54.おじさん、修羅場?
「あ、待ってましたよ! オーナー……って、そちらは……」
1Fエレベーターホールではシゲサトがジサンのことを待っていた。
そしてジサンとサラ以外のメンバーがいることに気付く。
逆にツキハらもジサンが待ち合わせしていた人物を視認する。
「あれ……どこかで……」
シゲサトとツキハが共に何かを思い出そうと眉間にシワを寄せている。
「シゲサト……さん!?」「月丸隊!?」
互いにボス討伐メンバーとして公開されている写真と目の前の人物の顔の整合性が取れたようだ。
◇
「こちらこそ初めまして。シゲサトって言います」
それぞれが適当に挨拶を済ませる。
「それにしてもジサンさんの待たせている人って、シゲサトさんだったんだ」
ツキハが言う。
「あ、はい……シゲサトさんはここの98Fのオーナーでして……」
「へぇ~」
「今は仙女の釣竿を目指し、共に行動しています……」
「な、なるほどなるほど~」
ツキハは少々、引きつったような笑顔を見せる。
ツキハはシゲサトを一目見た時から、シゲサトを女であると認識したのであった。
ツキハから見ると、ジサンが新たなる女の子と共に行動しているわけであり、少々、引っかかるところがあったわけだ。
「月丸隊の方々にお会いできるなんて光栄です!」
一方のシゲサトはひょうひょうとしたものだ。
シゲサトから見れば、ジサンは単なる同性の人生の先輩的なおじさんである。
「エデンをソロで倒した貴方も相当だと思うけど……」
「いえ! やはり元祖の四魔王討伐の二パーティは格が違うと思います……!」
「え? えへへ……そうかしら……」
ツキハは満更でもなさそうだ。
「あ、そういえばツキハさん達は今は何をしているのでしょう?」
「あ、はい……!」
ジサンに訊かれて、ツキハはちょっと驚く。
「えーと、今はとりあえず魔帝は狙っていません。私達にとってはそれほど魅力的な報酬もないので……」
「なるほど……」
「それで何をしているかと言うと、当面のターゲットは大規模DMZが報酬の大魔王:ルイスレス……そして、大魔王:ネコマルかな……」
(人々のために……か……)
この人達もブレないなぁと思うジサンであった。そして……
「月丸隊さんもネコマルを狙っているんですね……」
(あ……)
シゲサトの目標もネコマルであることを思い出す。
(……やばい……! 修羅場か……!)
「実は俺も狙っているんです!」
「っ……!? え……!?」
ツキハは嘘でしょ? とでも言うようにとても驚く。
「あ……えーと……」
シゲサトはその反応に悪いことをしたかのように顔を曇らせる。
だが、ツキハが驚いたのはシゲサトの一人称が〝俺〟であったことであった。
つまり……男の子!!
