49.おじさんのれんこん
「オーナー……煉魂の収穫ってこんなに大変なんですね……」
「そうですね……」
「マスター……泥だらけです……」
「そうだな……」
「がぅ……」「ヴォ」
「そうだな……」
「「「「「…………」」」」」
ジサン、サラ、シゲサト、ナイーヴ、ヴォルちゃんの三名+二匹はパーティ名〝ああああ〟を組んだ。
その〝ああああ〟は現在、カスミガウラ・ミズウミダンジョンにて、ターゲット:レンコーンの収穫クエストに挑戦していた。
◆
少し時を遡る。
「ジイニに挑戦するには〝ニホン三大湖ダンジョンにて指定されたモンスターをテイム〟する必要があるようです」
それ自体はボスリストの詳細メニューから確認することができた。
「ニホン三大湖は、ビワコ、カスミガウラ、サロマコの三つです」
シゲサトは指を三本立てながら言う。
==========================
【魔帝挑戦条件】
魔帝 ナード 魔具:慈愛の雫 全員瀕死時、全員全回復する
(条件)〝直近に魔王を討伐したパーティであること〟
魔帝 リバド 魔具:雌雄転換 使用者は性転換する
(条件)〝他の魔帝を一体、討伐していること〟
魔帝 ジイニ 魔具:仙女の釣竿×4 よく釣れる釣竿
(条件)〝ニホン三大湖ダンジョンにて指定されたモンスターをテイムしていること〟
○ビワコ : マナ・ナマズ(ホワイト)
○カスミガウラ : レンコーン
○サロマコ : ミミック・ホタテ
魔帝 カガ 特性:召喚獣使役 召喚獣を使役できる
(条件)〝ランクQ以上のユニーク・シンボルモンスターを三体討伐または入手していること〟
==========================
「それじゃあ、オーナー! とりあえず近場のカスミガウラでも行ってみますか」
「そうしましょう」
◆
そして、現在。
シゲサトが調べた情報によると、カスミガウラでのターゲットであるレンコーンは湖に自生する煉魂と呼ばれるアイテムを集めることで出現するということであった。
ジサン、サラ、シゲサト、ナイーヴ、ヴォルちゃん(縮小版)の三名と二体はゴム製のオーバーオールと腕までの長い手袋を着用し、泥水に浸かり、水底を漁る。
煉魂は稀に水底にドロップしている球体状のアイテムであり、水中から取り出すとゆらゆらと燃え盛るようなエフェクトが発生する。
アイテムとしてはMPを回復することができる魔具であるが、この煉魂を集めることでカスミガウラのレアモンスターであるレンコーンを引き寄せる効果があるということであった。
三名と二体が先ほどから泥水に浸かっているのはそのためだ。
かれこれ二時間は作業をしており、これまでに二十個ほどの煉魂を収穫した。
「サラ……大丈夫か?」
「……マスター?」
ジサンはサラに声をかける。身長がやや低いサラは水底を漁る姿勢になると、胸の辺りまで泥水に浸かっており、収穫の作業は中々に大変そうであったからだ。
「はい! サラは大丈夫です! むしろ、なんだか楽しいです!」
「……そうか。なら良かった」
それを聞くと、ジサンも作業を再開する。
(……)
ジサンもこういった地味な作業は嫌いではなかった。頭を空っぽにして黙々と水底を漁る。
「オーナーは……どうしてモンスターを集めているんですか?」
作業をしていると、シゲサトが世間話を持ち掛けてきた。
(……どうして……か……)
ジサンはあまり真剣に考えたことがなかった。敢えて言うなら偶然、テイム武器を手に入れたのが始まりだろう。
だが、その後、のめり込んだのには何かしら理由があるのかもしれないが、本人はそれを冷静に考えるようなタイプではなかった。
「……あまり考えたことなかったですね……」
ジサンは正直に答える。
「そうですか……」
「「…………」」
ジサンの嘘ではないが会話の発展性のない返事に話が途切れてしまう。ここでジサンは多少の成長を見せる。
(……聞き返してみるか)
「シゲサトくんはどうしてですか?」
「えっ……!? えーと、そうですね……外の世界を見るために仲間が欲しかったからかもしれないですね……」
「……外の世界……?」
「えぇ……外の世界です。オーナーはニホンの外がどうなっているのか……って気になりませんか?」
「え……そうですね……多少、気にはなりますけど……」
「俺はとても気になっています。オーナーはこのゲームが始まったとき何をしていましたか?」
「え……!? えーと……恥ずかしながら安楽死の方を……」
「え!? 方をってなんですか……!」
「あ、あまり気にしないでください……」
「い、いや、気にな……」
気になると言い掛けて、シゲサトは思う。こういうデリケートなことは深追いしない方がいいか。
「まぁ、今はその気はないですよ」
ジサンは慌てて補足する。
「よかった……ちょっと驚きましたが……」
シゲサトはほっとしたような表情を見せる。
「えーと、じゃあ、僭越ながら俺の話をすると……実は海外へ渡航する飛行機の中でした」
「ほ……」
「訳あって、俺……変わるために……ずっと海外に行きたくて……それでやっと行けることになったのに……」
(……変わるために……? ニホンではできないことなのか?)
