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ダンジョンおじさん  作者: 広路なゆる


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122/122

122.勇者さん、トウキョウ④

 トウキョウ トウキョウ学園――

 フェアリー・フィールド内――


「きゃぁあ!!」


 ツキハは”地蔵”の鉄拳を受け、数メートル吹き飛ばされる。


「っ!?」


 倒れこむツキハに対し、地蔵の群れは石の塊とは思えないほどの速度で、なおも追撃を仕掛けてくる。


「っ……! やば……」


 ツキハは転倒からのリカバリーが間に合っていない。


「うぉおりゃ!」


「ユウタ!」


 聖騎士のユウタが間に入り、盾で以って地蔵達の襲撃を受け止める。

 しかし、地蔵達は怯むことなく、その盾に何度も殴打を繰り返す。


「ぐおっ……」


 次第にユウタの体勢が崩され始める。その隙を見逃さず、一体の地蔵が弾丸のように体当たりする。


「ぐわっ……!」


「ユウタ!」


 今度はユウタが吹き飛ばされる。


「っ……!」


「ふふふ……このゴーレムは思ったより有能だニャ」


「!?」


「楽しんでくれてるかニャ?」


 ウサギとの戦闘中に突如、乱入してきた猫耳の少女はニヤリとしながら、そのように言う。


「……っ」


 ツキハはその問いに対し、憎まれ口を叩くことすらできなかった。


 何なの……?


 ツキハの頭は不可解な出来事への疑問でパンクしそうになっていた。


「……ネコマルって……本当に、あの大魔王……ネコマルなの?」


「そうニャ。魔王以上のモンスターはユニークネームなのを知らニャいのかニャ?」


「……」


 猫耳の少女の傍らには”ネコマル”という名称が表示されている。

 もしもそれが事実であるならば、彼女がネコマル本人であることは間違いなかった。


「っ……!」


 会話中の一瞬の隙を突き、ライゲキが背後からネコマルを襲撃する。


「……お話中に行儀が悪いニャ」


 しかし、ネコマルは慌てる様子がない。


「っ……!?」


 ライゲキの刃はネコマルに届こうかというところまで接近していた。

 しかし、地面から突如現れた何かが足元からライゲキに襲い掛かる。


「くっ……」


 ミミズのような姿をした生物がライゲキの身体に巻き付くように拘束する。


「目つきの悪い奴ニャ……そういう生意気な奴は嫌いじゃないニャ。キュートアグレッションっていうのかニャ? 可愛いものを見るとついつい、いたぶりたくなっちゃうあれだニャ」


「っ!?」


 二コリと微笑んだのち、高速のパンチをライゲキのみぞおちに打ち込む。


「ぐあっ……!」


「ライゲキ!」


 ツキハが自身の使役するモンスターの名を叫ぶが、ネコマルは聞こえていないかのように一定の間隔でライゲキを殴打する。


「ぐ……ぐっ……かっ……」


[魔法:メガ・ヒール]


 ライゲキの状況が悪化したことからジェネラル・ヒーラーのチユが回復魔法で生存維持を図る。


「おっ? まぁ、そりゃそうだニャ」


 しかし、ネコマルはあまり気にする様子もなく、打撃を継続する。


「ぐぁ……ぐっ……かはっ……!」


 ライゲキの声は次第に大きくなる。


「ふふふ……? 痛いかニャ? うちの攻撃は与痛覚が十倍に設定されてるのニャ。ゲームマスターに近い存在の特権って奴だニャ。回復してもらったことでかえって痛い思いをすることになったかニャ?」


