78.おじさん、震える
[ルィ:それは1000兆カネだよ]
(……は?)
[ジサン:バグってるのか?]
あまりに突飛な数値にジサンはそのように思う。
[ルィ:バグってないやい! 本当にそういう値が設定されていてアタイはありのままに伝えてるだけやい!]
[ジサン:そうか……]
かつて100%テイム武器の情報を得た際は5億カネ。利用はしなかったが魔王:アルヴァロの情報を聞いた際は10億カネを提示された。それと比較しても1000兆カネは流石に桁外れであった。
(……それだけ機密性が高い情報ということか)
ルィとやり取りをしていると、別の通知が届く。
[ジサン:また頼む]
[ルィ:あいよ、またよろしくね]
そうしてルィのサービス利用を止め、ジサンは新たに来た通知を開く。
[ツキハ:こんにちは。お疲れ様です。この度は、魔王のソロ討伐、おめでとうございます]
(つ、ツキハさんだ……)
メッセージは月丸隊のツキハからであった。
ツキハとは前回、牧場に戻った時に直接会って以来である。
確か、その時はツキハが牧場の99Fを購入したんだったよなとジサンは回想する。
(直接会うと大丈夫だが、メッセージだと何となく緊張するな……とはいえ、無視するわけにはいかない……)
彼女の言及する魔王ソロ討伐とは、昨日、配信された通知であろう。
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◆2043年3月
魔王:ネネ
┗討伐パーティ:ああああ
┗匿名希望 クラス:アングラ・ナイト
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ジサンは龍人族の災厄イベントの過程で、不運にも魔王と強制一騎打ちとなり、幸運にも勝利を遂げたのであった。
しかし、あまり目立ちたくはない本人からすると、少々、まいったなぁという状況であった。しかし、祝ってくれた相手を無碍にするわけにもいかない。
[ジサン:有難うございます]
[ツキハ:魔王のソロ討伐、すごいです! でも、サラちゃんとシゲサトさんは一緒じゃなかったのでしょうか?]
[ジサン:一緒です。運悪く、一人ずつ戦うレギュレーションとなる状況がありまして、魔王が出てくること自体、知らなかったので驚きました]
[ツキハ:なるほどです。そんなことあるんですね。ちょっとフェアじゃないような・・・でも、それなら事前準備なしで魔王をソロ討伐してしまったということですか。尚更、すごいです! でも、何より無事でよかったです]
[ジサン:ツキハさんのような方にそう仰っていただけると、こちらも光栄です]
[ツキハ:私なんて大したことないですよ。でもお世辞でも嬉しいです]
(……お世辞?)
[ジサン:そう言えば、先ほどまで、色々あってウォーター・キャットのミズカさんとご一緒してましたよ]
[ツキハ:えっ!? ミズカと? 偶然かもですが、さっき、ミテイからチユをレンタルさせて欲しいと連絡がありまして]
(……おや?)
[ツキハ:あっ、ミテイって言ってもわからないですよね、すみません]
[ジサン:あ、実はミテイさんとも少しお話をする機会がありました]
[ツキハ:なんと]
(……)
ツキハはそれだけ返信して、メッセージが止まる。あまり言わない方がよかったのだろうかとジサンは幾分、動揺する。その話した内容とはツキハのことなんですとも言えないし……と。
だが、少し間を置いて、再びメッセージが来る。どうやら文面を考えていたようだ。
[ツキハ:今回、うちのチユをレンタルしています。なので、貸し1なんですよ。初めての魔帝攻略だったので、少しでもリスクは下げないと、ということで・・・]
(魔帝……? ミズカさんはホクリクに行くと言っていたからジイニ競合ではなさそうかな……)
[ジサン:なるほどです。確かにキサさんはヒーラー専任ではないですしね]
(俺達も魔帝ジイニに挑む時はヒーラーを入れた方がいいかもな……)
[ツキハ:そうなんです。それは分かってはいるんですけど・・・]
(……?)
