75.おじさんの龍
「あれは……伝説の……真龍……」
「ピュア・ドラゴン……!! お、オーナー……!!」
「シゲサトくん……手間取ってしまってすみません……」
「い、いえ……そんな……」
「私自身は参加できませんが、ナイーヴなら……と思い……」
「はい……!」
ピュア・ドラゴンの一撃により、1/4だったディザスター・ドラゴンのHPはその半分の1/8にまで減少している。
「ナイーヴ……スキル:純撲、頼む……」
「ガウ……!」
ジサンの指示を受け、ナイーヴはいつもよりちょっとだけ自信ありげに、勢いよくディザスター・ドラゴンに向かっていく。
「あっ、待ってください、オーナー! このままじゃ、ディザスター・ドラゴンにとどめを刺せないです」
シゲサトは特殊ルールのことを言っていた。
[龍域を展開する”三つの核”を破壊しなければ、龍にまつわる存在にとどめを刺すことができません。ディザスター・ドラゴンはとどめを刺さない限り、戦闘不能になることはありません。]
サラとジサンは戻ってきた。
しかし、まだミズカは戻ってきていなかった。
「えーと……こうか? メッセージ送信っと……」
その時、それまで沈黙しており、まるで空気のようになっていた大魔王様が突如、独り言を呟く。そう言えば、ジサンが帰ってきたにも関わらず、妙に落ち着いている。まるでそれがすでに分かっていたかのように。
「え? どうしたの? サラちゃん……」
[サラ:やってよし]
「えっ?」
その直後、戦場には地鳴りが発生し始める。
それまで展開されていたフィールド・エフェクトの一部が崩壊を始めたのである。
[三つの核が破壊されました。これより龍にまつわる存在にとどめを刺すことが可能となります。自陣営も例外ではありませんので、ご注意ください。]
◇
少し前のこと。
[ミズカ:皆さんの方、様子はどうですか?]
[サラ:一瞬で葬れる]
[ジサン:すみません、手こずりそうです]
[ミズカ:外れはジサンさんでしたか。くれぐれもお気をつけください。では、連絡係はサラちゃん、粘る係は私ということで]
三つの扉に入室した際に、ミズカらとやり取りしたメッセージである。
連絡を取り合うことは、扉に入る前に打ち合わせしていたのだ。
「えーと、ミテイの提案なのですが、龍域の効果を見るに、可能な限り核は残して、ディザスター・ドラゴンを倒すギリギリに壊した方がいいと言っています」
「……? どういうことでしょう?」
「”龍域を展開する三つの核を破壊しなければ、龍にまつわる存在にとどめを刺すことができません” これはつまりとどめを刺すことができないのは”味方にも適用される”んじゃないか? ってことみたいです」
「……! なるほど……」
実はこの仮説には、現場にいたシゲサトもそうなのではないかと感じていた。
しかし、仮説が誤っている可能性を危惧し、龍人族には伝えていなかった。
「なので、ボス部屋の状況を見て、”連絡係”と”粘る係”を決めましょう。連絡係はなるべく早くボスを倒して、あちらに戻ります。粘る係はボスにいつでも止めを刺せる状態で連絡係からのGOサインを待ちます。どちらにもならなかった人も基本的には早めにボスを倒すことが望ましいです。まぁ、連絡係はシゲサトさんでもいいと言えばいいのですが……」
「この中の誰かがやる方がいいやもしれないな……あいつは余力がないかもしれないからな……」
(……)
それを言ったのがサラであったため、ジサンは少しだけ驚いた。
「了解です! では、後ほど、また連絡します……!」
「うむ…………」
「えーと……」
「……ん?」
ニコニコしながらもその後、一向に動こうとしないミズカに対し、サラは何のつもりだと少し不気味に思う。
「連絡するにはフレンド登録が……」
「ふっ、ふっ、ふっ………………フレンドぉ!?」
不敵に笑ってみせたかと思えば、露骨に動揺するサラであった。
◇
そして、現在。
私は今、おとぎ話の中にいるのだろうか?
龍人族最強の戦士ロワは自身の眼前の光景に対し、そのような錯覚を抱く。
『ガッ……!?』
「ガゥ……」
一瞬にして、ディザスター・ドラゴンの眼前に現れたのは、その災厄と名の付く巨竜より遥かに小さく、幾分、自信なさげなドラゴンであった。
しかし、その姿は幼き頃に読み、憧れた絵本に登場する集落を守る伝説のドラゴンそのもので、ロワは完全に目を奪われていた。
[スキル:純撲]
ロワにはよくは理解できていなかったが、技を使用すると現れる謎の表示。
恐らく旅の者達の言う”ゲーム”による影響か……それが今、再び空中に文字を綴る。
『ガッ……!? ガッガッガッ……ガァアア゛アァアア゛アアア』
その直後から、ディザスター・ドラゴンは断続的な呻き声をあげる。
ディザスター・ドラゴンは、ほとんど状況を認識することができていない様子に見えた。
解を提供するならば、その巨龍が受けていたのは単純な連続的な打撃であった。
『……ハギャ?』
そして、その殴打が一時的に停止する。
終わったのか?
ロワにはディザスター・ドラゴンがそのように安堵したように見えていた。
それはまるで、先刻の自分達のように、絶望の中に、刹那の希望が芽生えた瞬間を垣間見た気がした。
だが、次の瞬間にはその希望は絶望へと変化する。
巨龍の顔面に、渾身の右ストレートが突き刺さる。
『きゃァん……!』
あれだけ苦しめられ、多くの犠牲を生んだ災厄の巨龍がまるで子犬のような悲鳴をあげたかと思えば、崩れるように消滅していく。




