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ダンジョンおじさん  作者: 広路なゆる


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22/123

22.おじさん、メッセージ来る

 絶対に……絶対にあいつだけは許さない……


 この私をコケにしやがってっっ……!!

 奇襲なんて卑怯極まりないっっっ!!

 小嶋の分際で! 小嶋の分際で!! 小嶋の分際で!!!


 茂木彩香は(たくま)しかった。

 常人なら二度と関わりたくないと思うのが普通だろう。だが、彼女は違ったのだ。恨みが原動力となる。そういう人間も確かに存在する。だが、単純な恨みというわけでもない。彼女の場合、やや特殊な因縁が小嶋三平との間に存在していた。


『なぁ! 彩香!? あれって罰ゲームだよな?』

「っ!?」


 カスカベ外郭地下ダンジョンの一件以来、風化しかけていたその因縁がウエノでの出来事により歪な形で、より強固な姿で再燃してしまう。


「これ以上、最悪な罰ゲームがどこにあるって言うの……?」

 彼女は独り言を呟く。


 しかし、彼女は力量の差が分からない程、馬鹿でもなかった。実力勝負では絶対に勝てない。


「いいのあるじゃない……」


 だからこそ彼女はボスリストを眺め、ほくそ笑んだ



==========================

■ナイーヴ・ドラゴン ランクN

レベル:60(MAX)


HP:1392   MP:0

AT:640    AG:257


魔法:なし

スキル:剛爪、クリムゾンブレス、体を休める

特性:純粋、飛行

==========================


(……ナイーヴ・ドラゴン……今日はよく頑張ったな……しかし、レベルがカンストか……ランクNは60が成長限界ということか……)


ジサンは一仕事を終えた旅先の旅館にて、壁に寄り掛かり座りながら端末を確認していた。


(!?)


と、急に見慣れないポップアップが出現する。


(……メッセージだ)


ジサンは恐る恐る開封する。


[ツキハ:この間は助けていただき有り難うございました。何とお礼を言ったらよいか・・・ぜひ直接、お礼に伺いたいのですが、お忙しいところ恐縮ですがお時間いただけないでしょうか?]


(うお、マジか……)


ジサンは努めて冷静を装う。


[ジサン:気にしなくていいですよ]


(……)


[ツキハ:そうはいきません。何とかお願いできないでしょうか?]


(うーむ、困った……)


[ジサン:わかりました。ですが、今、すでにトウキョウを離れていまして]


[ツキハ:そうですか・・・]


(うーむ)


[ジサン:トウキョウに戻りましたら、一報入れます]


[ツキハ:有り難うございます!!]


(意外と律儀な子だ……)


[ツキハ:あ、それと、差し支えなければですが、ジサンさんはボス討伐はされていないのでしょうか?]


[ジサン:積極的には行っていないです]


[ツキハ:そうなんですね・・・お強いのに意外です・・・で、あれば図々しいようですが、魔王:アルヴァロに関する情報をもしお持ちでしたらご提供いただけないでしょうか?]


(……?)


[ツキハ:今、私達は魔王:エスタとアルヴァロの討伐を目指しています。理由はこの二魔王の報酬が凶悪すぎるからです]


==========================

魔王 エスタ

┗魔具:最強千 最上位プレイヤー同等になれる


魔王 アルヴァロ

┗魔具:呪殺譜 任意のプレイヤー一名を死亡させる

==========================


(冷静に見ると確かにすごいな……)


[ツキハ:特にエスタの方は悪人に渡ってはいけないものだと今回の件で強く思いました]


(……)


強化(バフ)弱体化(デバフ)、どちらが効果的かの話に似てるなとジサンは思う。


確かに一見、アルヴァロの方がやばそうだが、長い目で見るとエスタの方が危険ではある。


[ツキハ:差し当たって守護するダンジョンが公開されているエスタの方から行こうと思っています。エスタは挑戦条件に他の魔王を討伐していることがあるようで、すぐに他の人に取られてしまうことはないですが……]


[ジサン:なるほどです]


[ツキハ:なので、もし討伐を目指されていないのでしたら、エスタ、アルヴァロに関する情報が入りましたらお手数ですが、教えていただけないでしょうか?]


[ジサン:わかりました]


[ツキハ:それではお時間とらせてしまい、すみません。ご連絡お待ちしています]


[ジサン:わかりました]


(ふぅ……女の子とメッセージなんていつぶりだろうか……下手したら学生時代の茂木さん以来かもしれない……)


ウエノでの出来事の翌日の夜、ツキハはジサンにお礼のメッセージをしていた。


冷静に考えると来てしかるべきなのだが、ここのところ人付き合いとは無縁であったジサンは全く予期しておらず、内心かなりドキドキしていた。


(さて……)


[ジサン:アルヴァロの情報教えてくれ]


(……)


[ルィ:やっほー! 初めての遠隔利用ありがとね! 魔王:アルヴァロの情報? 有料だよ]


[ジサン:いくらだ]


[ルィ:十億カネです]


