42.おじさん、バグる
「なんだか久し振りですね!」
「そうだな」
「ここはマスターとサラの馴れ初めの場所……」
(馴れ初めって……相変わらず……ませているな……)
ジサンとサラは久し振りにカスカベ外郭ダンジョンに来ていた。
「それじゃあ行くぞ」
「はい!」
「特性:地下帰還」
◇
「よし……」
地下帰還は無事、成功し、彼らの最高到達階層である92階層の生活施設に到達する。
「マスター!」
「ん……?」
サラが警戒感のある声を発する。
「お!?」
その視線の先に誰かがいた。
その人物はなぜか置いてあった高級そうなソファでめちゃくちゃ寛いでいた。
「いらっしゃーい」
「あ、どうも……」
少女は色白、碧眼、碧髪に金のカチューシャ、飾り気のない白いワンピースだけを着ており、人間離れした雰囲気を醸し出している。
サラ同様、見た目年齢の割に出るところは出ており、ワンピースを着崩していることもあり、少々、ハラハラする格好である。
特記すべきはいつも堂々としているサラがジサンの陰で萎縮していることだ。
「あ、自己紹介します。私、色々兼務しまくりのリスティアって言います」
「リスティア? リスティア……リスティア!? 魔神の!?」
「そうそうそれ! 正確には魔神だけど」
「あ、そうなんですか……」
「……」
リスティアはエッヘンとでも言いたげな顔で胸を張っている。
魔神ということはモンスターであるはずだが、名称は表示されていない。
このクラスになると色々と権限が付与されているのだろう……しかし、なぜこんな所に……などと思いつつ、
「それではまたいずれ……」
ジサンは生活施設を出ようとする。
「ちょっ! 待ってよ!!」
「え……?」
ジサンはリスティアをテイムしたい。正直言ってとてもしたい。だが、まだ魔神には敵わないだろう。そのように思っていた。
サラにもう死んでもいいなんて思わないと言った手前、勝算の低い戦いには挑まないことにしたのだ。
「その反応はびっくりするなー。せっかく来たんだからちょっとくらい話聞いてってよ」
「はぁ……」
(ということは、この魔神様はわざわざ俺に会いに来たのだろうか……)
「魔王討伐の公表名の匿名化を許可したのはこの私なのだぞ?」
「あ、そうなのですか……その節は有り難うございます」
「あ、いえ……ご丁寧に……」
(ということは、ツキハさんの言っていた女神とはリスティアのことか。月丸隊とウォーター・キャットはすでにリスティアと交流があったということか……流石だ……)
「えーと、それで……どういったご用件で……」
「バグの件……」
「……!?」
「と言えばわかるかな……?」
「…………あ、いえ、わからないので結構です」
「えっ!? 馬鹿なの!?」
「はい!?」
確かにジサンは学業の成績が良い方ではない。
それより行間を読む、または察するという能力が人並みかそれ以下である。
「まぁ……確かに馬鹿かもしれません」
「あ、暴言を吐いちゃって、ごめんごめん」
リスティアは少し焦るような顔で謝罪する。
「いえ……」
「じゃあ、呪殺譜の件……と言えばわかるかしらん?」
「っ!?」
「端的に言うと、あれって実はバグだったんだ」
「ということは……まさか……改めて私を殺しに?」
ジサンは無意識に後ずさりする。
「いやいや、その気はないよ。呪殺譜を使った人にはちょっと気の毒だけど、プレイヤー有利のバグは基本的には運営サイドの責任なのでね」
「……では、どういったご用件で?」
「このバグは君の死亡フラグが損傷してるのが原因でして……」
「っ!?」
(つまり……どういうこと……?)
「ハード故障系のバグだから修復がそう簡単でもないんだよね。だから、今日はバグの謝罪に来たってわけ」
(いや、バグがなかったら俺、死んでたんだよな? 謝罪っておかしいだろ?)
「あ、いえ……とんでもないです」
「まぁ、一応、寿命死フラグは無事みたいなので、その辺は安心してね」
「あっ……! はい……」
(……よく意味はわからないが良いことのようだ)
「えーと……それで結局、直されるのでしょうか?」
「どちらがいいですか?」
リスティアはやや食い気味で尋ねてくる。
(死亡フラグの破損というものが具体的にどういう作用があるのかはイマイチわからないが、そりゃ……有利なら有利に越したことはないだろ)
「では、このままで……」
「わかりましたー!」
リスティアはニコリとする。
「まぁ、メリットの方が圧倒的に大きいけどデメリットもないこともないと思うよ」
(……!)
リスティアはこの一瞬だけ声のトーンがやや低くなる。
「ところでさ、バグの賠償として君に良い品物をあげるよ」
「っ!?」
リスティアは打って変わってニッコリ微笑みながらそんなことを言う。
◇
ジサンはリスティアが去った後、彼女から受け取ったアイテムを確認する。
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■魔具:モンスター・ストーン
【効果】
任意のテイムモンスター1体をランクアップさせる。
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(ランクアップとは、優勢配合と同じような効果と考えればいいのだろうか?)
「やばい人に絡まれてしまったが気を取り直して……」
「はい……マスター」
サラは少しばかり悄気ていた。
リスティアは去り際にこんなことを言っていたのだ。
『サラ、GM権の乱用はほどほどにね! 私は管轄外だけどさ』
サラは俺のためにギリギリのことをしていたりするのだろうか……
だとしたら申し訳ない……などと思うジサンであった。
「さて、とりあえず……あれを使ってみようと思う」
「あれ……ですか?」
「最強千だ」
「っ!?」
最強千とは魔王:エスタ討伐報酬であった。
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■魔具:最強千
【効果】
使用者が最上位プレイヤー同等になれる。
ただし、対象となる最上位プレイヤーとして特殊プレイヤーは除外する。
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(特殊プレイヤーとは、例えばサラのようなプレイヤーであろうか……確かに仮に魔神もプレイアブルであるとしたら、とてつもなく強くなってしまうな……)
「少々、怖くもあるがダンジョン攻略する上で自身が強いに越したことはない」
「そ、そうですね……ものは試しです。とりあえず使ってみては?」
最強クラスのプレイヤーである月丸隊と共に戦ったことで自身も決して弱くはないことはわかった。
しかし、この最強千を獲得できたことは最強の男、ユウタ不在によるところが大きいとジサンは感じていた。
「お、おう……ではいくぞ……」
「はい……」
ジサンは少々、緊張しながら宣言する。
「魔具:最強千」




