72.おじさんの夜
「なぜ主らも同じ部屋なのだ! 我とマスターの二人きりの時間を邪魔しおって……!」
「え? もしかしてサラちゃんとオーナーっていつも同室なの?」
「は? 当たり前だろうに」
「え? ううんー……うん」
シゲサトはさも当然のように、サラが回答したため自分が少し変なことを考えていたのだろうかと思い始める。
「まぁさ、別にいいじゃん! 修学旅行みたいで楽しいじゃん?」
「修学旅行……? くだらん……」
「え? サラちゃんって冷めてるタイプ?」
「え……? うーん……」
サラは一瞬だけ微妙な表情を見せる。
冷めていたつもりはないが、そのイベントには、あまりいい思い出はないなぁと思うジサンであった。
「ってか、サラちゃんって何歳くらいなの? 流石に俺よりは年下だとは思うけど……」
「あ゛っ? もうすぐ二歳だが?」
「いやいや、そういうのはいいから!」
「そういうのってなんだ!?」
(……本当なんだよなぁ……)
二人が賑やかに話しているのを少々騒がしいなと感じつつも微笑ましく思う程度には心の余裕が出てきたジサンであったが、それを放置し腰かける。
「あの……ジサンさん、ちょっとお話いいですか?」
(……!)
腰かけたジサンに話しかけてきたのはミズカであった。
「あ、えーと……はい……」
「有難うございます! 実はお話したいことがあって、お時間いただきたかったんです」
「はい……」
(……何だろう……)
「では、すみませんが、一度、ミテイの方に変わります」
「りょ、了解です」
(……ミテイさんか……ちょっと緊張する)
ミズカの”チェンジ”の掛け声と共に、暗黒エフェクトが発生し、ミズカが消えて、ミテイが現れる。
「すみません、お時間頂きまして……一点だけ、どうしてもお伝えしたいことがありまして……」
「はい……」
「ウエノでの出来事の件、月丸隊のチユから伺いました」
「……!」
「ツキハの件……本当に有難うございました」
「え……? あ、はい……」
ツキハがウエノにて、リリース・リバティに襲撃された時に、助けた件であった。
「あ、すみません、何で俺がツキハのことをってところがピンと来ないかもしれませんが、実を言うと、俺は元々、月丸隊のメンバーだったんです。色々な事情があり……っていうかこの共存バグが分かりやすい原因ではありますが、今は水猫の方にいます」
「そうだったんですね。えーと……ご丁寧にどうもです」
「いえ、もっと早くにこうして直接、お伝えすべきでした」
「いえいえ……そう言えば、ユウタさんにも同じようにお礼を言われました……」
ジサンはふと、月丸隊とウォーター・キャットの両方に名を連ねているユウタについて、話題に上げる。
そして、改めてツキハは本当にパーティメンバーから大切にされているのだなと思うのであった。
「お、ユウタもそんなことを……」
「えぇ……ユウタさんも凄い方ですよね……」
「まぁ、そうですね……ユウタか……最近はあまり会ってないな、元気にしてんのかねぇ」
「えっ?」
「え……?」
ジサンは驚き、驚いたジサンに対し、ミテイも少し戸惑う。
「い、いや、最近は会っていないというのが少し不思議だなと……ウォーター・キャットにもいらっしゃいますし……」
「えっ? あー、そっちのユウタですか……って、あいつがツキハについてお礼……そんなことするだろうか……?」
(え……? そっちのユウタ……? ………………!)
そこでジサンの脳に無駄に電撃が走る。
(ひょ、ひょっとして…………月丸隊のユウタさんとウォーター・キャットのユウタさんは別人!?)
こうしてジサンはようやく掲示板の書込みを嘘と見抜くことに成功したのであった。
◇
「マスタぁ……そのお肉はサラのお肉ですぅ! ……むにゃむにゃ」
(……)
一度はベッドに潜ったがすぐに眠ることができず、体を起こしていたジサンは、また変な夢見てるなぁと気持ちよさそうに眠る大魔王さまを見つめていた。
「ふふ……こうしてると可愛いですね」
(お……?)