(高っ! 相変わらずぼったくりだな。流石に人助けでこれはきついな……)


[ジサン:やめとく]


[ルィ:あら、残念。たまには私のところに遊びに来てねー]


(……遠いからなぁ)


「マスター……先ほどから何をしてるのですか?」


旅館につき、浴衣姿のサラがチョロチョロと寄ってきた。


「ちょっとな……」


「ふーん、怪しいです」


「気にするな……」


「はーい」


サラは深くは詮索してこない。


「さぁ、今日はもう寝るぞ……」


「は、はい……」


ジサンは電気を消して、布団に潜り込む。


「あ、あの……マスター……」


と、サラが小さな声で話し掛けてくる。


「ん……?」


「私のこと……テイムしなくていいんですか?」


(……)


確かに”契りの剣TM”があれば理論上、サラを再びテイムすることもできた。


「……いや、今はこのままでいい」


「そ、そうですか……」


サラは複雑そうであった。


ジサンがこのままでいいとした理由はいくつかある。


まず最大の理由はサラを倒すことはできないと思っているからだ。

”契りの剣TM”によるデバフ状態では、大魔王であるサラに勝利することは超高難易度であった。


ゲーム的にサラが手を抜くことができるのかどうかも不明であった。

実際のところ、ボス:サラには”ドラマチック演出権限”と呼ばれる状況次第で強弱を変更することができる権限は付与されていなかった。


そしてもう一つはサラをテイムしない方がモンスター枠を一つ多く使えるという利点があった。


「あの……マスター」


(……今度は何だ?)


「添寝……してもいいですか?」


「……」


サラはこうして時々、添寝をしたがる。


……寂しいのだろうか?


ジサンはふと思う。

モンスターにも父や母はいるのだろうか……

今の俺は父や母に甘えたいなどとは僅かばかりも思わないが……昔はどうだっただろうか……


「あぁ……」


「有難うございます!!」


「……」


サラが背中側からピトっとジサンにくっつく。


(俺にちゃんとこの子を育てられているだろうか……)


と妙にまじめに考えているジサンは……


はわぁあああああん! ラヴ! ラヴ! マスター!! ラヴ!! 激ラヴ!!


と心の中で叫ばれているとは思っていない。





翌日……


「え……? どういうこと?」


ジサンとサラはチバの南側、カモガワオーシャンダンジョンに来ていた。


ジサンは珍しい海洋ダンジョンということで、トウキョウに戻る前にぜひとも寄ってみたかったのだ。


しかし……


(……これ、ダンジョンじゃなくて、普通の……)


それはダンジョン化する前の”カモガワオーションワールド”の姿であった。


「マスター……今日は”回帰日”のようですね」


(え……? なんて?)


「せっかくだから観ていきませんか? 私、行きたいです!」


「あ、はい……」


こうしてサラを水族館に連れて行ってやることになった。


「仕様変更以降、一部のダンジョンはこうして時々、以前の姿に戻るようになったようです」


「まじか……」


 ジサンはAIから配信される”重要なお知らせ”以外の通常の”お知らせ”は全部見ているわけではなかった。


「そうですそうです。ちなみにマスターは”リアル・ファンタジー”を支える三つの技術を知っていますか?」


「えーと……確か……具現……なんだっけ……」


「”亜空間凍結技術”、”異次元接続技術”、そして”具現現実技術”です」


「あー……そうだっけ……」


(いや、前二つは全く知らないのだが……具現現実技術は聞いたことがある)


 具現現実技術……通称、リアル・リアリティ(R2)は、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)からの飛躍技術としてAIに乗っ取られる以前から理論の提唱自体はされていた。


 仮想空間で想像されたモデルを現実重畳(ちょうじょう)するという正に魔法のような技術であった。


「この回帰日は三本柱の一つ、”亜空間凍結技術”の賜物というわけです」


「……なんて?」


「亜空間凍結技術です! ざっくり言うと、空間そのものを別の亜空間にてコールドスリープしておくというものです」


「なるほど……」


(……わからん)


「というわけで、今日はめいっぱい水族館デートを楽しみましょう!」


「え? ……あぁ」


(……全くませた子だ……)



 ◇



「うわー! すっごい綺麗! すっごーい!」


 サラはきゃっきゃっと(はしゃ)ぐ。


「カメさん! カーメさーん」


 浅瀬を再現したような展示では、美しい砂地に多種多様な珊瑚、透き通った海水の中を小魚や子亀が自由気ままに泳いでいる。


「カメさん! カーメーーさーん」


 サラは子供らしくアクリルにべたっと貼りついて子亀にしきりに話し掛けている。


 子亀が不思議そうにサラを横目に見ながら、プカプカと気持ちよさそうに浮いている。


「サラ……小さい子が真似するぞ」


(あと……角でアクリルが傷つく危険が……)


「あっ……すみません……マスター」


 サラは注意されると、すぐに離れる。


「マスター! あっちにも何かあるようです! 行ってみましょう!」


「あぁ……」


 サラはずいずいと通路を進んでいく。ジサンはそれに離れすぎない距離で付いていく。



 ◇



「やっぱりカモオーと言えば、これ! シャチのショーですよね!」


(そうだとは思うが……)


 何で生後一年強のお前がそれを知っているんだ? やはり例のデータアー……なんちゃらに情報が格納されているのだろうか、などとショーの会場のシートに腰かけながらジサンは考える。


「シャチのフォルムって素敵! 無駄がないし……それにカッコいいのに何となく愛嬌があるところとかマスターに……」


「お、おう……?」


「何と言っても自然生物最強のところが……」


「わかってるね。少女よ」


(……え?)


