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ダンジョンおじさん  作者: 広路なゆる


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05.おじさん、吹っ切れる

 ジサンは使役対象を”なし”に設定し、ナイーヴ・ドラゴンをボックスに戻す。


「え、えーとですね……テイマーというクラスがありまして……テイムしたモンスターを使役することができ……ます」


 ジサンは取り繕うように茂木彩香に説明する。


「へ、へぇー、て、テイム武器があるのは知っていたけど、テイマーのクラスがあるのはクランでも聞いたことがなかったよ……」


 茂木彩香は未だ驚きの余韻を残しつつもジサンの言葉に反応する。


「ちょっと特殊なクラスなん……ですかね……」


「そ、そうだね……小嶋くんって昔からちょっとマニアックっぽいしね!」


「…………」


 茂木彩香に悪気はないのだろうが、マニアックっぽいという印象を持たれていることにジサンは少し傷つく。


「ま、まぁ……ナイーヴ・ドラゴン……あんな見た目ですが、大したことないですから」


 大したことない(ジサンにとっては)。


「そ、そうなんだ……」


「えぇ、それこそ、その辺のスライムと同じくらいですよ」


 その辺(92階層)のスライム。


「へぇー、ちょっと意外だね」


 ジサンは相手の立場で考えるのがあまり得意な方ではない。


 こうして重大な認識相違はいとも容易く発生するのであった。


「それじゃ、小嶋くん、少し奥を目指して探索してみようか!」


「あ、はい……」


 こうして、茂木彩香とジサン、そしてチョロチョロと付いてくるサラのダンジョン探索が始まる。



 ◇



「あ、トレジャーボックスだ!」


 ダンジョンを探索していると、茂木彩香がトレジャーボックスを発見する。


 トレジャーボックスには比較的、レアなアイテムが入っていることが多い。


「えーと……」


「……どうぞ」


「ありがとうー!」


 茂木彩香は最初こそ遠慮のような姿勢を見せるが、ジサンが譲ると、ニコリと微笑み、すぐにアイテムを拾った。


 茂木彩香はジサンが男の見栄を張っているのだろうと思っていたかもしれないが、実際のところジサンにとって30階のトレジャーボックスによる恩恵など必要なかったのである。


「それにしてもモンスター全然いないね」


「……そうですね」


 茂木彩香の言う通り、今日はまだ一度もモンスターと遭遇していなかった。


 ダンジョン探索をしていたモンスターと遭遇しないなんてことはこれまでほとんどなかったため、ジサンも少しばかり不思議に思っていた。


「これなら思ったより早く到達できそう」


 茂木彩香はマップを確認しながらそんなことを言う。


「ん……?」


「ううん、何でもないよ」


 茂木彩香は何かを誤魔化すようにニコリと笑う。


 一方、サラは付いて来てはいるものの意外なほどに無暗に会話に入ってきたりはしなかった。



 ◇



 茂木彩香としばらく探索を続けていると、広めの円状の部屋に辿り着く。


 結局、ここまでモンスターとは一度も遭遇しなかった。


「何ここ……怖い……」


 茂木彩香が呟く。


 部屋の向かい側、50メートル程度先には部屋の出口と思われる通路が見える。


「小嶋くん……ちょっと先を歩いてくれる? 私も付いていくから……」


「あ、はい……」


 ジサンはちょっと面倒だなぁと思いつつも断り辛く、指示に従う。


 部屋の中央付近に差し掛かった時である。


「!?」


 轟音と共に、地面から巨大な蜘蛛のような敵が現れる。


(…………リキオン?)


 巨大蜘蛛の横にはリキオンというモンスター名とHPゲージが表示される。


(……見たことないモンスターだな。この階層の敵にしては手強そうだ……もしかしてボスか?)


「茂木さん……!」


(っ……! って、あれ……)


 付いて来ているはずの茂木さんは部屋の入口付近で待機している。


 そして悟る。


(……あぁ、やっぱりか…………俺はまた……騙されたんだな……)


 対峙するは魔公爵リキオン。魔王に次ぐ、高難易度の大ボスであった。


 茂木彩香達はギルドにて、このボスの討伐クエストを受注しており、ターゲットの位置を把握していたのだ。


 だから、ジサンをこのボスのところに誘導した。


 しかし、茂木彩香がジサンに期待することはこのモンスターの討伐ではなく、このモンスターに敗北……つまり、死亡することであった。


 プレイヤーが死亡すると、持ち物や装備品の一部をドロップする。


 プレイヤーが死亡した現場を見たことがないジサンがそれを知っているはずがなかった。


 パーティは登録しなければ成立しない。それすらもジサンは知らなかった。



 茂木彩香は学生時代からの世渡りの上手さでクランの幹部候補にまで上り詰めた。

 しかし、クランには厳しいノルマ制度が敷かれていた。多くの装備やアイテムを納品すれば幹部になれる。幹部になれば甘い蜜だけを吸うことができる。


 そんな仕組み、そして”呪いをかけた彼に対する因縁”が彼女に道を踏み外させたのかもしれない。



「ごめんね……小嶋くん……でも普通、気づくよね?」



 リキオンに襲撃されるジサンを見つめながら茂木彩香はそんなことを呟く。


 ジサンは声こそ聞こえなかったが口の動きでなんとなく何を言っているのかが分かった。


(……ちくしょう…………!)


 ジサンの心の中で何かが崩壊しそうになる。


 その時、ふいに小さな声が耳に入ってくる。


「マスター……私がいるよ……」



「っ!?」


 リキオンに襲撃される刹那……当然のように傍らにいた変な娘の微笑みがジサンの眼に妙に強く焼き付いた。


「スキル:支配」


(っ……!?)


 リキオンがジサンに初撃を加えようとする刹那、サラが呟くようにスキル名を口にする。


 と、同時にリキオンはジサンへ向けていた凶悪な大爪をサラへと向ける。


 金属がぶつかり合うような音が円状の広間に響き渡る。


 それはリキオンの攻撃をジサンが剣で防いだ結果であった。


「ま、マスター……?」


 実際のところ、ジサンにとってもサラにとってもリキオンの攻撃など取るに足らないものであったかもしれない。


 言ってしまえば意味のない無駄な行動であるが、結果的に、二人は、お互いに庇い合う。



 サラが誕生したその瞬間からジサンへ抱いていた忠誠心の正体はジサンのこの行動にあった。


 ジサンは鴨が生まれて初めて見たものを親だと思い込む……いわゆる”刷り込み”と呼ばれる現象の類だろうと考えていたが、そうではなかった。


 ジサンは無意識だったのか、心のどこかで意識していたのかは本人にも不明瞭であったが、終始、使役したモンスターを可能な限り、護り、傷付けないような立ち回りを続けていたのだ。


 AIがモンスター達に心を宿したのか、それはわからない。しかし、モンスター達は確かにジサンの姿を見ていた。


 例え、配合されたとしても、その思い、その感情に近しい何かは脈々と受け継がれていた。


 サラは言葉が使えた。だから顕在化したというだけだ。

 それまでもモンスター達はジサンへの惜しみない感謝と忠誠心を抱いていた。



「スキル:魔刃斬」



 口に出す必要はない。実際、今まで一度も口に出してなど来なかった。


 だが、その時、ジサンは不思議とそのスキル名を言葉にしていた。



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