115.自治隊員さん、イバラキ(地図A)
2043年6月。
世間はエクセレント・プレイスからの重要なお知らせの話題で染まっていた。
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【エクセレント・プレイスからの重要なお知らせ】
こんにちは、エクセレント・プレイスです。
突然ですが、我々はプレイヤーをゲームオーバーたらしめる手段を有しております。
この度、エクセレント・プレイスは下記のように四つの地域を同時に襲撃することを決定いたしました。
◇
日程:
2043年6月1日 13:00
場所:
トウキョウ、イバラキ、キョウト、オオサカ
(詳細は襲撃開始1時間前に発表)
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そして、
2043年6月1日 13:20
イバラキ ツクバ学園――
多目的グラウンドにて。
「ぐわぁああ゛ああ」
「カットぉおお!!」
また一人の英雄がHPゲージを失った。
「……っ」
自治部隊P・Owerイバラキ部隊に所属するグロウという青年がいた。
グロウは目の前の出来事に一層、緊張感が増大する。
今、ゲームオーバーとなったカットというプレイヤーはP・Owerの別部隊のメンバーではあった。
グロウにとっても少なからず面識のある人物であった。
襲撃イベント開始から20分足らず……すでに三名の命が失われた。
残る人数は八名。
「へっへ……流石は雑魚の寄せ集めP・Ower……手応えのねぇ連中だ……」
対峙する脅威……白いウェットスーツのような姿に、サングラスを付けた男性……モンスター”ウルトマ”がそのようなことを呟く。
「……なんで瀕死ルールが適用されないの……?」
グロウという青年の隣にいたアンという少女が納得いかない様子で零す。
”瀕死ルール”とはリアル・ファンタジー特有のルールである。
パーティ全員が瀕死状態になった場合に全員が死亡するという仕様だ。
しかし、この場においてそのルールは適用されておらず、HPゲージがゼロになれば、それは即ゲームオーバーを意味していた。
「いやまぁ、ちゃんとお知らせの中に記載されていたと思うが……原理的な部分が知りたいってことかな?」
ウルトマがニヤニヤした様子で語り出す。
「俺達はプレイヤーとモンスターの両方の性質を有する……。プレイヤーの決闘に人数制限はないように君達はパーティ上限の四名を超えて俺に挑めているよな? その代わりにモンスターの特性であるプレイヤーをキルできる点は即適用される。緊張感があって素晴らしいだろ?」
ウルトマはなおも続ける。
「しかし、あの時、せっかく逃げおおせたのに、君達……ついてないねぇ……グロウくん・アンちゃん……しかも今回はわざわざ会いに来てくれるとはねぇ……」
「っ……!」
ウルトマの発言にグロウは唇を噛む。
ウルトマの言う通り、まさかこんなにも早く再会を果たすことになるとは考えもしなかった。
まさか奴らがエクセレント・プレイスだったとは思っていなかった。
「てめえらに逃げられたせいでパンマは……」
「え……?」
確かにビワコで対峙した時に、ウルトマと一緒にいた”パンマ”という人物はいなかった。
パンマとは魔王討伐後に死亡したP・Owerの精鋭であるアーク・ヒーラーのズケの姿をしていた。
かなり不気味な人物であったため、グロウもアンもよく覚えていた。
「知り合いのよしみで、てめえらは最後に…………とか、そういう趣味ないんだわ……平等にキルしてやるよ……」
「くっ……」
グロウに緊張が走る。と……、
ピコンピコン……
「え……?」
会話をしているうちにウルトマの胸の辺りが赤く点滅を始める。
「おっと……もうすぐタイムリミットだ……」
「タイムリミット……?」
「……さっさとやるか……」
その瞬間、ウルトマのトーンは低くなる。
狩りの加速を予感させるには十分であった。
グロウは改めて思う。はっきり言って、こんなところに出向きたくはなかった。
だが、恐らく、今ここにいる八名のうちのほとんどの人間がそうであろう。
ある人は町やそこに住む人々を守るため、ある人は使命感や正義感から……そしてある人はそういった人達に引きずられ、断りきれずに……といった具合であろう。
グロウもまたその一人である。
二日前、P・Owerの方針として、“原則、近くのエリアへ向かい、そして人々を守ること”が通達された。
この方針により、それぞれの地区のメンバーがイバラキの至る場所で待機することとなる。
グロウの所属するイバラキ部隊のリーダーもこの方針に従う決定を下す。
内心、敵が自分達の配置された場所から遠いところに出現してくれることを願っていた者も少なくはないだろう。
そのように多くの者が願っているならば、必ずその誰かのところに”当たり”は回ってくる。
