73.おじさん、目を擦る
「え……」
災厄の日。夕刻。
龍人族の集落の近くに位置する荒れた大地にて。
上空を見上げる面々は思わず固唾を呑む。
「嘘だろ……」
赤髪の龍人ロワはそのように零す。
その場にいたのは三守龍と呼ばれる長老、ドラド、ピクク。龍人の精鋭達が五名。
そして、おせっかいな旅の者、四名はそれまで浴びていた夕暮れの真っ赤な日差しを”災厄”により遮られる。
「でか……」
ドラゴン大好き、ドラグーンのシゲサトもその巨体には緊張感の漂う言葉を漏らす。
体長40メートル。
両翼に手足の付いた典型的な姿をしたドラゴンが龍人の集落へと飛来した。
「これが今回の災厄なの……? 今までと比べものにならない……」
唯一の女龍人ピククは絶望するように言う。
その時、全員に想定外の事態が起こる。
突如、空間に光学ディスプレイが出現したのである。
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龍人族の災厄イベント
クリア条件:
ディザスター・ドラゴンの討伐
報酬:
謎の森の通行券
特殊条件:
本イベントはレイドバトル対象となります。
制限時間は2時間となり、それまでにクリア条件を満たさなければ自陣営は全員ゲームオーバーとなります。
フィールド”龍域”により、龍にまつわる存在のみがディザスター・ドラゴンとの戦闘に関与することができます。
また、龍域を展開する”三つの核”を破壊しなければ、龍にまつわる存在にとどめを刺すことができません。ディザスター・ドラゴンはとどめを刺さない限り、戦闘不能になることはありません。
三核の破壊に挑戦するプレイヤーを三人選択してください。
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◇
「これは一体何なんだ……このゲージのようなものは……?」
龍人族の精鋭達は未だ状況を呑み込めていないようであった。
「えーと……これはゲームで……レイドバトルというのは、パーティの限度人数である四人を超えて、戦闘に参加できるシステムのようです。ゲージはHPと呼ばれ、それが皆さんの生命力のようなものを表していて……」
シゲサトが一生懸命に自分の知っている情報を龍人族らに伝えようとする。
「はっ……? ゲームだと……? ふざけているのか! こちらは集落の命運がかかっているのだぞ!」
「っ……!」
龍人族の一人がシゲサトに対し、声を荒げる。
シゲサトは真面目に応えているものの彼の言い分ももっともであることから、言葉を失う。
「恩人に対して失礼であるぞ!」
「っ……!」
が、しかし、別の龍人が叱りつけるように言う。ピククであった。
「し、しかし……ピクク様……」
「我らの役割はここでこの事態の全容を解明することであるか?」
「っ……!?」
「違うだろう? 我々の役割は奴を撃退し、この集落を守ること。ならば、それに注力すべし……!」
「……はいっ!」
龍人達の目に力が入る。
そして、まるで彼らの意思が固まるのを待っていたかのように上空に漂っていた巨龍ディザスター・ドラゴンはゆっくりと地上付近まで高度を落とす。
◇
「さて、どうしましょう……? 皆さん、どの扉にします?」
3つの扉が存在する謎の白い空間にて、ミズカが切り出す。
「そ、そうですね……私はどれでも……」
ジサンはそのように応える。
「我はマスターと離れたくありません」
(……いや、それは無理だろ)
[龍域を展開する”三つの核”を破壊しなければ、龍にまつわる存在にとどめを刺すことができません。ディザスター・ドラゴンはとどめを刺さない限り、戦闘不能になることはありません。三核の破壊に挑戦するプレイヤーを三人選択してください。]
イベントの特殊ルール、三つの核の破壊のため、選択した三人のプレイヤーはジサン、サラ、ミズカであった。
選ばれた理由として、彼らは龍でも龍人でもなかったこと。
龍人族がすぐには状況を呑み込めず、困惑していたことからゲームであると理解しているシゲサトを含む四名の中から選んだ方が早いとの結論に至ったからだ。
選択したことで飛ばされた謎空間には三つの扉が存在し、先程とは異なるディスプレイに簡単な案内が表示されていた。
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三つの扉
目の前の三つの扉はいずれもボスモンスターの部屋に繋がっています。
平均して魔公爵ランク程度のモンスターが待ち構えており、ボスモンスターを倒せば、”核”を破壊することができます。
それぞれの部屋に入室するプレイヤーを一人ずつ選択してください。
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その説明の通り、確かに三つの扉が存在するわけだが、三つの扉にはそれぞれ異なる特徴があった。それは大きさである。扉には分かりやすく大中小のサイズがあったのである。
「ボスのランクは魔公爵か……絶望的というわけではないですが、油断はできないですね。同じ魔公爵でも相当強さにブレもありますしね……」
ミズカが真剣な顔つきで言う。
魔公爵ランクとは魔王ランクの一つ下のランクである。
魔公爵ランクは強さの幅が広いことによりプレイヤー泣かせで有名でもあった。
「それに、私達が一人でも負けちゃうとディザスター・ドラゴンを倒せない。ちょっと責任重大ですね……」
「そうですね」
ミズカの言葉にジサンも同意し、と同時に、少々、プレッシャーを感じる。
「えーと、じゃあ、私……大にしましょうか……?」
ミズカがそのように言う。
普通に考えると、一番強いボスが待ち構えていそうな”大”の部屋。
ミズカはそれを引き受けると自ら提案する。
「いや、我が大にする……!」
「えっ?」
が、それにサラが割り込み、ミズカはちょっと驚く。
「まぁ、サラちゃんが強いのは何となくわかるけど……」
ミズカは強そうではあるが、実力が未知であるサラを最大リスクに宛がってよいものかと困っている様子であった。
「で、では、私が……」
女性二人が危険を顧みずに立候補する中、黙っているわけにもいかず、ジサンがそのように言う。
「「どうぞどうぞ……」」
(っ……!)
ジサンが名乗り出ると予想外に二人ともあっさりと譲る。
ミズカはジサンの強さをツキハからも聞いており、その情報を強く信用している。サラは基本的にジサンに従うからだ。
「まぁ、そもそも大きい扉に強い敵がいるとも限りませんからね」
「そ、そうですね……」
そうして、結局、大はジサン、中はサラ、小はミズカとなったのであった。
◇
(さて……大の部屋か……)
ジサンは大の扉の中に侵入する。
扉の中は更に通路になっており、その先に広い空間があった。
(このゲームは妙にひねくれてるから、小の部屋が一番強いボスがいるとかもありそうだな……)
ジサンはそんなことを考えながら通路を進む。
通路の先、広い空間の前にはプレートのようなもので、中に構えるボスの情報が提示されていた。
(えーと……)
[魔王:ネネ]
(…………えっ?)
ジサンは目の疲れによる見間違いかと思い、目を擦る。そして改めてプレートを確認する。
[魔王:ネネ]