ツキハは自分を指名してくれなかったことが少し不満であったようだ。
最近、少し成長の兆しが見えるジサンではあったが、文面からそこまでの感情を読み取ることは難しかった。なので、次のジサンの言葉はただ素直にそう思っただけというものであった。
[ジサン:私ならツキハさんがいいですけどね]
(チユさんは大人のお姉さんって感じでなんか怖いし……)
実際には、かなりの年下であるのだが……
なんだかんだ言って、こうやって律義にメッセージをくれるツキハの人間性にジサンは無意識に好感を抱いていたのだろう。
しかし、再びツキハからのメッセージが途切れる。
(やばい……きもかっただろうか……メッセージを消すか……!?)
と、機能的には可能だが、すでに見られてしまっては意味のない対処法を検討していると、ツキハから返信が来る。
[ツキハ:すごく嬉しいです]
間隔が空いたわりにシンプルな回答が返ってくる。
しかし、社交辞令でもそう返信してもらえると助かるな……とジサンは少し安心する。
[ツキハ:そう言えば、話は変わりますが、ウォーター・キャットも怪しげな集団に待ち伏せされて襲撃されたらしいです]
[ジサン:なんと!]
(……ミズカさんはそのことについては特に触れてはいなかったな)
[ツキハ:その時は退けられたそうですが、結構、強かったそうです。例の魔王討伐プレイヤー狩りかもしれません。ジサンさんは匿名なので大丈夫かもしれませんが、今はシゲサトさんと一緒にいると思うのでくれぐれも気を付けてくださいね]
実はサロマコでそれらしき二名に襲われていたのだが、必要以上にツキハを心配させるのはよくないかとジサンはそのことは伏せた。
[ジサン:分かりました。ツキハさんも気を付けてくださいね]
[ツキハ:はい、お気遣い有難うございます]
そうして、ツキハとのやり取りを終える。
(さて……)
ひと段落したジサンはおもむろにメニューを確認し……そして、ぎょっとする。
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アクアリウム
アクアリウムレベル:3
場所:カワサキ
オーナー:ジサン
館長:指定なし
スタッフレベル:2
入館料:100カネ(プレオープン)
評判:★★☆☆☆(5)
施設:小型水槽群、淡水コーナー、陸あり水槽、大型水槽
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(ほ、ほ、ほ、星2……!?)
公開していた水族館の評判がいつの間にか★2になっていたのである。
(な、なんてことだ……)
ジサンは動揺しながらも、評判につけられたコメントを確認する。
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【コメント1】ID:9jojd9ajtf
良い点:
小型の生物は可愛かった。
気になる点:
特徴や見どころがなかった。
一言:
期待していただけに、正直、がっかりした。
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【コメント2】ID:iajr30ut9jda
良い点:
ないんだなこれが
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【コメント3】ID:ek436ut48r
一言:
金取るってレベルじゃねえぞ!
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【コメント4】ID:jgteajfia2
一言:
モンスターを展示とか不謹慎過ぎるだろ
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「………………」
辛辣なコメント群にジサンは手の震えが止まらなくなる。
(ダメだ……やはり慣れないことはするものじゃない…………水族館公開なんて止めるか……)
そんな時、スクロールした先にあった最後のコメントが目に入る。
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【コメント5】ID:ahr482hrfa
一言:
子供と一緒に来ました。DMZだったので、安心して観覧することができました。まだまだ粗削りの印象ではありましたが、立地にも関わらず、お値段も安かったですし、プレオープンということで空きの水槽がある分、今後への期待感が高まりました。また、モンスターが展示されているのも斬新でした。子供の頃、大好きだった水族館に子供を安心して連れていけるというだけで、本当に素晴らしいと感じました。是非、今後も頑張ってください! 期待しています!
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(…………)
ジサンは言葉を失い、しばらくそのコメントを茫然と眺めていた。
そして、もう少しだけ続けてみようと思うのであった。
◇
そしてジサンらは目的の地、ビワコに到着する。




