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ダンジョンおじさん  作者: 広路なゆる


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71.おじさん、寝室へ

「しかし、まさか我らの誇る二守龍、ドラドとピククをいとも容易く……」


 龍人族の長老が驚きと共に口を開く。


 二匹のボスのテイムに成功した一行は集落へと戻っていた。

 龍人族は明日に迫る災厄への備えに奔走していた。

 そんな中でも恩人への忠義として、簡単な会食を開いてくれていた。


「ほとんどミズカさんとミテイさんのおかげですけどね!」


「いえいえ、今回はたまたま活躍しやすい場が整っていただけです」


 ミズカはそのように謙遜する。

 ミテイは普段はミズカの中にいるらしく、その表情を見て取ることはできない。


「いやはやお恥ずかしい……」

「本当にお強く……驚きました……」


 そして、当事者である二名の龍人はそのように言う。


 会食の席には、賢龍ドラドと勇龍ピククも同席していたのである。

 その姿は龍ではなく、龍人の姿であった。



 ◇



 少しだけ時を遡る。ピククとの戦闘が終わり、集落へと向かう道すがら――


「とりあえず勢いでテイムしちゃったけど、いいんだっけ……」


 シゲサトは戦闘後、そのように言うのであった。


「……」


 ロワは困ったように沈黙した後、口を開く。


「あのような姿になられていたとはいえ、ドラド様、ピクク様の二名は三守龍という龍人族の最大戦力です。明日に起こると予言されている災厄において龍人族を守るために必要なのです」


「……ですよね! なら!」


「……?」



 ◇



 そうして、シゲサトはドラドとピククに対し、あっさりと”逃がす”を選択してしまったのである。それはちょうどジサンがサラを逃がした時のように。


 ドラドとピククは人の姿となっても何となく龍の姿であった名残があった。

 ドラドは端正な顔立ちをしており、ピククは妖艶で美しい雰囲気であった。


「龍人の誇りは失われました……」


 しかし、和やかなムードの会食の中にあって、一人、落胆している者がいた。


「ろ、ロワ……あれは何かに操られていてな……決して……その……あの……前から見えるお尻のことなんて……本当にごく稀にしか考えていないんだ……」


「そうよ……私も貴方の上腕二頭筋のことなんて、ちょっとしか食べたくないわ……」


「何を言っても、もう遅いですよ……」


「「ぐぬ……」」


 逃がされたことで、恐らく元に戻ったのであろう二名は取り繕おうとする。

 しかし、もはやロワは取り付く島もない。

 この出来事は失われた信頼を取り戻すことの難しさをジサンに教えてくれた。


「では、皆様は最後まで食事をお楽しみください。大変失礼ながら我々はこれにて中座させていただきます……」


 長老は申し訳なさそうに、そのように申し出る。


「そうですよね、災厄の襲来は明日ですもんね……わざわざ有難うございました」


 シゲサトがそのように謝意を示す。


「ところで災厄って何が起こるのでしょうか……」


(お……)


 ジサンも気になっていたことをミズカが聞いてくれる。


「おっ、ご存知ありませんでしたか。それは失礼しました。災厄とは即ち、強力なモンスターの襲来を指します」


「あ、そうなんですね」


(思ったより具体的だな……)


「過去にも何度か発生しており、その時はかの極悪なミスリル・デーモンなどが襲来し、残念ながら小さくはない被害を出しています……」


(ミスリル・デーモン……? カスカベ外郭地下ダンジョンでテイムして、ナイーヴと限突配合してしまったな……ランクはQ……確かに強力なモンスターだ)


「例のループにより、今は、この付近からは逃れられないかと思いますが、明日はなるべく集落からお離れになっていてください」


「……」


 旅の者を気遣うようなロワの言葉に皆は”はい”とも”いいえ”とも言わない。


「……!!」


 と、急に会食の部屋の扉が勢いよく開く。


「何事じゃっ!?」


 龍人達は怒りの表情で扉の方を見る。


「ひっ!?」


「…………なんだ……グピィか……」


 そこにいたのは昼間、ジサンらも少し会話した龍人族の子供であった。


「何をしに来た? ここは遊びの場ではない。そもそも主らはそろそろ避難する時間ではないか?」


「えー!? 確かにそうだけど、皆、つんけんしてて、つまんないしー! ロワ、遊んでよー!」


「お前なぁ……」


 ロワは呆れるような表情で額に手を当てる。


「まぁまぁ、子供にはまだ分からないですよね……」


 シゲサトがグピィを庇うようにそう言う。


「あー、そうやって子ども扱いするー!」


 逆にグピィはへそを曲げてしまう。


「グピィ、お前は災厄が怖くないのだろ?」


 ロワが尋ねる。


「怖くなんかないやい!」


「ほらな、子供だ」


「えっ!? 何で!?」


「子供は怖いものを正しく認識できない」


「違うやい!」


「ほほう、なら、どう違うのか、言ってごらん?」


「ロワが守ってくれるから! 最強のロワが! だから怖くない!」


「っ……!」


 ロワは豆鉄砲をくらったような顔をする。


「こ、こら……! 三守龍の前だぞ……!」


「でも、しょうがないじゃん、本当の話だし!」


「~~……」


 ロワは困ったように、眉を八の字にする。


「それに、もしもの時は伝説のドラゴンが助けてくれるでしょ!」


「あのなぁ、それは絵本の話だろ……? やっぱり子供だ……」


「ロワだって、あの話、好きだって言ってたじゃないかー!!」


「それはそうだが……それは子供の時の話で……」


「ロワ……」


「はい……」


 長老がロワに目配せし、ロワはそれを見て、グピィを脇腹を抱えるようにして退席していく。


「あぁあああ! 俺にもうまいもん食わせろおおぉぉ……」


 グピィの声は次第に聞こえなくなる。


(……)


「さて……お騒がせしましたが、最後に、寝室を手配させていただきます」


「あ、なんかすみません……」


「いえいえ……えーっと、一人、一部屋でよいじゃろうか?」


「私とマスターは同室で大丈夫です!」


 サラがジサンの腕にくっつくようにしながら、すかさず応える。


「え!?」


 シゲサトが驚くようにジサンとサラを見る。


(……)


 その目はやや疑いの成分を含んだ眼差しであり、シゲサトの目が糸のようにいくらか細くなっている。

 ジサンはそれに気づき、若干の罪悪感のようなものを覚える。


「あ、あの一人べ……」


「俺も同室でお願いします!」


(え……?)


「え? 皆一緒!? それじゃあ私もー」


(えぇ!?)


 ジサンが全員一人部屋にしようと提案しかけたがその反対の事象で上書かれる。




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