの回復魔法で、光弾により受けたダメージと魔法:スロウの代償であるHP1/4の消費分を回復する。
しかし、魔法やスキルには使用間隔があり、回復魔法も連発は不可能である。
「まだまだこんなもんじゃねぇぞ……! スキル:スプラッシュ・ディフュージョン!!」
まるで上空から見た台風が渦を巻くかのように蒼い弾幕の嵐がジサンを襲撃する。
「くっ……!」
ジサンは反射的に距離を取り、細かい動きや剣による叩き落としで何とか防ごうとするが、その弾圧を完全に防ぐことはできない。
それでも大技を使った直後の僅かな隙を狙い、ジイニに対し、攻撃を仕掛ける。
(スキル:魔刃斬……!)
魔刃斬はシンプルに強い斬撃だ。大抵の敵はこの一撃でHPゲージを満タンから吹き飛ばすことができる。
しかし……
(魔刃斬がこれしか効かないだと……!?)
ジイニに与えたダメージはせいぜい1/20程度。
[ジイニの低速状態が解除されました]
(……もうスロウの効果が解けた……?)
「やっとまともに動けるか……」
「っ……」
(これはやばいかもしれないな…………魔帝:ジイニ…………間違いなく、これまでに戦った相手の中で一番強い…………)
ジサンは相対する相手に対し、そのように感じていた。
◇
「おらっ!」
「っ……!」
ジサンとジイニの一対一の局面は続いていた。
「魔法:オーシャンズ・ファング……!」
「くっ……」
(……魚群の攻撃か……!)
それは序盤に湖外周で受けた果てしないとも思えるほどの魚群の大群による攻撃であった。
(ぬぐぅ……! この至近距離で……! おぉおおお!!)
ジサンは迫りくる魚群を全力で叩き落す。
叩き落して、叩き落して、叩き落し続ける。
外から観測すれば、すでに魚群に呑み込まれているように見えるような状況でも無心で抵抗する。
「オーナー……!!」
シゲサトが思わず、叫ぶ。
時間の経過と共に、魚群は散り散りになり、群れは解体されていく。
そして、内部の様子が明らかとなる。
「お、オーナー…………」
ジサンは立っていた。
HPを枯らすことなく。
だが、そのHPは残り1/6程度まで減少している。
現在、回復手段を用いることができる仲間はいない。
その結果を見て、ジイニは呟く。
「……ちっ、つまんねえな……」
(……!?)
「情が湧いたのか、なんか知らねえが、その舐めたプレイ……」
それはジサンがテイム武器を使用していることを指していた。
(確かに……もはや限界か……)
「頑なに変えないってか!?」
(えーと……)
ジイニはせっかちであった。
「おいっ、GM! 聞いてるか!?」
その時、突如、ジイニが怒るように空に語り掛け出す。
「奴に掛かっているテイム武器の弱体化を消しやがれ……! てめえらが設定した大して意味のない規定のせいで、真剣勝負を阻害してんだよ……!」
「っ!?」
(……GMってゲームマスターのことだよな? そんなことが……できるわけ……)
[プレイヤー:ジサンの装備による弱体化を本戦闘に限り無効とします]
(えぇえええ!?)




