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ダンジョンおじさん  作者: 広路なゆる


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80/120

80.おじさんとナマズ

「オーナー、マナ・ナマズ……釣れないですね……」


「うむ」


 ジサンが念願の釣りを始めてから、一時間ほどが経過していた。

 ターゲットであるマナ・ナマズは未だ釣れていない。


 しかし、その間にも、いろいろな新種の魚が釣れていたため、ジサンは結構、楽しんでいた。


 リアル・ファンタジーにおける釣りは比較的、シンプルである。

 選ぶのは竿と餌だけ。あとは水に釣竿を垂らすだけだ。

 魚が来ると、浮きがちゃぷちゃぷと沈む。その沈みが大きい時に糸を引けばヒットだ。

 その後は、糸が切れないように引き上げる必要がある。魚が強く引っ張るときはリールを巻かずに、力が抜けた時に、一気に引っ張る。

 これが釣りの基本となる。


 しかし、まぁ、別に最悪、釣れなくてもいいんだ。 ジサンはそんな風に思っていた。


 ガチ釣り勢にそんなことを言えば、叱られてしまうかもしれない。

 しかし、エンジョイ勢からすれば、それはいわば大自然ののんびり無限ガチャだ。

 だから釣り糸を垂らしているだけで、すでに楽しいのだ。

 水族館の淡水コーナーを充実させることができる点も彼のモチベーションの一つとなっていた。


(とはいえ、せっかくだ……)


「そろそろ、これを使ってみるか」


「はい……?」


 ジサンはかつてツキハから貰った“黄金の釣餌”を取り出す。


「シゲサトくんもどうぞ」


「……いいんですか?」


「もちろんです」


「あ、有難うございます」


「マスター……! 私も……!」


 下手ながら、意外と楽しんでいるサラも釣餌をねだる。


「あぁ、いいぞ」


 そうして三人は釣り糸を再び垂らす。


 まもなくであった……


「ん……? んんん!?」


「し、シゲサトくん?」


「フィッ、フィイイッッシュ! でかい! でかいぞぉ!!」


「シゲサトくん! 焦らずじっくりだ」


「わ、わかりました!」


 ちょっぴり元気のなかったシゲサトの竿が大物の当たりを予感させるしなりを示す。


 ==========================

 ■マナ・ナマズ ランクO

 レベル:60

 

 HP:1042  MP:429

 AT:320   AG:344


 魔法:メガ・スプラッシュ、メガ・アース

 スキル:激怒、瞑想

 特性:水生

 ==========================


 マナ・ナマズは見た目に反して、魔法主体で戦ってきたが、特殊な行動をしてくるわけでもなく、フルメンバーでランクO相手に苦戦するということはなかった。


 しかし、釣れたのは普通のマナ・ナマズ。釣らなくてはいけないのは、白いマナ・ナマズであった。



 ◇



 翌日――


「また……普通のマナ・ナマズでしたね……」


「えぇ……」


 ジサンらは五匹目のマナ・ナマズをテイムする。


 ちなみに今回、ジサンが使役しているのはフェアリー・スライムである。


 ==========================

 ■フェアリー・スライム ランクO+2

 レベル:90


 HP:1607  MP:523

 AT:560   AG:849


 魔法:エレメント、メガ・ヒール、フェアリー・ヒール

 スキル:まとわりつく、硬化タックル、妖精の歌

 特性:液状

 ==========================


 フェアリー・スライムはジサンの頭の上でふにゃりとしながら、じっと水面を見つめていた。


(あるじ)……何かお手伝いできることはあるだろうか?」


 シゲサトが使役していたモンスターが発言する。

 それは龍人族の集落で、シゲサトが選択したドラゴン……ピククであった。


 ジサンにとって、シゲサトがピククを選んだのは少し意外であった。

 それはピクク本人にとってもそうであったようだ。

 ジサンはその時のことを思い出す。


『え? 私ですか……?』


『はい……嫌ですか?』


『い、いえ……ですが、なぜ……? 自分で言うのは悔しいですが、今回の件、ドラドやロワの方が活躍していたと思っていたので……』


『あ、えーと……その……あの時、認めてくれたのが……嬉しかったので……』


『……?』


 それは男性三人というピククへの挑戦条件の中に、シゲサトを含んでくれたことであった。


 ちなみにピククはドラゴンの姿をしている。

 シゲサトのドラグーンの便利特性により、サイズは縮小されており、現在はちょうどウナギのようなサイズ感となっている。

 また、少し変わっていて、種族はドラゴニュート・ドラゴンであり、ユニークネームというものが付与されているらしく、それがピククになっているということであった。

 このことからドラゴニュート・ドラゴンはユニークシンボルのように一体しか存在しないわけではないものの、ユニークネームにより、色々な見た目や特性を持った種が存在することが推測できた。