サラを挟んで反対側で眠っていると思っていたシゲサトも体を起こす。
「起こしちゃいましたか?」
ジサンは尋ねる。
「いえいえ、何だかアドレナリンが出ちゃってるのか、あんまり眠くないんですよ」
「そうですか」
ジサンも同意する。
一瞬の沈黙の後、シゲサトが切り出す。
「…………そういえば、ちょっと聞きたいことがあるのですが、いいですか?」
「はい……」
「オーナーってクラスは何なんですか?」
「あ、言ってませんでしたっけ? えーと……」
「あ! 当ててもいいですか?」
シゲサトは眉をキッと逆八の字にしながら言う。
「え? ……まぁ、どうぞ」
「ずばり……アングラ・ナイト! ですか?」
「……!」
言い当てられたジサンは、さてどうしたものか……と考える。
ユニーク・クラスのアングラ・ナイト。
そうだと言えば、匿名で魔王を討伐した意味は薄れてしまう。
だが……
「正解です」
「わー、やっぱりそうだったんですね!」
シゲサトは目を丸くする。
ついでに口も物理的に丸くする。
「つまり月丸隊さんと共に魔王カンテン、魔王エスタを討伐したってことですよね?」
「……あまり他の人には言わないでくださいね」
「勿論です! そこは信じて欲しいです」
シゲサトは慌てたように言う。
「信じますよ」
「……! へへ……有り難うございます」
ジサンはシゲサトを信用していた。
シゲサトから滲み出る素直で実直な性格はジサンにも十分伝わっていた。
ジサンの”信じます”という短い言葉に、シゲサトは一瞬、豆鉄砲をくらったような表情を見せるが、すぐに照れくさそうなニヤケ顔を見せる。
「でも、おかげでいろいろと合点がいきました。月丸隊さんと交流があったり、牧場100Fのオーナーであったり……」
「……! い、いえいえ、私なんてそんなに誉められる程ではありませんよ。魔王討伐も月丸隊さんを手伝っただけですし」
魔王:エデンの”ソロ討伐”という唯一無二の実績を持つシゲサトに誉められてジサンは嬉しくないかと言われれば嘘になるが、ニホン人らしく謙遜する。
「そんなに謙遜しないでください、謙遜のし過ぎは逆に嫌味ですよ!」
「はは……そうかもですね」
「ところでアングラ・ナイトって全然、聞いたことないですが、どういうルートでなれて、どういう性能なのでしょう……? あっ、その差し支えなければでいいのですが……!」
「えっ……? あー、そうですね。自分自身あんまりよくわかってはいないのですよ……」
「え、そうなんですか?」
「はい……特別なことは何もしておらず、敢えて言うなら、ダンジョンに潜り続けていたってことくらいですかね……」
「そうなんですね……」
ジサンはゲーム開始初日から2年近くダンジョンを出ることはなかった。
彼にとっては特別なことでなくても他人からすればそれは狂気の沙汰であった。
「性能としては、地面系のスキルとダンジョンで便利な特性を少々……あとは心なしかハイリスク、ハイリターンのスキルが多い印象ですね……」
ジサンは自身のステータスを確認する。
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■ジサン
レベル:150
クラス:アングラ・ナイト
クラスレベル: 49
HP:3580 MP:605
AT:1695 AG:2336
魔法:フルダウン、スロウ
スキル:魔刃斬、地空裂、陰剣、地滅、自己全治癒
特性:地下帰還、巣穴籠り、魔物使役、魔物交配、状態異常耐性
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(思えばこのクラスとの付き合いも長くなってきたな……)
改めてアングラ・ナイトがクラスレベルアップで習得する魔法、スキル詳細を確認する。
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魔法:
スロウ・・・ターゲット一体にスロウの弱体化効果、自身のHPを1/4消費。(クラスレベル10で習得)
スキル:
魔刃斬・・・強力な斬撃。ただし、使用時はあらゆる追加効果が無くなる。(アングラナイト クラスチェンジボーナスで習得)
地空裂・・・地面を叩きつけ、地空を震撼させる範囲攻撃。前後モーションが長いため注意。効果時間をコントロールできるが持続させるほど自身にもダメージ。(クラスレベル20で習得)
陰剣・・・高速斬り。使用中は防御力が激減する。(クラスレベル30で習得)
地滅・・・自身の生命を懸けた強烈な一撃。HPがゼロになる。使用時は短時間の使用キャンセル時間が設けられる。(クラスレベル40で習得)
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“いのちだいじにせず”で潜り続けたカスカベ外郭地下ダンジョンの日々を反映するかのように全スキルにリスクが伴う無鉄砲な構成となっていた。
一方で、アングラ・ナイトは引継ぎ可能スキルが豊富であり、前のクラスで習得していた自己全治癒、状態異常耐性などを引き継ぐことができたのは幸いであった。
(……それにしても、”地滅”とかいうリアル・メガ○テは流石に頭おかしいだろ)
などと思いつつ……
「えーと、例えば……こんなのがあります……魔刃斬は強めの攻撃ですが、使用時はあらゆる追加効果が無くなります。陰剣は高速で攻撃ができますが、使用中は防御力が激減します」
「うわっ、確かに何だか諸刃の剣的なスキルが多いですね……」
「えぇ……」
「すごいなぁと思う反面……ちょっと心配です……」
シゲサトは言葉の通り、心配そうに眉を八の字にしてジサンの顔を見つめる。
(……! ……心配……か……)
そんな風にストレートに言ってくれる人が複数人現れてきたことがジサンにとっては何だか不思議であった。
その後、ジサンはうまく反応できず、少しだけ沈黙が流れる。
「あ、あの……ちょっと話変わりますが……」
(……?)
ふいにシゲサトはそれまでより少しトーンを落とす。
「オーナー……今日のピククとの戦いの時……誘ってくれて有難うございました……」
「え……?」
「オーナーがどういう想いで言ってくれたのかはわかりませんが、俺、嬉しかったです」
そう言って、シゲサトは流し目気味に微笑む。
(……)
衝動的な部分もあったため、ジサンは少しばかり返答に困る。
「あ! それで是非、聞いておきたいことがあるのですが……」
「はい……?」
「オーナーは男性と女性、どちらが好きですか?」
(!?)