それを引いたのが、今、ここにいる彼らであったというだけだ。
今から1時間半ほど前のこと。
2043年6月1日 12:00(襲撃イベント開始1時間前)
エクセレント・プレイスから予告通り、通知が届いた。
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【エクセレント・プレイスからの重要なお知らせ】
こんにちは、エクセレント・プレイスです。
いよいよプレイヤーの討伐を開始します。襲撃モンスターの出現場所と名称を発表致します。
①トウキョウ トウキョウ学園
┗ウサギ
②イバラキ ツクバ学園
┗ウルトマ
③キョウト キョウト学園
┗モモ
④オオサカ オオサカ学園
┗マリン
上記、目的の場所をタップいただくことで、お手元のマップに詳細を表示致します。
以上。
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その通知を見た際のグロウの気づきは三つ。
①ウルトマという見覚えのあるプレイヤー名。
②彼らの狙いが四つの学園都市であったこと。
③今いる場所から一時間以内でその場所に辿り着いてしまうこと。
②、③はグロウだけでなく他の隊員も気づき、そして覚悟を決めたであろう。
ターゲットが学園都市であったことが逃亡の選択を難しくしていた。
だが、目の前で実際に人が死亡する姿を目の当たりにして、多くの人間は身体が思うように動かなくなる。
ただそこにいるだけの的状態となってしまう。
リアル・ファンタジーにおいて、死亡率10%を超えるような命懸けの戦いを体験しているプレイヤーはそう多くない。
「いっ、行くんだ! 学生達の若き芽をつぶすわけにはいかない!」
そのような不甲斐ない周囲の様子を見て、イバラキ部隊のリーダーはメンバー達を鼓舞する。
例え、お前が行けよと言いたくとも、こんな時でも上官の命令に逆らうことができない悲しい性を持った数名がその命令に従う。
グロウもまた前に出る。
だが、それは上官の命令があったからではない。
このような状況において、彼は自分なりに目標を設定し直していた。
友人を守りたい。
「……グロウ」
眼鏡を掛けた少女……彼女はどんな時でもどんな状況においても自分に付いて来てしまう。そういう性質を持っているのだ。
「アン……俺の後ろへ……」
「……うん」
今のこの状況は、確かに良い状況とは言えない。
しかし、前回よりは幾分マシである。
前回二人だった相手は一人、一方で、こちらはまだ八人。
そして、その八人の中には……
[魔法:マギ・フレア]
「ん……?」
かつて魔王ガハニを討伐したメンバー……魔女の”シイソウ”がいた。
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◆2043年1月
魔王:ガハニ
┗討伐パーティ<P・Ower(K選抜)>
┝ワイプ【死亡】 クラス:剣豪
┝バウ 【死亡】 クラス:ガーディアン
┝ズケ 【死亡】 クラス:アーク・ヒーラー
┗シイソウ クラス:魔女 ←この人
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ウルトマの周囲に無数の白い光が出現する。
その光球は中心地を目指し、急加速、収束し、そして激しい爆発を発生させる。
「うぉおおおお!!」
その激しい攻撃によりウルトマのHPゲージが1/4ほど減少する。
「貴方……私を無視して、どういうつもり?」
「はい?」
「はい? じゃないわよ。この私を差し置いて、なんでそこの一般兵と会話してるのよ」
「……」
魔女のシイソウはややヒステリックな様子でウルトマに言葉をぶつける。
「いや、そこの人は知ってるので……」
「じゃあ何? 私のことは覚えてないってこと?」
「えーと……はい……どちら様でしたっけ?」
ウルトマの胸の辺りの点滅に呼応するように発せられる耳に障るピコンピコンという効果音のテンポが少し速くなる。
「魔女のシイソウよ……!」
「…………だから誰だよ、それ……」
「っ…………! ふざけやがって……絶対に許さない……くらえ……! 魔法:マギ・レイ!!」
シイソウが構えた杖の先からは白く細いどこまでも続くような一筋の光が指す。
一瞬の間を置き、耳に残る破裂音を連続するような効果音と共に、無数の白い粒が直径五メートルほどの帯を形成し、レーザービームとなって、ウルトマに襲い掛かる。
「うおぉおおおっ!!」
マギ・レイの光が収まると、中からウルトマが現れる。
HPは更に1/4ほど減少し、半分程度にまで減少している。
「誰だか知らんが、流石に上位職の魔女……強いな……」
「ふん……強がっても残りHPは半分……こっちは一般兵が大多数とはいえ残り八人……とっくり後悔させ……」
BEEEEEEEEE!!
