120.勇者さん、トウキョウ③
トウキョウ トウキョウ学園――
フェアリー・フィールド内――
地面を振るわせる鈍い破壊音が響き渡る。
「くっ……!」
ウサギの振り降ろすような右ストレートを辛うじて回避したツキハが唇を噛み締める。
何とか打開しなきゃ……ツキハは劣勢を覆すための糸口を探す。
「さぁ、いくよ……スキル:ラビット・ビート……!」
「っ!!」
ウサギがシャドウボクシングするかのように空中に鉄拳を何度も見舞う。
するとその鉄拳はウサギの拳を飛び出し、赤く揺らめくエネルギーの塊となってツキハの方向に飛翔していく。
「やばっ……」
「ほれほれほれ! ほれほれほれほれほれ!!」
ウサギは腕が何本もあるかと錯覚するような速度で空中にパンチを繰り出す。
その打撃回数と同じだけエネルギー体は放出される。
「くっ……」
断続的に放たれた拳は絨毯爆撃のようにツキハを襲う。
すでにHPが半分以下となっており、背中の炎による固定ダメージも継続している。
頼りのチユはサメ人間にされており、回復魔法が封じられており、これ以上の被弾はツキハにとって致命的であった。
「っ……! スキル:ブレイヴ・ソード!」
大量の赤いエネルギー体がターゲットに到達しようかという際、ツキハの剣から強い青白い光が放たれる。
「……ふむ」
赤い光は青い光と衝突することで独特な破裂音を発しながら消滅していく。
「流石は勇者のブレイヴ・ソード……強い迎撃性能が付与されているようだね……回避不能という判断は間違っていないと思うよ。最大の攻撃にして最大の防御ってところかな……」
「……」
しかし、攻撃を防いだにも関わらず、ツキハの表情は晴れない。
「ふふふ……不満気な顔を見るに、切札を防御に使ってしまったようだね……」
「……っ」
その通りであった。
ブレイヴ・ソードはツキハにとって最大級の火力である。
遠距離から敵の攻撃を相殺しつつ、比較的安全にターゲットに対してまとまったダメージを与えるのが理想的な使い方であった。
相手の攻撃を防ぐために使用してしまうのは勿体ないというのはウサギの指摘の通りであった。
「そして哀しいかな……」
「なに……?」
「さっきのスキルだが……僕にとってはいくつかのスキルの一つに過ぎない……」
「っ……!」
「スキル……リル・メテオ」
「メテオっ……」
そのフレーズからツキハは咄嗟に上を確認する。
予想通り、炎を纏った岩石がいくつも発生し、地上に向かって落下し始めている。
「さぁ、どうする? しばらくブレイヴ・ソードは使えないよね?」
「ちっ……」
ウサギの言う通り、現状、ツキハに大技を防ぐ手段はなかった。
ならばと、ツキハはメテオを回避すべく、ダッシュでその位置からの離脱を図る。
「っ……!」
しかし……
「ふふふ……そのメテオは君を追跡するよ」
ウサギの言葉は事実であり、メテオは意思を持つかのようにツキハに狙いを定めている。
「くっ……」
「こっちだ……」
「え?」
岩石群が地上に次々に降り注ぐ。
激しい衝撃が繰り返し発生し、塵エフェクトが周辺一帯に発生する。
「……」
しかし、それらの落下地点を見つめる術者の顔に笑みはない。
[スキル:ホーリー・シールド]
ツキハのメニューに少し遅れて、今しがた使用されたスキル名がポップする。
「はは、悪いな、勇者さまに、ご足労いただいて……何せ俺はカメなもんで……」
聖騎士のユウタの盾から展開された山吹色の防護フィールドエフェクトが空からの攻撃を無効化している。
「…………別に……」
「まぁ、動きは遅いが、だったらもういっそ……動くのを諦めればいい」
「……」
ユウタの発言にウサギは黙っているが、やや不快そうな表情を示している。
「ってか、ユウタ、いつの間にそんなスキル会得してたの?」
「企業秘密だ……」
「は? 味方に隠す必要ないじゃない……」
ツキハは口調ほど怒ってはいなさそうだ。
「じゃ、ちょっとあんた壁になりなさい……」
「ははっ……お安い御用で、勇者さま……」
ユウタは苦笑いする。
「っ……あんたちょっとミテイみたいになってきたわね……」
「お、光栄だね……それはつまり好感度が上がって来たってことかな?」
「いや……鼻につく……」
「えっ!?」
ユウタは割とショックそうな顔をする。
「スキル:自己治癒」
その隙に、ツキハは自身に対する回復スキルを使用する。
ツキハの周囲には緑色の輝きを放つエフェクトが発生する。
炎ダメージで、いつのまにか残り1/8程度となっていたHPを一旦、回復させる。
とほぼ同時に、別のエフェクトが発生し、それによりツキハの獣耳と尾、そして背中の炎が消滅する。
「お……!」
「遅くなってごめんなさい……強い呪いだったのか効果の発動に時間が掛かってしまったみたい……」
[スキル:精霊の祈り]
ツキハのメニューに見慣れたスキル名が表示される。
「チユっ!」
そこにはサメ……の姿から元の一見、優しそうな女性の姿に戻ったジェネラル・ヒーラーのチユ、その人がいた。
「魔法は使えないけど、ただ祈るだけのこのスキルはサメでも使えたみたいね」
「おぉー、速く動ける……!」
ユウタもカメから人間に戻ったようだ。
[スキル:サイレント・キル]
「っ……」
いつの間にかウサギに斬撃が発生する。音も立てずに接近していたライゲキが小刀による斬撃を加えていたのである。これによりウサギのHPに初めてまとまったダメージを与える。
「てめえ……モンスターのくせに……」
「……」
すでにウサギの直接攻撃範囲を離脱していたライゲキは彼の毒づきに対し特に反応を示さない。
「スキル:聖剣突き……!」
「っ……!」
畳み掛けるようにユウタも攻撃スキルを仕掛けていく。
シンプルな突き攻撃は強力な一撃を繰り出す。
「くっ……」
再び、ウサギのHPが減少する。
「なかなかトリッキーなデバフだったが、振り出しに戻ったな。悪いが、ウサギさん……これくらいの修羅場……俺達は何度も潜り抜けてきてるんだわ」
「っ……」
ウサギは唇を噛み締める。
一方的と思われた形勢も均衡へと向かいつつあった。
「ニャーんか、楽しそうだニャ」
「「「「……!?」」」」
唐突に第三者の声がした。
自然と声がした方へ視線が向かう。
「……何?」
そこには身の丈150センチくらいの猫耳の少女がいた。
「おいおい……ここは動物園か……?」
ユウタがそんなことを言う。
「あの子……確か……」
ツキハはかつてジサンと待ち合わせをした時に、ジサンが職質を受けていたことを思い出した。
職質をしていたのは今回、犯行予告をしたエクセレント・プレイスのメンバーであるヒロであった。
そして確か、その少女はヒロの傍らにいた。
「ネコマルさんっ! どうしてここに……?」
ウサギは少し焦ったように少女にそのように問い掛ける。
「え……? ネコマ……ル……?」
ウサギが少女に対して呼んだその名称に月丸隊は耳を疑う。
「ニャーン、うちも混ぜるニャ!」




