76.おじさん、気づかれる
「そこに三人の龍人がいるじゃろう!」
「はい?」
「どれでも好きな奴を一人、連れていけ。ワシでもいいけど……」
「えっ、いいのですか……? 三人は龍人族にとって重要な戦力では……」
災厄を退けた龍人族の宴の最中、長老の申し出にシゲサトは戸惑う。
ドラド、ピクク、ロワがそれぞれ跪き、首を垂れている。
龍域により、守られていたおかげで、戦闘後に長老もドラドも倒れた精鋭達も無事に目を覚ましたのである。
リアル・ファンタジーにおいて戦闘不能とゲームオーバーは明確に区別されている。
戦闘不能であればどのような重症であっても、回復手段を行使することにより、比較的容易に元の状態に戻ることができる。
「当然じゃ……! 今回の件、貴方達がいなければ、全滅であった。特にシゲサト様は命懸けで我々と共に戦ってくれた。一人では少ないくらいやもしれんな」
「……っ。いいのでしょうか?」
シゲサトは今度はジサンの方を見つめ確認する。
ジサンは長老の申し出を受けることに対し、”いいんじゃないか”と頷き返す。
シゲサトは自分が貰っていいのでしょうか? という意図であったが、ジサンはそこまでは汲み取れてはいなかった。もっとも汲み取れていたとしても頷いていたことに変わりはないだろう。
「そ、それじゃあ……」
シゲサトは少しだけ迷いつつも、それほど時間を掛けずに一人の龍人を選択する。
◇
「真龍様……! なんと神々しいお姿なのでしょう……!」
「あぁ……真龍様……死ぬ前にそのお姿を拝見できるなんて……ワシはもう死んでもいい……」
「真龍様……かっこいい……」
「がぅぅう……」
宴の最中、ピュア・ドラゴンはちやほやされていた。
会場の中央に据え置かれ、龍人族が入れ替わり立ち代わりに拝めるように訪れる。
当人、いや当龍は終始、困ったように、そわそわとしていた。
「……」
「あれ……? 行かなくていいのか? あれだけ騒いでいた真龍様だぞ?」
そんな中、離れた場所で一人、佇んでいた龍人の少年グピィにロワが話しかける。
「……別に……」
「どうした? 素直になれないのか?」
「そんなんじゃないやい!」
「……」
どこか不機嫌なグピィをロワは優しさに溢れた瞳で見つめる。そんなこんなで、宴の夜は更けていく。
◇
「あー、本当にあった! あっ! しかもバスまである!」
ミズカがバス停を発見し、少し驚いたように駆け寄る。
昨晩、西の森で謎のスポットを発見したと宴で酔っ払って森でふらついていた龍人からの情報があり、特徴をまとめると、バス停ではないかという話になっていたのである。そして、翌朝、四人はそこへ向かうことになっていたのである。
「では、皆さんはこれに乗って行かれるということじゃな?」
見送りには長老、ロワ、そしてグピィが来てくれていた。
「そうですね。ちゃんと元の場所に戻れるかちょっと心配ですが……」
シゲサトが応える。
「もう少しゆっくりしていってもよかったのじゃが……」
「ごめんなさい、私がそろそろ元の仲間のところへ戻らないとで……」
ミズカは申し訳なさそうに頭を下げる。
「いやいや、いいのじゃ……うむ……しかし、今回の件、重ね重ね、お礼申し上げる。また、いつの日か会える日を楽しみにしておる」
「はい! こちらこそ、有難うございました!」
シゲサトが明るく答える。
そうして、四人はバスに乗る。するとバスのドアが自動で閉まり、ゆっくりとバスが発進する。
「ばーいばーい!」
バスの中から、シゲサトとミズカが手を振る。
それに応えるように龍人達は頭を下げる。一人、棒立ちしていたグピィの頭をロワが下げさせる。
そうして旅の四人はバスに乗車し、去っていった。
「行ってしまったな」
「そうですね……」
「…………」
長老とロワが戻ろうとするが、グピィは一人佇んでいた。
「どうした? グピィ、今更、真龍様に握手をして貰っておけばよかったと思っても遅いぞ?」
「だから、そんなんじゃないよ……」
「……」
意外と冷静なグピィの態度にロワは少々、肩透かしを食らう。
「ん? もしかして、お前がシゲサト様に連れて行って欲しかったのか?」
「えっ!? どうしてそうなるのさー!?」
「どうしてってシゲサト様は我々のために戦ってくれた英雄。しかも、あのヴォルケイノ・ドラゴンを使役していると来た」
「確かにそうだけどさ……」
やはりグピィの反応は芳しくない。
「……皆、何で言わないのか分かんないんだけどさ……」
「……ん?」
「その理屈で言うと……一番やばいの、真龍様を従えてた冴えなそうなおじさんじゃね?」
「「っ!!」」
長老とロワは、なぜグピィがあれほど崇拝していた真龍様にどこか冷めた反応を示していたのかをようやく理解する。
あの伝説の真龍様が冴えなそうなおじさんに従えられていたからだ。
そして、なぜその子供が抱いた素朴な疑問に、今の今まで気づかなかったのかと思う。
「あっ……!」
「っ!?」
グピィは目の前を指差していた。
「今度はなんだ?」
「ほら、あれ……!」
「っ!? なんと……」
彼らの目の前には、ここ半年程、彼らを悩ませたループする森の壁は消失していた。
森は途切れ、眼前には穏やかな平原が広がっていた。
「……戻ってきたのか……?」