「!?」
シイソウが恨み節をぶつけようとしたその時、ウルトマの胸の点滅が激しく光り、ブザーのような音がうるさく響き渡る。
「なに……?」
「あー、タイムリミットだ……」
「どういう……?」
「ねぇ、グロウ……あれってもしかして……」
「あぁ……」
恐らくアンとグロウの想像するものは一致していた。
グロウの胸の光と効果音はリアル・ファンタジーが始まる前から、ずっと子供達の憧れとして君臨し続けた巨大変身ヒーローの物によく似ていた。
その胸の光はヒーローが巨大化していられる限界を示していた。つまり……
「あいつ……もしかして活動限界……」
その瞬間、グロウらのポップアップにメッセージが出現する。
[特性:スロースタートが発動しました]
「え……? スロースタート……?」
「言っただろ? タイムリミットだ…………お前らのな……」
「っ!?」
「ネコさんに貰った強化能力……だがまぁ、一対多だ。これくらいのことは許されるだろ?」
意味もわからなければ、そもそもほとんど耳に入っていなかったが、グロウ達はそんなことを言う敵を”仰ぎ”見ていた。
ズゴォン
「えっ?」
激しい衝撃音が聞こえた。
一瞬、何が起きたのか分からなかった。
だが、それはウルトマの足が地面を踏み潰した音であるということに気付いた。
そして、ウルトマはその足をゆっくりと元の場所に戻す。
巨大な足跡の上には踏み潰された何かが横たわっている。
「う……そ……」
その何かのHPゲージは空を示していた。
「なんで私が…………いやぁああ゛ああ゛あああああ……っ! …………――」
悲鳴は発信源の消滅と共に途絶える。
「悪いな、シイソウさん。さっきのは嘘だ。本当は覚えてる。なんたってウサギさんのきまぐれだが、わざと逃がしたんだからな……」
そう言って、相手が完全に消滅してから謝罪する巨大な男は二カッと笑う。
「う…………うわぁああ゛あああ゛ああ!!」
魔王討伐メンバーにして、P・Owerでも随一の実力者であるシイソウのあまりにあっけない幕切れ。
これにより、残った者達の大半が平常心を失い、持ち場を離れようとする。
「お、お前らっ! 持ち場を離れるんじゃない! お前ら! 降格だからなっ!!」
イバラキ部隊のリーダーの命令も脅しも意味を為さない。
所詮、寄せ集め集団の自治部隊……二階級特進や地元民の命よりも自分の命の方がよっぽど大切だ。
「ははは……! ゴキブリみてぇだなぁ……!!」
ズゴォン!ズゴォン!ズゴォン!!
ウルトマが逃げ惑う隊員を狙い、何度も地面を踏みつける。
「ぎゃぁあああああああ!!」
不運にも踏み潰された二名のHPゲージが溶けるように消失する。
「あ……やり過ぎたか……」
ウルトマはうっかりしたように呟く。
砂埃エフェクトが発生し、視界が悪くなる。
それは千載一遇のチャンスであった。
「アン……チャンスだ……! 逃げるぞ……!」
「ううん……逃げない……」
「えっ……?」
「ってか、ごめん……逃げられない……腰が抜けちゃって……どうしよう……ごめん……」
「なっ……」
「ま、適当にやれば当るか……」
「……!」
聞きたくない言葉であった。
ウルトマは砂埃エフェクトを無視して、周囲を無差別に踏みつける。
無機質な効果音が何度も何度も響き渡る。
「さて……あらかた死んだかな……」
ひとしきり周囲を踏みつけ終え、砂埃エフェクトが消滅するのを待つ。
砂埃が次第に消えていくのと比例するように、内部の様子がつまびらかとなっていく。
と同時に上空に巨大な盾を構えた男の姿が浮かび上がってくる。
砂埃内部はウルトマが予想した結果とは少々、異なるものとなっていた。
「スキル:インペリアル・ガード……」
「っ……!?」
砂埃発生の前後で死者は増えていない。
「ありがとう……よく持ちこたえてくれた……後は俺達に任せろ……」
「槍聖……ユウタ…………」
ウルトマがその人物の名を口にする。
「グッジョブ! ユウタ!!」
明るい澄んだ声が勇敢な自治部隊を守った殊勲を褒め称える。
「でもちょっと格好つけ過ぎ……」
「うるせーぞ! キサ! ちょっとくらいいいだろ!」