 隣にいた少女が突如、サラに話しかける。


 そこにいたのは神秘的な銀髪に二本のおさげ、黒地に白い目のような模様の帽子を被った華奢な少女であった。


(この少女……どこかで見たことあるような……)


「君、小さいのによくわかってるね」


 シャチのショーを見るために座席で待機していたサラに、隣の白黒の帽子を被った少女が話しかけてくる。


(ん……?)


 よく見ると、この帽子はシャチなのか……? とジサンは思う。


 リアル・ファンタジーが始まって以来、こういった奇抜な装飾品をしたり、髪色をファンタジー風にしたりするプレイヤーが増加した。


 故に、サラから角が生えていても特段、誰も気にしない。


「お姉ちゃんもシャチ好きなの?」


「愛しているね」


「へぇー! 趣味が合いますね!」


(……珍しくサラが他人と意気投合している……!?)


 これは保護者としては喜ばしいことだ……と勝手に思っているジサンであった。



 ◇



「始まるね! お姉ちゃん」


「うん! 始まるね!」


 サラと少女は両のこぶしを胸の前に出し、まるで幼い子供がワクワクするかのように待機している。


『お待たせしましたー! まもなくシャチショーの始まりです』


 気分を高ぶらせるようなアップテンポのバック・ミュージックと共にシャチ達が軽やかに泳ぎだす。


「「「わぁああああ」」」

「「「きゃぁあああ」」」


 開幕一番、シャチが水面から飛び跳ね、背中を水面に打ち付ける。


 その衝撃で大量の水しぶきが観客席に容赦なく降り注ぐ。


 当然、それは事前に予告されていたため、前列に座っている観客の防水対策は万全だ。


 子供達やお祭気質な大人はむしろ濡れることを楽しんでいるようであった。


 ジサンはなぜか空いていたギリギリ濡れない、かつ、観賞にはちょうどよい高さの最良のシートに座っていたので水害の恐れはない。


「すごいですね! すごいですね! マスター!」


「お、おう……」


 シャチ達はトレーナーを背中に載せて泳いだり、水槽の外枠ギリギリのところを迫力満点に飛び跳ねたり、時には陸上に飛び出し、愛嬌のある姿を見せたりして会場を沸かせている。



 ◇



 ショーも中盤に差し掛かり、雄大な海を思わせるクラシックなバック・ミュージックが流れている。


『シャチは体長最大9メートル、体重は8トンにも及ぶ巨大海洋生物です』


 アナウンスを背景にその大きさをひけらかすかのように最も大きな個体がプール中央で高くジャンプする。


「わぁーー! マスター……! 大きいです! 大きいです!」


 サラはジサンの二の腕を掴みながら素直な子供らしく興奮する。


『その巨体にも関わらず、水中を時速70キロメートルもの速さで泳ぐことができます。その鋼の肉体は自然生物最強と言っても差支えないでしょう』


「その上、知能も高い」


 少女はアナウンスの説明が不十分であったのか補足している。


『そんなシャチが突如、モンスターと化したらどうなるでしょうか?』



「………………え?」



 会場は凍りつく。



 ◇



 冷静に考えれば、考慮に入れるべき事態であった。


“回帰日”。仕様変更以来、時々、ダンジョンが元の姿に戻る。


 では、従業員はどうなっているのだろうか。


 人間は一律、プレイヤーにされたはずだ。


 つまり従業員は当然、NPCであった。


 そして、人々の安全が保障されているのは非武装地帯(通称、DMZ)のみ。


 ここは非武装地帯ではない。


 辺りは海中を思わせる広いフィールドに変貌する。


 シャチはどこかへ吸い込まれるように消滅し、代わりに禍々しい姿となって出現(ポップ)する。


 トレーナーはデーモンのように姿を変え、シャチの背中に載る。


「「「きゃあああああ!!」」」


 当然、会場はパニックに陥る。


 観客達は少しでもそれらから離れたいという生存本能の元、散り散りに逃げ惑う。


(やば……出遅れた……俺達も逃げるか……)


 周囲の反応に、ジサンも少々焦る。


 その間に、停止していたシャチがゆっくりと動き出す。


 とその時、誰かが透き通った声で叫ぶ。



「魔法:ギガ・スプラッシュ!!」



(……?)


 多数の水柱が”敵陣営”に襲い掛かる。


 ふと横を見ると、隣の少女がマント姿に変わり、杖を掲げていた。


 そして言う、



「私は今、猛烈に(いか)っている」



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