「そうでしたか……それは災難でしたね」
(……しかし、あの世へ渡航していた俺とは大違いだ……)
「話は戻りますが、仲間が欲しかった理由……それは、ゲームを攻略……つまり魔王討伐をしたかったのです! 交通手段の解放がボス攻略の報酬になっていたので、ゲームを攻略すればもしかしたら外の世界への扉が開くかもしれないって……」
「な、なるほど」
「ですが、残念ながら、そんなことを周りに言っても付いてきてくれる人はいませんでした。そんなの当たり前です。命懸けなのですから」
シゲサトは視線を逸らすように少し寂しげに言う。
「だから、誰でもいいから仲間が欲しかったのです。それがモンスターテイムのきっかけです」
「ヴォ……」
「きっかけはそんな弱さから来るものだったかもしれないですが、今は本当に彼らのことが大好きです」
「ヴォ……!」
シゲサトはヴォルちゃんの眉間を一撫でする。ヴォルちゃんは嬉しそうに目を細めている。
「ですが、月丸隊さんやウォーター・キャットさんのおかげで自分は間違ってなかったんだって思えました」
「……?」
「今の目標は大魔王:ネコマルの討伐です。ネコマルの報酬は〝航空機〟。説明によると海外エリアへの移動便の開通です。だから、奴を倒して、外の世界がどうなっているのか見てやりたいのです」
(ちゃんとした目的だなぁ……俺にはそんな目的……)
ジサンは感心する……と同時にそんな目的もない自分を少しだけ嫌悪する。
「ちなみに一度、遠くを見るためにドラゴンに乗って、可能な限り高くまで飛んでみたことがあるのです。チュウゴク大陸くらいは見えるかなぁと思い……」
「お……その発想はありませんでした。どうでしたか……?」
「何も……」
「え……?」
「何もありませんでした」
「!?」
「ニホンの外側は海上のあるところを境に完全に遮断されています。その先は暗闇です。まるで箱庭のようにぽっかりと浮かぶニホン列島がそこにありました」
(……まじか)
「本当に〝海外エリア〟なんてものがあるのかも怪しいものです」
シゲサトは真顔でそんなことを言う。
「……そうなんですね」
ジサンは外の世界に行きたいなどと考えたことはなかったが、その話を聞いて多少なりとも未知への探究心が湧いた。
(……外の世界には新しいモンスターがいるのかなぁ……)
「ってあれ!? オーナー……!」
「ん……?」
慌ててシゲサトの視線を追うと、そこには角を額に持つ美しい馬の姿のモンスターが佇んでいた。
「ユ、ユニコーン……?」
「ちっ、違います! あ、あれは……レ、レンコーンです!」
(お……!?)
よく見ると、角は一本ではなく、幾重にも重なる花弁のような形をしている。
「俺に任せてください……! 行くよ! ヴォルちゃん!」
シゲサトはそう言うとヴォルちゃんに跨がり、泥だらけであることを物ともせずに、あっという間に飛び立ってしまう。
(あ……)
勇ましいシゲサトとは対照的にジサンは出遅れる。
「ナイーヴ!」
ジサンもシゲサトを見習い、サラと共にナイーヴに騎乗する。
「がぅ……!」
しかし……
「……思いのほか…………遅いな……」
「がぅぅっ……」
「あ、すまん……」
思わず出た本音に対し、悲しそうに唸るナイーヴにジサンは謝罪する。
「マスター……戦闘中は騎乗適正がないとナイーヴも本来の実力は発揮できないようです」
(なるほどな……シゲサトくんのドラグーンはその適正があるということか……)
「そろそろ行くよ!」
一方、シゲサトは順調にレンコーンとの距離を縮めていた。
しかしそれでも、シゲサトとレンコーンの間にはまだかなりの距離があった。
だが、そこは彼にとってすでに射程範囲内であったようだ。
大きめのヘヴィ・ボウガンのような銃器を脇に抱え、レンコーンに狙いを定めている。
「くらえっ!!」
連続した発射音と共に弾丸がレンコーンに向かっていく。
◇
「無事、テイムできました! ランクはNみたいですね」
「あ、はい……それはよかったです」
シゲサトは無事にレンコーンをテイムできたようだ。
剣聖のような近接タイプもこなし、ドラグーンのような銃火器も巧みに使用するシゲサトの戦闘センスは非常に高いようであった。
「あれ? 手持ちの煉魂がなくなってますね……」
「え? あ、本当ですね……」
ジサンもアイテムメニューを確認する。どうやらレンコーンを引き寄せることに成功したことで、煉魂が消費されたようであった。
「でも、これでカスミガウラでの条件は満たしました。えーと、次は……」
シゲサト、サラ、ナイーヴ、ヴォルちゃんは煉魂収穫による心地よい疲労感と共にほっと一息つく……のだが。
「あの……」
「はい……?」
「私も……」
「え……?」
「私も……レンコーンが欲しいのですが……」
「「「「………………!」」」」
二人と二体は硬直する。