「魔勇者のミズカ、ヒール・ウィザードのキサ……ウォーター・キャットか……」
「えっ、あの人なんか前会った時よりでかくない? でもまぁいいか……! ヴォルちゃん! 相手があのサイズなら元のサイズでいいよね……!」
「っ!? うお……!」
「グギャァアアアアアア!!」
巨大な龍が巨人に襲い掛かる。
「ちっ……」
「大丈夫? グロウくん、アンちゃん!」
「し、シゲサト……!? 来てくれたのか!」
「当たり前じゃん……!」
シゲサトはニコリと微笑む。
「シゲ……」
「だって、地元だから!」
「ん……?」
「シゲサトさん、ありがとう!」
ミズカのお礼にシゲサトは手を上げて応える。
「遅れてごめんなさい……! ここからはこの”ごじゃっぺ”は私達が引き受けます!」
ミズカが凛と言い放つ。
「ごじゃっぺ……? まぁ、誰かしら来るとは思っていたが、ウォーター・キャットwithシゲサトって……わりかしハズレくじじゃねえか?」
ウルトマが嘆くように呟く。
「それは仕方ないよ! シゲサトさんもそうだったって最近まで知らなかったけど、なんたって、イバラキは私の……地元だから!」
「……っ!?」
地元ならば仕方ない。
◇
[サモンスキル:偉大なる海の波壁]
「ぐぉおおおおおおおおおお!」
“シャチ”が生み出した巨大な波が巨人に襲い掛かる。
その波の前には、巨人も一人の人に見える。
「すげぇ……! これが召喚獣使役か……!」
ドラグーンのシゲサトが興奮気味に見つめるのは、ヒール・ウィザードのキサが使役する巨大なシャチの姿をした召喚獣であった。
召喚獣とはそもそも一部の特別なクラスが使用できる魔法である。
しかし、通常は魔法を使用する時のみ姿を顕現し、その後、消滅する。
だが、キサの召喚獣のシャチは消滅しない。
それはウォーター・キャットが討伐したという魔帝”カガ”の報酬により” 特性:召喚獣使役”を習得しているためであった。
「魔帝の情報が発表された時、珍しくキサが絶対に欲しいと言ってなぁ……攻略中のダンジョンをわざわざ抜け出してまで、カガ攻略の旅に出たってわけですよ」
「へぇ~、そうなんですか……」
「ユウタ……余計なことは言わなくていい」
諸事情を教えてくれた槍聖のユウタに対し、キサは仏頂面を向ける。
「はは……」
二人のやり取りにシゲサトは苦笑いする。
「でも、その気持ち分かりますよ……シャチって現生生物の中ではトップクラスにかっこいいですもんね!」
「全ての生物の中で最高に素晴らしい」
キサはウンウンと頷きつつもシゲサトの発言を微妙に訂正する。
「でも……このシャチ……オーナーがうらやむかもなぁ……水族館にと……」
「え……? 何……?」
「あ、いや、何でもないですっ」
キサは不思議そうな顔で尋ね、シゲサトが慌てたように返答する。
「オーナーってジサンさんのことですよね? 水族館って何ですかー?」
横で聞いていた魔勇者のミズカが興味を持つ。
「え、えーと……」
「おいおい、随分と余裕だな?」
「「「「っ……!」」」」
「まだ戦闘は決着してないぜ?」
巨大な波を受けてもなお、倒れてはいない巨人が呆れたように言う。
「確かにそうだな……だが、お前のHPも残り1/5を切ってるし、こっちはパターンも構築できている。切札でもない限り、厳しいんじゃないですか? ウルトマさん」
ユウタが対峙する相手にそのように言う。
「ちょ……ユウタ、フラグ建てるの止めて! って、ミテイさんが言ってます」
ミズカが彼女の中に、居候している人物の言葉を代弁する。
「よく分かってるじゃねえか。そう……こっちにはまだ切札があるんだよ……」
「なっ!?」
「いいか、お前ら……覚悟しろ……この切札を使えば、この戦闘は確実に終了する……」
そう言うと、ウルトマはゆったりと重心を下げ、拳を前で構える戦闘姿勢を取る。
「来るぞ……!」
ウォーター・キャットの三人とシゲサトも緊張した面持ちで、受けの構えに入る。
「いくぜ……切札…………スキル:空高く消ゆる星……! ジュワッ!」
そう叫んだウルトマは大空の彼方へと消えていき、戻ってくることはなかった。
「………………ちょっ、逃げられてんじゃねえか!」




