63.おじさんの水族館
「オーナー、それじゃあ、明日また、ロビーで落ち合いましょう!」
「はい、了解です」
そう言って、シゲサトと一度、別れる。
ジサンとシゲサトはサロマ湖からワープ権限により、牧場に戻って来ていた。
ジサン、シゲサトは現在、仙女の釣竿を獲得すべく魔帝:ジイニの討伐を目指している。
そして魔帝ジイニの出現条件がニホン三湖で特定のモンスターをテイムすること。
ジサン、シゲサトは最初にカスミガウラにてレンコーンをテイムし、次にサロマコでミミック・ホタテをテイムした。
そこから最後のターゲット、ビワコに向かうために一度、チバの牧場にワープしていたのだ。
◇
一通りの牧場でのルーチン作業を終えたジサンは最後に海洋エリアの水族館へと向かう。
水族館には大型の水槽が並んでいる。しかし、中に生物の影はなく、どこか物寂しい雰囲気となっていた。
(さて……)
ジサンは空の中型水槽の前に立ち、メニューを弄る。
「あっ!」
サラが変化に気付き、小さな声をあげる。
「これは湖上でテイムした……」
「あぁ……」
ジサンはサロマコでテイムしたミミック・ホタテとトツゲキ・ワカサギを水槽に入れてみたのであった。
「ふふ……こうして見ると何だか可愛いですね!」
水槽の中をまじまじと見つめるサラがそんなことを言う。
「おーい、さかなー! 元気かー?」
(……)
その姿をしばらく黙って見ていたジサンは突如、メニューを連打し始める。
「ま、マスター?」
「すまん……少し時間をくれ」
「は、はい……!」
◇
五分後――
「わー! 結構、増えましたね!」
「あぁ……」
ジサンも水槽の中を泳ぐ水生生物達の姿を見る。
とりあえずボックスにいた小型の水生モンスターを一部、水槽に移したのである。
「サラ」
「はいっ!?」
「水族館は楽しかったか?」
「えっ?」
ジサンの唐突な質問にサラは一瞬、理解が追いつかず、聞き返す。
「前にこの近くのカモガワ・オーシャンワールドという水族館に行ったのを覚えているか?」
「覚えてますよ! マスターとのデートを忘れるはずがありません!」
(デートって……)
「あっ、質問の回答としては……はい! 楽しかったです!」
「……」
「マスターと行く場所はどこだって楽しくはあるのですが、その中でもあの場所はとても美しくて、知らないことばかりで新鮮で強く印象に残っています」
「……そうか……有難う……」
「でも、どうしてそんなこと……」
「あれ? オーナー、生体を入れたってことは……もしかしてその気になりました?」
「!?」
何かの臭いを嗅ぎつけたのか、突如、牧場の管理人、ダガネルが現れる。
そして、珍しくジサンは彼の登場をちょうど良いと思うのであった。
「ダガネル……水族館を公開したい」
「なんと……! 承知しました……!」
「場所はどこがあったか?」
「この辺ですと、カサイ、イケブクロ、シナガワ、カワサキ……」
「であれば、カワサキにしたい」
「お!? ご自身からご指名とは……ちょっと意外でした。カワサキにする理由は……言うまでもないかもですが、DMZだからですかね?」
「あぁ……その通りだ」
非武装地帯……通称、DMZはモンスターがポップすることがない、現在、数少ない安全が約束された地であった。
◇
当然、維持費の件もある。水族館は設置するだけで、月々500万カネを要するのだ。
一般公開すれば、そのコストを回収することができるかもしれない。
だが、理由はそれだけじゃなかった。
シゲサトや月丸隊、そしてジサンが苦手と感じている自治部隊も含め、皆、”目的”を持って戦っていた。
ツキハは自身が戦う理由を”子供のため”と言った。
ジサンはゲームが始まる以前、そのような”他人のため”に何か貢献してきたことはなかった。
むしろ、社会保障制度により、生かされていたのだ。
彼が安楽死を選ぼうとしたのは、その虚無感、罪悪感も要因にあったかもしれない。
子供のため……というツキハに影響を受けているのが、彼らしいと言えば、彼らしいが、あてどないテイムも何かの役に立つのではないかと、自身の目的のなかった行動に対し、少し前向きになったジサンであった。
◇
(さて……どうするか……)
