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ダンジョンおじさん  作者: 広路なゆる


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79.おじさん、行きたい

 カスミガウラのレンコーン、サロマコのミミック・ホタテに続き、ビワコにおける魔帝:ジイニ挑戦条件の最後の指定ターゲットはマナ・ナマズという魔魚であった。ここへ来て初めての釣りモンスターである。


 しかもこのマナ・ナマズの表記はマナ・ナマズ(ホワイト)のようになっていた。どうやらマナ・ナマズの中でも白色でないと条件を満たさないということのようであった。


 なお、ジサンは釣竿を所持していたが、シゲサトは持っていなかったため、ビワコ東部に併設されているクエスト斡旋所でレンタルすることにする。


 そして、斡旋所を出て、真っ直ぐにビワコへ向かう。


「随分遅かったな……しかし、やはり来たんだね、シゲサト……あれだけ止めたのに……」


「!?」


 ダンジョンエリアに入るとすぐに待ち伏せしていたと思われる二名の人物が立ち塞がる。


「グロウくん……」


 シゲサトが名前を呼んだようにそれはシゲサトの身を案じ、これまでも魔帝攻略を止めさせようとしてきたP・Owerのグロウとそれに付帯しているアンという女性である。


「まさかこんなところまで追ってくるとは思わなかったよ」


 ジサンからすると、あれだけ突き放されたのに、それでも追ってくるのもなかなかに予想外であった。


「その程度のことで止めるようなら最初からやりはしない」


「……そう……それで一応、聞くけど何の用……?」


「何度でも言うが危険だ。引き返すんだ」


 グロウは真剣な顔付きで言う。


「却下だね。こっちもここまで来るのに結構、苦労してるんだ。さぁ、行きましょう! オーナー」


「あ、はい」


 シゲサトに急に呼ばれたジサンは慌てて返事する。


「……ところでシゲサト、そのおっさん、どこの誰だか知らないが、分かっているのかい?」


「……何?」


 グロウが意味深なことを言い、シゲサトは立ち去ろうとした足を止める。


「シゲサト……お前、本当は仙女の釣竿なんて欲しくないんだろ?」


「……!」


「魔帝を倒すために、そのおっさんを利用しているだけなんだろ? 随分と打算的になったじゃないか……」


「…………」


 シゲサトは俯き、地面を見つめながら立ち尽くし、なぜか反論しない。


 どうしたものかとジサンは少々、困ってしまう。


「まぁ、俺からすれば、おっさんのことはどうでもいいが、とにかく、今回はしっかり足止めさせてもらう……! そう毎度、邪魔が入るものでもないぞ」


 前回、引き止められた時は、ミズカが偶然現れ、グロウの実力行使は未遂に終わったのであった。


(確かに毎度、そんなに都合よく……)


「今日は湖が妙に静かだ……」


「「「「っ!?」」」」


 突然、聞こえた妙に気障な呟きにその場にいたメンバーはその発信源の方に視線を向ける。


 いつからそこに居たのか……

 鮮やかな橙色地に白い斑模様というややアバンギャルドなパーカーを着た中性的な青年がアンニュイな表情を浮かべ、湖の方を見つめながら腰かけていた。


「しかし、残念だ……この静かな湖畔に雑音(ルビ:ノイズ)が混じっている……」


「なんだ……?」


 グロウは苛立っているのか鋭い視線を送る。


(あ、あの人は……! …………本当に誰だ……? あれ……しかし、あの特徴的な格好。どこかで見たことあるような……)


 グロウは、一瞬、詩人に気を取られるが、通りすがりの詩人だと判断したのか視線をシゲサトへと戻す。


「と、とにかくシゲサ……」


「今日は湖が妙に静かだ……」


「っ!?」


 が、しかし、なぜかグロウの言葉を遮るように、先程と同じポエムを繰り返す青年にグロウはビクッと肩を揺らす。


(……好機っ!)


「行きましょう! シゲサトくん!」


「あっ……!」


 ジサンはやや強引にシゲサトの手を引き、走り出す。


「お、オーナー……!?」


「シゲサトくん、私に付いてきてください……」


「っ!? ……オーナー……」


 シゲサトはなぜかいつもより幾分、勇ましく積極的に見えるジサンの背中をぼんやりと見つめる。


「行きましょう……!」


(早く……! 釣りへ……!)


 彼は釣りに行きたかった。




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