「っ……」


 ネコマルはニヤリとチユの方に笑顔を向ける。


「そうか……てめぇか……」


「ニャ……?」


 ぼそりとした声が耳に入り、ネコマルは再びライゲキの方に顔を向ける。


「っ……」


 ライゲキは抵抗できないながらもネコマルのことを睨みつけていた。


「ニャ……! 君……なかなか威勢がいいニャ! 久しぶりに血が騒ぐニャ!」


 ネコマルは嬉しそうにもう一撃入れる。


「ぐぁあ゛……!」


「ライゲキ!」


 ツキハはサンドバッグにされているライゲキの元へ近寄ろうとする。


「っ……!」


 しかし、地蔵達が彼女の前に立ちふさがる。


 くっ……また……こいつらか……


 ツキハは唇を噛み締める。


 ネコマルが現れてからというもの、この地蔵が月丸隊を苦しめていた。


 なんなの……こいつら……


 ツキハらにとって、その地蔵の存在はかなり不可解なものであった。


「ふふふ……興味深いことだよねぇ……」


 ネコマルが現れてから息を吹き返したように嬉々としているウサギが話しかけてくる。


 そもそもウサギが作り出した寓話……昔話の世界のようなフィールドはいまだ継続していた。

 ネコマルはどこからともなくその世界に入り込んできたのである。

 地蔵はそのウサギが作り出したフィールドの背景であったのだ。

 つまりはそのフィールドの雰囲気を演出するためのアイテムに過ぎなかったはずなのだ。

 それがネコマルが現れてからというもの、強力な敵性存在……つまりはモンスターのような存在としてツキハらに敵意を向けてくるのであった。


「あ、あんたになんか構っていられないのよ……!」


「ひどいなぁ……ふふ……でも……まぁ、それについては僕も同意見だよ」


「えっ……?」


 ウサギがそう言った瞬間、上空から突如、何かがツキハに襲い掛かる。


「くっ……!」


 避けようとするも一瞬反応が遅れ、HPゲージ1/8程度のダメージを受けてしまう。


「なんなのっ……!」


 それは猛禽類のような姿をした鳥であった。


 どういうことなの……?


 ツキハにとってはあまりに唐突な襲撃であった。


 全く気にも止めていなかった生物からの襲撃……それによりあまり当たって欲しくはないネコマルの能力に対する予想が想起する。


「そろそろ分かってきた頃合いかね……」


「っ……」


 ツキハが気付き始めたことを察したのかウサギが嬉しそうに語り出す。


「ネコマルさんからすればフィールド全てが彼女の兵器なんだ……即ち、彼女にとってはフィールドのモブも彼女に従順なモンスターへと変化する」


「っ……!?」


 フィールド全て……モンスター? なんという自由度なの……

 これが……ランク……大魔王……


「ツキハっ!」


 ウサギ、地蔵、猛禽類に囲まれたツキハを救出すべく聖騎士のユウタが近づこうとする。


「っ……!」


 しかし、ツキハの方に集まっていた地蔵達がユウタの元へ一斉に向かっていく。


「くそっ……こいつらモブにしては頑丈過ぎだろ……!」


 ユウタは地蔵に行く手を阻まれ、それ以上、ツキハに近づくことができない。


[魔法:ヒール]


 その間にも、ネコマルによるライゲキに対する殴打は継続されている。

 まるで痛みを十分に感じやすくしているかのように一定間隔を保ち打撃を加えている。

 それでもHPの減少は著しく、HPゼロを阻止すべく、チユは回復魔法を使い続けている。


「ヒール……!? もう……!?」


 ツキハはチユが今しがた使った回復魔法が最初期に習得するものであることに気が付く。

 チユがその魔法を使用するということは即ち、魔法のインターバルが間に合っておらず、それしか使うことができないことを示していた。


「ライゲキっ……! っ……!」


「おっと、ここから先は僕を倒してから進んでもらいたいね……」


 ライゲキの元へ駆け寄ろうとするツキハの前にウサギが立ち塞がる。


「っ……」


 ダメだ……間に合わない……


 ツキハは現実に直面する。


 今回のルールは即死ルール。

 通常ルールであればHPがゼロになっても、パーティメンバーが残っていればゲームオーバーになることはない。

 だけど、即死ルールでは、パーティ四人の上限を超えることができる代わりにHPゼロは即、死を意味する。


 じゃあ、使役モンスターはどういう扱いになる……?