 ==========================

 ■ドラゴニュート・ドラゴン ランクQ

(ユニークネーム:ピクク)

 レベル:90

 ==========================


 なお、ピククはシゲサトにとって、初めてテイムしたランクQモンスターであった。



 ◇



 さらに翌日――


「また……普通のマナ・ナマズでしたね……」


「えぇ……」


 ジサンらは九匹目のマナ・ナマズをテイムする。


(ん……)


 そんな時、通知が届く。


 ==========================

 ◆2043年3月

 魔帝:カガ

  ┗討伐パーティ<ウォーター・キャット>

  ┝ミズカ クラス:魔勇者

  ┝ユウタ クラス:槍聖

  ┝キサ  クラス:ヒール・ウィザード

  ┗チユ  クラス:ジェネラル・ヒーラー

 ==========================


「ミズカさん達、魔帝:カガを狙っていたんですね! 先越されちゃいましたが、無事だったみたいでよかったですね!」


 同じようにメッセージを確認したシゲサトがそのように言う。


「そうですね……!」


「いい報せが届きましたし、そろそろ白マナ・ナマズ来るような気がします!」


 と、シゲサトが意気込む。


「おぉおおおおお! マスター! 来ました!! ついにサラのところにも!!」


 釣りを開始して、始めてサラの竿が強くしなる。



 ◇



「また……普通のマナ・ナマズでしたね……」


「えぇ……」


 ジサンらは一〇匹目のマナ・ナマズをテイムする。


(……)


 ジサンはまだ大丈夫であったが、シゲサト、サラは少し疲れの色が見え始めていた。そんな時であった。


「今日は湖が妙に静かだ……」


 先日、グロウに絡まれるジサンらが抜け出す機会をくれたオレンジパーカーの青年がまたもアンニュイな表情を浮かべ、湖の方を見つめながら腰かけていた。


(あ……)


 ジサンはこの二日間、釣りをしているうちにふと思い出していたのだ。


 彼はサロマコで放置したルィを再び探しに行った際に、現場にて、すれ違っていた人物であった。


「釣れるか……?」


「えっ?」


 そんな彼がふいにジサンらに話し掛けてきた。


「ここにいるってことは魔帝:ジイニを狙っているんだろう?」


「っ!? あっ……はい……」


 唐突な核心をつく質問に、ジサンは正直に応えてしまう。


「ちなみに、なぜジイニを狙っているんだい?」


「え……」


 青年の続け様の質問に対し、シゲサトは戸惑っているように見えた。


「……その報酬が欲しいからです」


 ジサンは再び正直に応える。


「なぜ仙女の釣竿が欲しいのですか?」


「っ……」


 青年は矢継ぎ早に質問を深堀してくる。


(……なんか…………就職の面接を受けている気分だ……あれ、すごく苦手なんだよな……まぁ、いいか……)


「水族館に……水生モンスターを誘致したいので……」


「……? ちなみに、そのモンスターはテイムした奴か?」


 青年はジサンの回答を十分には理解できなかったようであるが、ふと頭の上でリラックスしているフェアリー・スライムに視線を向ける。


「そうですが……」


「テイム……か…………そのモンスターはとてもあなたを慕っているように見える……」


「……そうですかね。そうだと良いのですが……」


「きゅぅうううん!」


 フェアリー・スライムはそうだよ! とでも言うように一鳴きする。


「不思議なものだ……モンスターとは……なんのために生まれてきたのだろうな……」


「え……?」


「この釣竿を使ってみろ」


「えっ!?」


 青年は突如、一本の釣竿をジサンに差し出す。


(……)


「だ、大丈夫ですかね……オーナー……彼、ちょっと怪しい……」


「そうですね……無茶苦茶怪しいです……ですが……悪い人ではなさそうです……」



 ◇



 ジサンは青年から借りた釣竿に黄金の釣餌を付け、竿を投げる。


「おっ……? おぉおおおお!?」


 まもなくして、ジサンの竿が強くしなる。


「来たぁあああ!! 白い……! 白いマナ・ナマズだぁああ!!」


 シゲサトが叫ぶ。






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