「そ、そうなんですね! 互いに頑張りましょう! こちらもネコマルの討伐は誰が達成してもいいと思っているし!」
ツキハの表情は明るい。
「はい……!」
シゲサトも返すようにニコリと微笑む。
「でも、ネコマルってどこにいるんだろうなぁ……場所の情報も一切、公開されていないし……」
「そうですね……」
「そもそも大魔王ランクそのものの手掛りも一切ないんだけど……!」
「こちらもです……!」
(…………)
傍らの山羊娘を見て、少々、冷や汗をかくジサンであった。
「あっ、そういえば、ずっと聞いてみたかったのですが、月丸隊さんってどうしてボス攻略を目指しているんですか?」
「えっ……?」
「ちなみに自分は外の世界を見てみたいからです。このニホンの外はどうなっているのか、俺はそれが知りたいのです」
「な、なるほど……」
シゲサトの無邪気な質問にツキハらは一瞬、硬直する。
ジサンはあまり他人のことを深追いすることのないタイプであるが、言われてみると、確かにどうしてだろうと思う。
人々のためだろうというのはわかるが、何の動機もなく人々のために戦うのはしんどいであろう。
「そうね……月丸隊もメンバーがそれぞれ違う思いを持っているし……ちょっと口に出すのは恥ずかしかったりもするのだけど、とりあえず私は〝子供達のため〟かな……」
「おぉ……!」
シゲサトはシンプルに感嘆する。
「ゲームが始まってから子供が安心して遊べるところはなくなってしまったじゃないですか……比較的安全な場所はあるにはあるけど、それでもどこにいても以前より危険になり、子供が外で遊んだり、親が子供を遊ばせたりすること自体を不謹慎という目で見る人も少なくないです」
「……そうですね」
シゲサトは真剣に聞いている。
「それである日、見てしまったんですよ。外で遊んでいる子供が大人に激しく注意……いや、罵倒されているのを……」
(……)
「子供達はただ無邪気に遊びたいだけなのに……でも罵倒している大人だって本質的には彼らに危害が及ばないようにって思ってのことだったと思う……そう思うと何だかやるせなくて……今思うと、割と衝動的な理由だったのかもな……」
「そうだったんですね……でも、月丸隊の皆さんが第四魔王:アンディマを倒して獲得したDMZのおかげでその中では安全に遊べるようになりましたね!」
「うん……そうなんだけど……」
モンスターがポップすることがない非武装地帯……通称、DMZに指定されたエリアはコウトウ、マチダ、カワサキ、トコロザワの四エリアであった。
「DMZはカントウの一部の地域だけだし、しかもいるのは子供じゃなくて、カネを持った賢い大人ばかり……」
(……)
「その後にプレイヤー同士の攻撃が可能になる仕様変更なんかも出てきて……回帰日も全然安全じゃないみたいだし……」
回帰日とはダンジョンが期間限定で元の姿に戻る日のことである。ジサンもかつてカモガワ・オーシャンワールドにおいて回帰日にモンスターの襲撃が起こる事件に出くわしていた。
「そんなことがあると、流石にちょっと思っちゃうよね……私達がやったことって意味あったのかな……むしろやらない方がよかったのかなって……」
ツキハは幾分、俯く。
「意味ならありますよ!」
が、そんなツキハにシゲサトが強く言う。
「えっ……?」
「皆さんのおかげで、ネコマルが解禁されて、俺は〝外の世界〟への希望が開けたのですからっ!」
「っ……!」
「って、そんなのは気休めにもならないですかね」
シゲサトは苦笑いするように言う。
「いえ……そう言ってもらえると嬉しいよ。ありがとう……」
ツキハは穏やかに微笑む。
(子供のため……か……そういえばサラと出会った時、〝俺に子育ては無理だ〟……なんて思ったっけな……)
「え、えーと……? どうかしましたか? マスター」
「い、いや……何でも……」
ジサンはいつの間にか凝視してしまっていたサラにそのことを指摘され、慌てて目を逸らす。
◇
「そういえば、偶然こんなものを手に入れたのでジサンさんにあげます」
一通り話を終え、そろそろ解散という流れになった別れ際にツキハがジサンに何かをくれる提案をする。それは〝黄金の釣餌〟という魔具であった。
「え!? こんな良いものいいんですか!?」
ジサンは非常にいい反応を示す。
「あ……はい……ジサンさん……喜ぶかなって……たまたま入手したんですけど……私達……釣竿持っていないし……」
ツキハはそのジサンの想定以上の反応に少しタジタジになる。
「ありがとうございます……! え、えーと、それでは代わりに……何か……」
ジサンは代わりにディクロの報酬であった〝誘引石〟という魔具をツキハに渡す。
「え!? これ……貰っちゃっていいんですか?」
「え!? マスター……! いいんですか?」
サラも驚くように言う。
「いいんです……私は使わなそうなものなので」
「…………」
ツキハはその効果を見つめている。
「あ、あの……これ……ジサンさんに使っても……?」
「勿論です。いざとなったらいつでもお使いください」
「……! ~~~……!」
(……?)
ツキハは赤面し、何もない右下の床を見つめていた。