 モンスターだから死なない? それともプレイヤー同様に消滅してしまう……? どっち……? ……わからない……


 でも、仮に、プレイヤー同様に消滅してしまうだとしたら……――――


「っ!? ……ツキハぁ」


「ニャ?」


 ツキハから少し離れたところでネコマルが気の抜けた声をあげる。


 目の前にいたライゲキが消滅したからであろう。

 虫の息ではあったが、まだHPはゼロにはなっていなかった。

 ライゲキは使役者であるツキハへ怒りを向けるような声を上げながら姿を消した。


「ふーん……なるほどニャ」


「……」


「使役解除したのかニャ?」


「……」


 ツキハは黙っていたが、ネコマルの予想は的中していた。


 使役解除することでテイムモンスターは強制的に戦闘から除外される。

 一方で同戦闘内では別のモンスター含めて、再び使役することはできない。


「ふふふ……愚かだなぁ……」


「っ……」


 ウサギの罵りに対して、ツキハは返す言葉もない。


 自分でも理解しているからだ。

 もしかしたら使役モンスターは消滅の対象外かもしれない。

 いや、それ以上に仮に消滅の対象であったとしても、少しでも生存率を上げたいのなら、例え見殺しにしてでも残すべきだからだ。

 ましてや、彼女が自身らの生存率を下げてまでも守ったのは、本来、彼女らが敵対していたはずのAIが生み出したモンスターだ……


「ダブルスタンダードに嫌気がさすなぁ! ツキハ!」


「っ……!」


 そう言ったのは地蔵を何体か減らしていたユウタであった。


「だけど、お前の選択は間違ってねぇ! 正解かも分からねえが、今、そんなことを議論しても仕方がないだろ。切り替えていけ!」


「……!」


 その言葉に揺らいでいたツキハの感情は、一旦、冷静さを取り戻す。


「ねぇ……なんか切札あったりとかしない?」


「ねぇな……あるならとっくにやってる頃合いだろ」


「でしょうね……」


 分かってはいたし、この期に及んで切札を隠していたのならそれはそれで、腹が立つのだろう。

 だが、ユウタの想定通りの回答にツキハは肩を落とす。


「ラビット・スタンプっ!」


「っ!?」


 ウサギのパンチが地面を粉砕する。


 ツキハは紙一重でパンチそのものは回避するが、抉れて飛び散った土によるスリップダメージを受ける。


「切札がないことをポロリしちゃうなんて愚かだねぇ!」


 そんなことを言いながら、ウサギは堰を切ったように次々に攻撃を繰り出す。


「くっ……」


 ツキハは回避と剣によるガードでなんとか猛攻を凌ぐ。

 厳しいことに、ウサギだけでなく、上空からの猛禽類からの攻撃にも注意を払う必要があり、なかなか劣勢を跳ねのける糸口が掴めない。


「ふニャ~~……」


 そんな中、ネコマルは若干、退屈そうにあくびをしている姿が目に入る。


 それはまるで月丸隊に対し、「こんなものか」と告げているかのようであった。


「っ……」


 その姿を見たツキハは直感的に感じる。


 それなりの死線を潜り抜けてきた。

 だからこそ分かる……このままじゃ勝てない……

 ウサギのHPは半分程度、削ってはいるが、ネコマルはまだまだ本気を出しているようにも見えず、HPゲージは1/10も削れていない。

 根性や限界を超えたプレイング、はたまた運でなんとかなる領域を越えている。


 ツキハのHPは現在、半分をやや下回っている程度。

 プレイヤーのHPは回復技による延命が前提であり、普段であればチユのHP管理により長時間HP半分以下の状態のままとなることは少ない。

 チユの回復魔法のインターバルが間に合っていない今、現実的にはかなり危険な状態であった。

 ツキハは、かつて魔王:ノヴァアークとの戦いの最終局面で味わっていたパーティ全滅の絶望感と同様のものを感じていた。


「……っ」


 そのような状況において、ツキハの脳裏に一つのアイテムの存在がちらつく。


 リアル・ファンタジーは戦闘へのアイテム持込に関し、かなりシビアの設計であるものの勇者には貴重なアイテム持込枠がひとつある。


 そのアイテムは、かつてとあるおじさんから授かった物であり、お守り代わりに常に手持ちに入れていたのである。

 アイテム名は”誘引石”である。


 ==================================

