【番外編】ささやかなお礼
お久しぶりです。
ダンジョンおじさんは書籍第1巻が2020年11月に発売し、その後、第3巻が2022年5月に発売しました。
しかし、その後は新刊を出せない状況が続いておりました。
それから早いもので3年もの月日が経ってしまいましたが、この度、ついに2025年7月15日に小説第4巻と7月25日にコミックス第1巻が発売されることとなりました。
最後に発売した第3巻から3年もの月日が経過しております。
なぜ3年も掛かってしまったかというと、私の執筆速度が遅かったから……ではなく、コミカライズ1巻と同時であれば、出してもいいという条件付きの続巻だったからです。
実のところ3巻を出した時点で、すでにコミカライズの漫画家さんも決まっており、こんなに期間が空くはずではなかったのです。
しかし、コミカライズあるあるなのですが、漫画家さん降板により、頓挫となってしまいました。
普通だったら、コミカライズの企画自体が消滅してもおかしくないのですが、出版社の一二三書房さんはコミカライズの約束は守ってくれました。3年という時間は掛かってしまいましたが、秋田書店さんの元、今の漫画家さんと共にコミカライズ1巻の発売にまで、こぎつけることができました。これには本当に感謝しています。
今の漫画家さんの蕨野先生は本当にすごくて、私が適当に考えた(おいっ!)モンスターのデザインも全部丁寧に考えてくれて、ダンジョンおじさんの世界をより鮮明にしてくれています。正直、辛い時期もありましたが、蕨野先生に担当してもらえて本当によかったと思っています。
また、ダンジョンおじさんの【書籍準拠版】をカクヨムで連載しています。
※出版社の承諾は得ています
※WEB版との差異についてはエピソードタイトルに◆をつけて分かりやすくします。
(現在、分岐が大きくなるところに到達しています)
【書籍準拠版】のダンジョンおじさんはこちらのページです。
https://kakuyomu.jp/works/16818622176220675560
※下の方に直リンクも貼っておきます。
クソ長前書きは以上です。お読みいただきありがとうございました。
2042年7月――
おじさんと山羊娘の不思議なペアがニホン列島北上の旅を始めて、それなりの時が流れていた。
2042年7月とは月丸隊により、第二魔王:ラファンダルが討伐された月である。
それは同じく月丸隊により第四魔王:アンディマが討伐されてから一年以上も起きていなかった久方ぶりの魔王討伐がなされた月であった。
が、それとは全く関係のない話である。
真夏のホッカイドウにて――
◇
その日、マスターはいつになく口数が少なかった。
普段から口数が多いわけではないが、その日は本当に必要なことしか喋らないといった具合であった。
そんな日であっても行動自体はいつもと変わらない。今日は新しいダンジョンへ向かうのだろう。
昨日まで攻略していたダンジョンは概ね歩き回った。ただ、普段であれば歩き"尽くす"ところまでするのだが、今回はいつもよりは幾分、引き際が早かったような気もする。
よろしいのでしょうか? と尋ねても、いいんだというばかり……
流石にダンジョン巡りにも少し飽きてきてしまったのだろうか……
それとも私に……
そんな嫌な想像をしてしまいながらも、前をスタスタと歩くマスターの背中を追う。
ホッカイドウはニホンの他の地域に比べて涼しいらしいが、それでも夏と呼ばれる季節は多少の不快感が生じる暑さを感じる。
エアキャリブレーションを使えば常に快適な気温湿度にすることもできるが、それでは、時折、吹く風の涼しさを感じることができないから、なんとなく好きではない。
「……着いたぞ」
「あっ、はいっ」
などと考えているうちに目的地に着いたようだ。
しかし、不思議に思う。
「…………って、あれ? ダンジョンはこの辺にはないようですが……」
「……今日はダンジョンじゃない。あれを見せに来た」
「えっ……? っ!? はわぁあああ……!」
マスターの背中ばかりを見ていて気付かなかった。
いつのまにか目の前には、辺り一面を覆い尽くす美しい紫が広がっていた。
「こ、これは……?」
「ラベンダー畑」
「…………」
ラベンダーという植物が辺り一帯に咲いている。ただそれだけのようであった。
ただそれだけなのに、AIが生み出したような規格外の絶景というわけでもないのに、それでも心奪われるような清々しい美しさが確かにそこにあった。
「しかし、マスター……モンスターはどこでしょう?」
「だから、今日はダンジョンじゃないって……」
「へ……? どういうことでしょう? わざわざこれを私に見せるために、ここに……というわけではないですよね?」
「…………わけなんだが……」
「っ!?」
嬉しい……! というより驚いた……というより、どうして……? という気持ちが先に来た。
……どうして?
「サラ……」
「は、はい!?」
「一年間、有り難うな……」
「!?」
「……有り難う」
一年間、有り難う…………?
…………
記念日……?
「…………そういう時は、おめでとうと言うのが一般的みたいですよ」
今、問い合わせた知識をさも知っていたかのように言ってみる。
そして、私はそれよりもっと前から、それこそ低ランクであった時から、きっとずっと貴方のことを慕っていたのですよ……という更なる揚げ足取りは止めておく。
「…………た、確かにそうだな」
そう言って、私の大好きなマスターは少しボサボサした頭を掻くのだった。