水族館を公開することになり、ジサンは本格的なカスタマイズを検討することとなった。
まずは水槽の配置であるが、ジサンはひとまず入口付近に小型の水槽、中に入ると大型の水槽という初期設定を維持することにする。
現実では難しいが、ゲームらしく配置の変更は後から比較的、容易に行うことができそうであった。
ジサンはすでに試しに生体を入れてみたが、一つのことに気付いた。
それは小型の水槽に小型のモンスターを入れることしかできなかったのである。大型の水槽はまだ使えず、中型以上のモンスターも選択することができなかった。
(スタッフレベルが低いからか……)
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【アクアリウム】
アクアリウムレベル:0
場所:カワサキ
オーナー:ジサン
館長:指定なし
スタッフレベル:0
入館料:100カネ(プレオープン)
評判:☆☆☆☆☆(評価なし)
施設:小型水槽群、淡水コーナー、陸あり水槽、大型水槽
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ジサンはアクアリウムの状態を確認するとスタッフレベルというものが存在したのである。
ジサンはまず何をカスタイズできるのか改めて確認することにする。
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水槽の配置
水槽のヒーターや濾過装置
水槽のレイアウト(岩や水草など)
生体(生体はモンスターだけでなくアイテムとして入手できる生物も指定可能。アイテム生物は一部、購入も可能)
スタッフ(個性豊かなAIスタッフに加えて任意のキャラクターも指定可能)
トイレやベンチなどの施設
お土産コーナー
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(見栄えを考えるとモンスターだけでなく、アイテム生物もそれなりに重要そうだな……)
そもそもモンスターは全体的にサイズが大きいため、小型水槽では、購入可能なアイテム生物も大きな役割を担っていた。
(ひとまずAIスタッフを雇ってみるか……)
ということで、ジサンは何人かいるAIスタッフの候補の中から二人雇う。二人雇ったのは二人しか雇うことができなかったからだ。AIスタッフには体力、知識、緻密さ、天賦(生体からのなつかれやすさ)などのステータスが存在し、個性があるようであった。
「「お雇いいただきアリガトウゴザイマス」」
ジサンが直感で雇ったボブとジョージが出現し、簡単な挨拶をする。
「よろしく頼む」
「「承知シマシタ!」」
そう言うとボブとジョージは水族館の中へ消えていく。
(スタッフレベルと……アクアリウムレベルも1上がったな……)
スタッフを雇うとスタッフレベル、そしてアクアリウムレベルが上昇した。その流れで生体を投入できるかについても確認する。
(お、投入できる生体の種類が少し増えているな……)
ジサンはせっかくなので、追加で生体を投入する。
購入可能であったアイテム生物も投入してみた。
(しかし、やはり大型水槽、大型モンスターは指定できないか……)
アクアリウムレベル1、スタッフレベル1ではまだかなりの制限があるようであった。
現状、入口付近の小型水槽群と淡水コーナーに生体がまばらにいる程度で、内部の水槽は空っぽの状態であった。
(条件は不明だが、アクアリウムレベルとスタッフレベルを上げていくのが当面の目標だな……スタッフはAIスタッフ以外にも任意スタッフも指定できるようだな……人型のモンスターも指定できるようだが、うーむ、一旦は指定なしでいいか……)
その後、水槽のレイアウトとして、岩や水草をフィーリングで設定した。
(港風セット……海底風セット……渓流セットと……お……! それっぽいぞ……!)
有難いことにセットメニューがあり、初心者でもある程度、それっぽくすることができるようになっていた。
それっぽくセットされた水槽の中で小型の生体が気持ちよさそうに泳いでおり、それだけでジサンは少し嬉しかった。
こうして、ジサンの初めての水族館管理が終わった。