 ■魔具:誘引石

 【効果】

 任意のフレンドを自身の元に召喚する。

 フレンドは召喚された際、拒否することができる。

 また、パーティメンバーも同行するか否かを選択できる。 

 ==================================


 この魔具なら他人頼りではあるものの形勢を変えることができる可能性がある……


 その”他人頼りである”という点ゆえにツキハはこれまで使用することすら考えたことはなかった。


 だが、今の状況は呼ぶならば、”誰を”を考えるに至るには十分であった。


 対象は……


 …………ミテイ……


 彼女が最初に候補として、脳内で具体化したのは、ウォーター・キャットのミテイであった。彼とは旧知の仲であり、共に第四魔王:アンディマに挑み、ノヴァアークとの戦いでは自分が命を懸けて、助っ人もした。貸しは十分だ。


 だが、彼女の脳内では、別の映像が蘇る。

 それは、このアイテムを受け取った時の会話であった。


 ◆


「あ、あの……これ……ジサンさんに使っても……?」


「勿論です。いざとなったらいつでもお使いください」


 ◆


 …………ジサンさん……


「…………――――」


 …………ダメだ…………やっぱり使えない……!


 ウォーター・キャットも……ましてやジサンさんを、こんな危険な状況に呼び出せるわけない……!


「ニャー、ちょっと飽きてきたニャ」


 ツキハがウサギの猛攻を凌ぎながらも、葛藤する中、ネコマルがふいにそんなことを呟く。


「っ!?」


 その言葉は、この場を終わらせることを決定したことを予感させるには十分な発言であった。


「ウサギ、さっさとやるニャ」


「承知しました」


「っ……」


「では惜しみなくいきましょう……スキル……」


「くっ……」


 ツキハは唇を噛み締める。


「待つニャ、誰かいるニャ」


「えっ……」


 ネコマルが何かの存在に気が付き、ウサギを制止する。

 その場にいた全員が一瞬そちらの方向に目を向ける。


「…………」


 そこには黙って立ち尽くす人物…………いや、サメがいた。

 体形からして恐らく男性であろうか。


 しかし、次の瞬間には、変化が起きる。


 サメ男性は自分のヒレに変わった腕を何度も確認しており、めちゃくちゃ狼狽えているのである。


「えっ……誰……?」


「よくわからないが部外者が迷い込んだみたいだな……」


「え……」


「僕のフェアリー・ワールドに入った敵は、皆、ランダムにアニマル化する」


「っ!?」


 それは先刻、ツキハらも苦しめられた効果であった。

 ツキハはタヌキ、ユウタはカメ、チユとライゲキはサメ化した。


 この男性もチユやライゲキのようにサメ化してしまったのであろう。

 先般のチユに起きた事象から推察するに、サメ化すると一部の技を除き、魔法やスキルを封じられてしまうようであった。


 ……関係ないプレイヤーが迷い込んだ……? まずい……


 ツキハにとってはより状況を悪化させるものであった。しかし、同時にこれ以上、悪くなり様がなくもあった。


「まぁ、一般プレイヤーの雑魚は放っておいてもいいだろう……あとでいかようにもすればいいのだから……」


 辛いことではあったが、ウサギの発言の通りであった。


「改めていくよ……」


「っ……」


「スキル……ラビット・ビート……!」


 そのスキルは空中に鉄拳を繰り出すことで、赤く揺らめくエネルギーの塊が飛翔する鉄拳となって対象を叩きのめす。


「っ……」


 ウサギが空を乱打する体勢へと移行したその時……


「がはっ……!」


 何かがウサギに咬みついた。


「えっ……?」


 ツキハは唖然とする。


 ウサギに咬みついたのはサメだ。


 先程、突如、迷い込んできたサメ一般男性であった。


 そして……


「あぁああ! マスターが魚に……! いくら水族館のことが気になっているからって、ご自身が魚になんてならなくても……!」


「っ!?」


 気付くとその場にはもう一人…………山羊のような角がついた少女がおり、何やら騒いでいる。


 ついさっきまで退屈そうにしていたネコマルは目を見開く。



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