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ダンジョンおじさん  作者: 広路なゆる


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62.おじさん、宿泊する

「サラ、飯行くか」


「はい!」


 小腹が空いてきたジサンがサラを誘う。


 少し褐色を帯びた肌に浴衣姿が意外と似合うサラはジサンにちょこちょこと付いていく。


 サロマコにて、ルィを発見し終えたジサンとサラは近くのホテルで一泊することにする。


 ルィのトレジャーボックスを確認に行くため、シゲサトとは一度、別れていた。ジサンはあの寒い湖上に再びシゲサトを連れて行くのは気が引けたのだ。



 ◇



「え? 好きなだけ食べていいんですか?」


「そ、そうだ」


「ゎ~~~!」


 目を輝かせ、ちょっとした歓声を上げるサラにジサンは幾分たじたじになる。


「バイキング形式は初めてじゃないよな……」


「マスター……! ビュッフェです!」


「え?」


「ビュッフェの方が響きがおしゃれなんですよ……!」


「そ、そうなの……?」


 サラの知識を補完しているらしいデータアーカイブとやらにはそんな細かな情報も蓄積されているのだろうか……とジサンは思う。


 だが、毎回、健気に嬉しそうな反応をしてくれるサラを見るのは嫌な気分ではなかった。


「いただきま~す」


(おぅ……結構食うな……)


 サラが自身のためによそった量はそれなりであった。


「おいしいなぁ~~」


 サラは少し行儀が悪いが、ほっぺたを膨らませながらお肉やお魚の蛋白質を好んで食べている。


(……また少し大きくなったかな)


 ジサンは美味しそうに食べるサラを見つめながらそんなことを思う。


(…………これ以上、大人っぽくなられるとちょっと困るな……)


 と娘と一緒にお風呂に入るのを止めるタイミングを検討する父親のようなことを考えていた。


「はわぁあ! このミノタウロスのフィレ肉、最高に美味しいです!」


(……ミノタウロス? 牛肉みたいなものか?)


 加齢のためか若い頃に比べ、脂ものを好まなくなったジサンであったが、サラの美味しそうにお肉を頬張る姿に自分も少し食べてみようかなという気分になる。



 ◇



「うぅ~~、結構食った……」


「ま、マスター、大丈夫ですか?」


「あぁ……大丈夫だ」


(まさかミノタウロスのフィレ肉があそこまで美味いとは……)


 想定外の美食への出会いに、ジサンは少しだけやんちゃをしてしまったのであった。


「よかった! それじゃあ、お食事の後は温泉ですね!」


「あぁ……」



 ◇



「マスター……、そんなに遠慮なさらずとも……心配せずとも貸切ですので、誰にも見られたりはしませんよ?」


「……そ、そうか……い、いや気にするな。俺は元々、端っことか隅っこが好きなんだ」


 ジサンは貸切の大浴場の端っこで遠慮深げに湯に浸かっている。


 ジサンとサラは二人っきりで大浴場を貸し切っていた。


 当然、サラは裸でいいなどと言うが、ジサンはそれを固辞。ならば一人で入って来てくれなどと言われれば、サラも妥協する。それはつまり自分(サラ)のことを少しは女性として見てくれているという証明でもあるわけで……


 二人は水着着用にて合意する。


「失礼します」


「っ!?」


 チャプンという音がして、サラが同じ湯に入ってくる。


「お背中、お借りしてもいいですか?」


「え?」


 サラはマスターたるジサンの返事も待たずして、ジサンの背中に自身の背中を預ける。


(……)


 不思議と熱い湯船の中でもサラの肌の温かみは感じることができた。


 内心、ジサンは緊張する。


(……以前は子供としか思わなかったのだが……)


 こいつのために死なないようにすると考えるようになった頃から、何かが少し変わってきたとジサンも感じていた。


「マスター……」


「……どうした?」


「こんな私を、こんなところまで連れて来てくださり、有難うございます」


「え……? どうした急に……」


「だって、私……R2技術で生み出されたモンスターですよ?」


 R2技術とは具現現実技術……通称、リアル・リアリティのことである。


 ジサンにはその表情は見えていなかったが、サラは困ったように苦笑いしてみせる。


「……」


「……忘れてましたか?」


「すまんな……難しいことはわからない」


「……」


「だけど、それは俺にとってそれ程重要なことじゃないように思える……」


「え……?」


“君みたいな目的も信条もない、失うものもない。故に怖いものもない。命知らずの無敵の人……素晴らしいと思うよ”


 ジサンはふと、日中、ヒロに言われた言葉と以前であれば生じなかったであろう些細な対抗心のことを思い出していた。

 確かに目的も信条もない……だけど。


「お前は失うモノが何もなかった俺に失うモノをくれた……」


「っ~~!!」


 失う怖さを教えてくれたとか、素直に大切だと言えないのが不器用なジサンらしさではあったが、サラには自分がジサンにとって”失いたくないモノ”であるということを十分に認識できた。


(ん……?)


 サラからの返事はなく、なぜかブクブクという音が聞こえてくる。


「さ、サラ!? …………?」


 サラは顔を半分くらい沈めて、プクプクしていた。


「…………なにしてるんだ?」


「ちょっと逆上のぼせてました……」


「……はぁ……」


 少し困り顔をするジサンに、サラは呟く。


「……だからって……失わないで……くださいよ?」


「そうだな……それこそ命に代えても」


「っ~~~! って、そ、それじゃあ意味ないじゃないですか!」


「冗談だ」


「~~~~っ!」


 あ、あのマスターが冗談を~~!? と、すっかりやられてしまった大魔王様であった。



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